047――新しい風〜生と死の輪舞曲
俺たちは領事館の地下会議室で出発直前のオクルスの分体の見送りを兼ねた最後の打ち合わせを行なった。
彼はこれから、龍大陸の北にある孤島に調査団と共に渡り、秘密結社と結託したエルダーエルスたちが過去に設置した魔大陸へ通じる転移門周辺を調べた後、彼の地へ転移する任務を与えられた。
得体の知れない未知の魔大陸への斥候は重要だが危険な使命だ。
「まー大した仕事じゃないですよ。片道任務なのは、いつもの事です。それにこれはアッシにしか出来ない任務ですんで、お気になさらず」
オクルスは普段と変わらず飄々とした口調で言った。
「冒険者ギルドでも幹部のウルラを俺の代行としてメガロクオート経由で派遣している。冒険者としての腕はいいが、指導者としては、まだまだ若輩者だ。この機会に組織運営についてしっかり経験を積ませてほしい」
ギルド長デンスは既に手を回しているようだ。
「お安い御用ですよ。冒険者ギルドが表でアッシは裏方として連携していく、そういう事ですね?」
デンスとゲンマは頷いた。
「ボクの兄さんが海上巡回するついでに調査団を孤島に運んでくれる手筈になってるよ」
「……赤龍族の皆様にはご迷惑をおかけしてます」
モジュローはエルス族として同胞の不始末に恥じ入るものがあるのか、肩身が狭そうに頭を下げた。
「君のせいじゃないでしょ。それに今回は結果として利用できそうだし、姉さんも今さら大騒ぎして和解の流れを妨げるつもりはないから、気にしなくていいよ」
「龍族の恩情に感謝いたします……」
メガロクオートの諸問題が上手く解決したからか、ゲンマの機嫌はいつもの状態に戻ったようだ。
「オクルス、気をつけろよ。あいつらは旧支配者の遺物を握っている。何が起きてもおかしくない」
俺はオクルスに話しかけた。
「ええ。油断するつもりはありませんて……新天地から皆様に生きのいい情報をお伝えできるよう頑張りますよ」
彼はウインクしてニヤリと笑った。
□
突然の嵐のような家族訪問が済んで、両親が帰還した直後、ジュンは力を使い果たしたかのように熱を出して倒れた。
その心身に掛かったストレスを考えると無理もないが、半分は自業自得でもある。
モモちゃんとジュンが仮にも相思相愛なら、両親に正直に打ち明けることも出来ようが、客観的なジュンの立場は、どう言い繕っても一方通行のストーカーだ。
第三者から見ても、何やってんの?ってなもんだ。
もっとも、現在のジュンの自治区に対する貢献度はかなり高いので傷口に塩を塗るようなことはするつもりはないが……。
「大変だったな」
寝込んだということで、お粥と摩り下ろした林檎を持って行き、一応立場上、労った。
「……はぁ」
ジュンは倒れたどさくさに紛れてフォルミカに命じて作らせた王子様コスのモモちゃんがプリントされた抱き枕を抱えて溜息をついた。
「……疲れた」
だろうな。まぁ、ゆっくり休めよ。
ここの所、タフなのを良い事にちょっと働きすぎだったし……。
「でも、そこまで嫌なら撮影会、断れば良かったのに」
ゲンマがそういうと彼女は虚無な表情で深い息を吐いた。
「……年に一回くらいなら親孝行だと思って我慢くらいするわよ、毎日だったら流石にグレるけど、アレが最後の機会になるかもしれないなら……後悔するような事はしないわ」
根は良い子なんだよなー……デンより常識を弁えてるし……と、俺が考えていると、彼女は弛緩した顔で抱き枕に頬ずりしていた。
「ふへへ……うさぎお姉様……ふひひひ」
これさえなければ、良い子なんだがなぁ……。
■
この世界に転移して、一年以上過ぎ、その間に様々な変化があった。
その変化が訪れたのは、俺を含めた地球出身の者だけではなく、この世界に住まう者にも等しく訪れた。
それはサリシスも同様で、初めて会った時は幼い少女だったのが、ここ最近は、すっかり大人の落ち着きを身につけている。
あの、名シェフのジョイスですら手を焼いていた頑固な野菜嫌いも何時の間にか克服していて様々なピクルスを積極的に食べるようになっていた。
彼女の成長を喜ばしく思うと同時に、俺の背後に着いて回っていた内気な少女が大人の女性になっていく事に一抹の寂しさを感じ、それが、ほろ苦いフレーバーとして思い出に彩りを加えた……のだが。
「あのね、カンナヅキ。びっくりしないで聞いてね」
ある日、彼女は俺の書斎を訪れ二人っきりの場で、そう言った。
ソファに並んで座った彼女は俺の手を握った。
「どうしたんだ?」
「うん……あのね……あたし……赤ちゃんができたの」
この一言で俺の脳みそは完全に停止した。
数秒後か数十秒後、フリーズから脳は復帰したが、俺は口をパクパクすることしか出来なかった。
そういえば、彼女は先日具合が悪いと言い、モナさんと二人で治療院ではない施設に入って行ったが……あれがそうなのか。
俺の子……俺の子かー、厳密にはエンダー君の子なんだろうだけど。
いやいや、誰の子だろうが、この自治区の子供はみんな俺の子供みたいなものだ。
モジュローもヴェールもトオルもセツもティモン兄弟もアン姫も、それに学校の子供たちも、みんな俺が腹一杯食わせて大人になるまで面倒見るんだ。
それが神無月のオヤジさんが、血の繋がらない俺にくれた優しさに報いる事だと思う。
俺はサリシスを抱きしめた。
「俺は父親なんだな……」
「うん、そうだよ。カンナヅキはお父さんになるの」
彼女はそっと俺の背中に手を回した。
□
俺が食堂でサリシスの懐妊を報告すると、既にみんなには周知の事実だった。
周りが「あー、やっぱり。おめでとう」と、お祝いの言葉を述べる一方で、俺は内心、村社会って怖い……と思った。
「じゃあ、治療院の仕事はいつまで続けるんだ?」
俺がそう聞くとサリシスは不思議そうな顔をして首を傾げた。
「……何を言っているの?カンナヅキ」
「だって治療院って忙しいんだろ?体に障りがあったら大変だ。もう一人の体じゃないんだから、仕事は程々にして安静にしていないと、赤ちゃんに何か有ったら大変だろ」
彼女は益々困惑した表情を見せて言った。
「どうしちゃったの、カンナヅキ。赤ちゃんはもう母胎院に預けてきたよ?」
――母胎院。
初めて聞く単語に俺の脳は本日二度目のフリーズをした。
周囲も同様に硬直して沈黙する中、ジョイスは「あっ」と言った。
「そういえば、人間領域には母胎院はないんだったな」
俺はうっかり忘れそうになっていた、ここが正しく異世界だという事を。
最近特にメガロクオートがらみで地球由来のものに触れすぎて、その感覚が知らぬ間に鈍っていた。
列強諸国、システムに管理された領域でアカウントを持った女性が妊娠すると、彼女らは母胎院と呼ばれる施設に行き、そこで母胎と呼ばれる装置に胎児を転送して、そこでシステムが一括して管理育成しているらしい。
そして一年ほど掛けて胎児が成長した時点で母親に通知が届き、家族として迎え入れるなら引き取り、そうでなかったら――一定期間親の迎えがなかったら、国の施設に送られる、そういう制度になっているようだ。
言われてみると、確かに列強諸国では――人口の多い王都でも、妊婦を見かける事はなかったが……そういう仕組みだったのか……。
龍王国が平和な割に孤児がやたら多いのはそれが理由なのだろう。
「えー?じゃあ、母胎院がなかったら、どうやって赤ちゃんまで育てるの?」
「いや……だから、大きくなるまで母親がお腹の中に入れておくんだよ……」
「うわー、それって、産まれるまで、すごく大変じゃない?」
「そうだ。人間領域では出産は女性が命がけでする行為なんだ」
「そっかー……カンナヅキのお母さんはそんな大変な思いをして赤ちゃんを産んだんだ……それじゃ心配もするよね」
サリシスはジョイスの話を聞いて、何故か俺の頭を撫でた。
■
領事館の寝室に使っている部屋には簡易な調理室が隣接していて、これまでも息抜きと称して、個人的な軽食を作って一人で食べたりしていた。
その日はメガロクオートで買った激辛カレーを昼食に作っていたら、匂いを嗅ぎつけたゲンマとモジュローとテルさんが……いつもの面々が集まってきた。
もっとも、モジュローは一口食べてあまりの辛さに悶絶して顔を真っ赤にして怒り出した。
「口の中が痛いです!これは毒物でしょう!」
だから、これは辛いぞって言ったんだがな。
「こんな辛いものがこの世にあるなんて知りませんよ!これは食べ物と定義すること自体が間違ってます!」
あんまりうるさいんで食後のチャイに砂糖をたっぷり入れたのを与えて、やっと大人しくなった。
「ボクはこれくらいの辛さでもいいかなー」
ゲンマは辛いのもいけるんだな。
「これはこれで美味しいですけど、私は中辛がいいですね」
そういいつつも、テルさんは元気におかわりしてくる。
俺は久々に辛いカレーを汗だくで食べて大変満足した。
そうして、充実した気分で鼻歌交じりに後片付けをしながら、俺は思索の海に沈んでいった。
□
モジュローは“激辛カレー”がどれほど辛いのか実際口にするまで分からなかった。
何故ならばこの世界には存在しなかったから。
そして、今日、彼の脳内に激辛のクオリアが誕生した。
その後口にしたチャイはさぞ甘く感じただろう。
エルス出身の料理人のソースとはレシピを度々交換してきたが、その中で彼は何度か「このレシピはまだ早すぎる」と言う内容のことを口にした。
例のブランデー入りガトーショコラのような何かが過剰な物や、トムヤムクンのような酸味と辛味が強いもの、豆を甘く煮た餡子のような現地ではありえないとされる物などだ。
これらは単体の味の問題というよりは、この世界に既にある味覚の伝統と衝突しているのだ。
そして、それは俺がこの世界で小説を書く上で危惧していることでもあった。
全ての物語は独立して存在している訳ではなく、その物語が生まれる前に存在する大きな文脈に依存している。
物語の源流を辿っていくと、やがては史実や神話に行き着く。
キリスト教の死と復活の概念には古代ギリシャのオルペウス教の影響が色濃くあるとされ、さらにオルペウス教は古代エジプト人の死生観の影響があり、その古代エジプトの思想の源流はナイル川の氾濫による土壌回復のイベントが関係しているらしい。
物語は生きている織物のような物で、横糸が現代性だとすると縦糸は大きな文脈だろう。
書き手は読み手が文脈を知っているという前提で物語を書くが、もし、知らなければ、どう受け止められるだろうか?
それは恐ろしく奇妙な、意味不明な論理の話になっているのではないか?
特に俺が書いているミステリ小説は近代という人類の歴史の中では特殊な時代性とは切っても切り離せない関係でもある。
観察するに、この世界の人々の精神性は中世……いや、下手をしたら古代の状態のままなのかもしれないと感じることすらある。
俺が伝えたいメッセージは彼らにちゃんと伝えられるのか……。
このまま思うがままに執筆を続けていく事に、心が勝手に意味や是非を求めてしまう。
だが、俺は思う。
この世界には地球の神話や概念と同じ名称のモノが時折見受けられるが、それにまつわる物語は残されてはいない。
旧支配者の時代にはあったのかもしれないが、少なくとも、今を生きている人々の記憶にはない。
もしかしたら、この世界は度々、俺が考える以上に、異世界からの影響を強く受け続けてきたのではないか?
俺がこの世界で物語を紡ぐ事自体が、上位存在の思惑の一部で必然であるとしたら……
「先生!ごちそうさまでした!」
振り返ると、モモちゃんが満面の笑みで皿を持って立っている。
激辛カレーを作ったとのメッセージを送ると、メンバーが俺の個室に集まり、彼らは食べながら雑談していた。
「あ、皿洗いなら、私がやりますよ!先生は休んでてください!」
俺は有無をいう間も無く、キッチンの外に出された。
□
メンバーは食後のチャイを飲み終わると仕事に戻った。
モモちゃんは後片付けを終えると、コーヒーを持って一人でソファにて寛いでいる俺の隣に座った。
……サリシスから懐妊を告げられた日の夜、俺は彼女から様々な助言を受けた。
その中に、モモちゃんとテルさんに関する事も含まれていた。
内容を要約すると、二人にもっと気を使え、というものだった。
「カンナヅキって前からモモさんのこと好きだったんだよね?」
「ま……まぁ……」
「じゃあ、もっと親身になった方がいいよー。あんなに頑張ってるんだから」
「え……えーと……サリシスはそれでいいのか?」
世間的には浮気にカウントされる行為のような気がするのだが……。
「誰に対してもいいって訳じゃないけど……あんまり変な人だったら嫌だよ?でも、モモさんテルさんならいいかな。二人とも優しくていい人だし」
……そういうものなのか……本当にサリシスは何を考えているのか良く分からない。
「びっくりですよねー。昔から良くキャベツ畑とかコウノトリとか言いますけどー」
そんな俺の複雑な心境そっちのけでモモちゃんは朗らかに話している。
「そ、そうだな」
「名前どうするんですか?男の子かな、女の子かなー?」
「ちょっと気が早いんじゃないかな……性別は……まぁ、元気だったらどっちでもいいかな」
「あはは、それもそうですね」
少し気まずくなった俺は話題を変えようとした。
「それにしても、ジュンのお姫様姿はすごかったな。普段とは全然違って……」
そこで会話が途切れた。
沈黙に耐えかねて、俺は意を決して口を開いた。
「……最近悩みでもあるの?」
モモちゃんはここの所、一人になると無表情で空を見つめている事が多かった。
俺だけではなく、サリシスや森川も気に掛けていた。
「んー……悩みって程じゃないですけど」
彼女の中で言いたい事を何とか纏めようとしている気配を感じる。
俺は待ち続けた。
「ジュンちゃんがご両親と一緒にいるのを見ていて……ああ、普通の家族って、こんな感じなのかなって……」
今まで考えた事なかったが、モモちゃんにも親御さんがいるんだよな……。
「モモちゃん……ご両親は……?」
俺がどう聞けばいいものか逡巡していると……
「もう、忘れてんじゃないかな……」
「え……」
「小さい時にお母さんが交通事故で亡くなった後、父が再婚して……弟が産まれてから……私のことが目に入らなくなったみたいで……それから、いない子として扱われたんです」
俺は頭の中が真っ白になりながら彼女の言葉を聞いていた。
「おばあちゃんが心配して様子を見に来た時に、お義母さんと話し合いをした結果、おばあちゃんが私を引き取ったんです。それから、東京のおばあちゃんの家で叔母さんと一緒に三人で暮らし始めました。父とはそれ以降、何の関わりもないです」
淡々と語る彼女の心情を想像しただけで、胸が痛んだ。
「……モモちゃん」
「あー、ごめんなさい!これ、言わないようにしてるんですよね。人に言うと気を使わせちゃうから……それに別に不幸とか不遇って事もなかったですよ!おばあちゃん裕福だったから結構いい学校に通って、好きな事も存分にさせてもらえたし!叔母さんとも友達みたいに仲よかったし!ただ……」
「ただ?」
「うん……ただ、時々気がついちゃうんですよね……自分の心に穴が空いていることに……どうしようもないんですよね……こればっかりは」
その気持ちは痛いほど理解できた。
養父の神無月の親父さんは、俺を自分の子と等しく大事に育ててくれた。
でも、それでも、自分の心に空いた穴を感じる時はあった。
母が再婚した相手が別の人だったら、自分も彼女と同じような立場になったのかもしれない。
俺は何も考えてなかった事を恥じて激しく落ち込んだ。
「……俺はモモちゃんのこと、何も知らないんだな……ごめん」
「そりゃーそうですよー、言ってないんですからー、あははは……」
今の俺が彼女に出来る事はないだろうか……うーん……ダメだ……考えても分からない。
「……俺に出来る事はあるか?」
「じゃあ、早く新作が読みたいです!特に長編が!!」
ブレないな!!俺はちょっとずっこけた。
「いや、そうじゃなくってさぁ……」
「どっちかというと、私が先生に何かしてあげたいです。この自治区に貢献したいというか。される方は……その、まだちょっと心の準備が……」
あー、うん。そうだよな……良かった……先走りしなくて良かった……。
「いやー、前の先生の印象が強かったんで、今の先生にまだ慣れてないんです……もう少し、待って頂けますか?」
それもそうだな。似てるとはいえ見た目別人だし、そんな簡単に気持ちの切り替えは出来ないか。俺自身だってまだ馴染んでないし。
「あと……私の家族の話はここだけにしてくださいね。特にジュンちゃんには……」
「それで、いいのか?」
「ええ、私が原因で疎遠になりにでもしたらそれこそ申し訳ないです。ジュンちゃんのご両親、本当にいい人でしたし」
まぁ、かなり強烈だったけど、悪い人ではないよな、大地夫妻。
「すごい勢いで、よろしくお願いされましたよー。ジュンちゃん、同年代で普通の女の子のお友達ってあんまりいないみたいで……」
「お、おう」
■
「カンナヅキ、ちょっといいかな?」
ある日の夕暮れ、サリシスは書斎を訪れた。
心なしか、あまり顔色が優れない。
「どうした?」
「……話しておきたい事があるの」
俺は彼女をソファに座らせた。
「母胎院から通知があって、赤ちゃんに異常があったんだって」
「え……」
「あのね、人間は誰でも見えない設計図を持っていて、そこに異常があったみたいなの」
見えない設計図か……前にも聞いたが、遺伝子の比喩だろう。
「大丈夫なのか?」
「うん。それで、母胎の中で少しづつ治療をするから、赤ちゃんの受け取り時期が伸びるかもしれないって。赤ちゃんは大丈夫だよ」
それを聞いて俺は安堵した。
「でも……ここからが重要なんだけど……この異常って親から子に伝わる物なの」
俺は話の先行きを予想して、緊張した。
「あたしの記録には異常は無かったから……カンナヅキだと思う」
彼女は俺の手を握った。
「どんな異常なんだ?」
「若い頃は普通なんだけど、歳を取ると体が思うように動かなかったり、勝手に動いたりして、次第に衰えて死んでしまう病気になるかもしれないって……召喚された人や、人間領域から来た人がたまになるみたい……早めに診てもらった方がいいと思う」
「……治るのか?」
「うん。ただ、個人差があるし……大人の場合だと、治療装置にしばらく浸かる必要があるの……場合によっては完全な治療に何年も掛かるかも」
「じゃあ、今すぐは無理だな……」
「でも早いうちに検査だけでもしてほしいの。いつ発症してもおかしくないから……」
サリシスは握っている手に力を込めた。
□
一人になった後、ソファに横たわり、天井を見ながら、ぼんやりと思索に耽った。
サリシスの言った病気に心当たりはある。
地球では治療法のない遺伝子性疾患だ。
流石のエリクサーでも遺伝子の不具合までは治せないだろう。
「どんだけ不幸なんだよ……エンダー君はさぁ……」
血の繋がった兄貴と継母に殺されそうになり、故郷を追われて、苦労の末に安住の地を手に入れたら、まさかの難病発覚。呪われているとしか思えんな。
救いといえば、この世界では不治の病で無さそうなことか。
「ま、直ちに死ぬって訳じゃないからいいか……」
今はまだ、自治区が安定するまでは、この場を何年も離れるわけにはいかない。
――「君は私の道化だ。道化は心配などせず踊っていればいい」
お館様の言葉が脳裏に浮かぶ。
「心配するなって言われてもなぁ……まぁ、考えても始まらないか」
どうせ人間は死ぬまで生きるのだ。
俺の終わりはそう簡単に迎えてたまるか。




