046――継承
色々あったが問題は一応解決したので、この後やる事といえばもう、宴会しかない。
俺は早速クオート土産のカレーを大鍋で作った。
辛さは五段階程あったが、子供や初めて食べる者も多いので今回は甘口にしておいた。
隠し味にコーヒーとチョコを入れるのを忘れずに。
「これ、おいしーねー」
サリシスに味見をして貰ったら気に入ってくれたようだ。
子供の好物といえば、カレーかハンバーグだよな。
「香辛料の贅沢な使い方しているな……」
「なるほど、油脂に複数のスパイス成分を溶け込ませて出汁を加える事で味を立体的に構成している……これがクオート流か!」
ジョイスと料理人は味わいながら唸っている。
「ご飯どのくらい炊けばいいかな?」
俺はジョイスに聞いた。
「この味ならパンを希望する奴もいるだろうが……この自治区、大食いの奴が多すぎるんだよな……限界まで炊いといた方がいいだろう」
流石に余るんじゃないか……と言おうとした所で背後から強い圧を感じた。
振り返るとスプーンと皿を手に持ちファイティングポーズを取っているテルさんが真顔でオーラを纏いながらスタンバってた。
「……追加も必要だな」
□
昼食では地球出身のメンバーが久しぶりのカレーに感動していた。
特に森川は咽び泣きながらスプーンを口に運んでいる。
「まさか、再びカレーライスを口にできる日が来るとは……生きてて良かった……ううっ……」
大袈裟だな。
甘口にしたのでモジュローとヴェールもちゃんと食べて、おかわりまでした。
「ボクはもうちょっと辛い方が好みかなー」
ゲンマはそう言いながらも、大盛りを平らげている。
まぁ、俺も、もっと辛くていいけどな。その内こっそり激辛カレーを作って食べるつもりだ。
そして、箝口令から解放されて自由の身になったテルさんは、凄まじい勢いでカレーを掻き込んでいた。
「……どこに入ってるのかな?アレ」
おそらく体内にブラックホールがあるんだろう。俺は事象の地平線の彼方に吸い込まれて消えるカレーを幻視した。
「んあー!もう、辛かったですわー!お話ししたかったのは山々でしたが、若輩者の私ごときでは、お母様とキャリー姉さんには逆らえなくて……先生に対して申し訳ない気持ちでいっぱいでしたわー――おかわり!」
……今、追加の追加で米炊いてるから、もう少し待って。
ムーサの長姉、キャリー・ムーサは巨人族の血を引き、ムーサの中で最も有能だと称えられているそうだ。
姉妹たちにポンコツと呼ばれている脳筋のテルさんには太刀打ち出来ないだろう。
デンたちは、親御さん方とテーブルを囲んで談笑している。
ジュンの父である、大地博士は料理が得意なようで、夕食で何品か作ってくれるようだ。
「本当ー?オレ、天ぷらが食いたい!」
トオルは口の周りをカレーまみれにして子供らしくはしゃいでいる。
そのテーブルを挟んだ向かいで、六院皆伝は、ジョイスが作った付け合せのピクルスに興味を示している。
そういえばデンは彼が『その国に住むならその土地の物を食べるべき』と言ってたとか聞いたな……現地の料理も作ってみようかな。
□
昼食が終わった後で、俺は厨房で片付けをしているローラお嬢さん付きの料理人に声をかけた。
「ソースです」
「はい?」
「私の名前、ソースです。知り合って結構経ってるんですから、いい加減名前憶えてくださいよー」
……人の名前を憶える気が無いのは俺の欠点だな……コミュ障で申し訳ない。
「別にいいですけどね……存在感が薄いって自覚はありますよ……まぁ、エルスの政治を動かすキッカケも作っていただけそうですし大目に見ましょう」
ん?何のことだ?
俺が疑問を感じていると、彼は声をひそめた。
「……これは、まだ内密の話ですが……サメイション商会に“チョコレート”を転送した所、本家の旦那様がこれでエルス族たちを動かせると意気込んでるんですよ。原料のカカオ豆は今現在クオート族が独占してますから、国交回復に一役買いそうですよ」
お、おう……恐らくは赤龍族の思惑も混じってるのだろうな。
「エルスの上層部は間接的とはいえクオート族と龍族の同盟に危機感を抱いている状況。この流れに合流する理由に足るものを探してましたから。あの天上の甘味なら保守的なエルス族たちも首を縦に振らずにはいられないでしょう」
上流階級向けの料理人だけあって政治の世界にも情報網を貼っているようだ。
「そりゃあ、命に関わりますからね。微妙な事情でも知らなかったじゃ済まないんで……で、今日は何ですか?新しいレシピの菓子でも作るんですか?」
彼は期待の眼差しでメモを取り出した。
「いや、今日はこの世界でありふれている菓子を作りたいんだ」
「……ありふれている菓子ですか?」
「そう、この世界の人が普通に口にする……素朴な伝統のお菓子で六院さんをもてなしたいんだ。何かいいの無いだろうか?」
□
日が傾き始めた午後の陽光が射す領事館の喫茶室で、六院皆伝はモジュローと歓談していた。
モジュローは地球にいるエンダー君の様子を聞いていたようだ。
「差し入れです」
俺は、ソースに作り方を教わった、この世界のお菓子をお茶とともにテーブルに置いた。
「これは?」
「この世界でよく食べられている“アルカ”というお菓子です」
「ほう、それは興味深い」
アルカはこの世界の山や森に自生する芋を茹でたものを裏ごしして砂糖を加えた後に炒ったナッツ類を加えて型に入れて冷まし固めた物を切り分けた立方体の芋羊羹のようなお菓子だ。
「うん……ゆべし餅のようだ……味わいに大地の力を強く感じる」
アルカは派手さは無いがクセがなく誰でも食べやすい味で、気に入ってもらえたようだ。
「お前はどうする?チョコ菓子もあるぞ」
「私もアルカを頂きます」
モジュローは皿に添えられた小さな木のヘラで菓子を切り分け口にした。
「毎日食べるのなら、こういうお菓子でいいのです。大体、あなたが作るお菓子は美味しさが過剰なんです」
つい先日、泣き喚いたのを忘れたのか。と、ツッコミそうになったが、言ってることは同意だ。
□
その夜の宴会は、ジョイスやソースの作った晩餐に大地博士の作った様々な揚げ物料理を加えて大変盛り上がった。
ジョイスは天ぷらやサクサクのカツに興味を示していた。
どうやら、冒険者向けの屋台で串揚げを出すことを考えているようだ。
食事が終わり子供達が寝静まった頃、俺と六院皆伝はサシ飲みする。
大学時代、彼と母は同じ学部で神話や民話の研究をしていて、よくフィールドワークで車の運転手としてあちこち連れ回されたそうだ。
「私は、そのまま大学院でも神話の研究をしていたかったが、両親にそんな道楽に時間と金を浪費するな、もっと実用的なことを学べと、無理やりアメリカに留学させられてね……おかげで思保さんには随分苦労をさせてしまったよ」
それでも、付いて行ったんだよな……。
「私が、実家と決別してアメリカで事業を立ち上げると告げた後、書き置きを残して黙って日本に帰ってしまった時はかなり落ち込んだものだ……当時は愛想を尽かされたと思っていたが……後に帰国してすぐに君を産んで再婚したと聞いた時は本当に驚いたよ。私がそれを知ったのはデンが生まれた後だったんだ」
結局のところ、母さんは六院皆伝の負担になりたくなかったのだろう。
テレビや新聞で六院皆伝が取り上げられると、養父さんと一緒にニコニコしながら見ていたので、悪感情があるとは思えない。
そもそも、あの人は古風な女だった。
自分が身ごもった事によって、思い人の自立の決意が鈍る事を恐れたのだと思う。
「そうなのだろうな……思保さんの行動に思うところは……もう少し信じて欲しかった気持ちはあるが、そうなるとデンは産まれなかった事を考えると、今更過去を悔やんでも仕方がない……」
俺は六院皆伝のグラスにワインを注いだ。
「ところで……そろそろ、私を父と呼んで欲しいのだが……ダメだろうか?」
その言葉に俺の内部で激しい葛藤が巻き起こる。
どう答えたものか迷っていると彼の表情は陰った。
「やはり……ずうずうしい願いだったろうか?」
「あ……いえ、自分が何者か時々分からなくなるんです……本当に自分が、神無月了なのか……デンやあなたと実際に血が繋がっているのは今、東京にいるエンダー君の方じゃないのか、と」
俺がそう言うと、六院皆伝はフッと笑った。
「エンダー君も君と同じような葛藤を抱えていたよ。今の自分は何者なのか、と。それでも、この事象を巻き起こした責任は自分にあるので神無月了の仕事を時間がかかっても全て引き継ぐと言っていた……しかし、彼は私を父と呼ぶことだけは認めなかった……それは道義に反していると諭されてしまったよ」
真面目だな、エンダー君は。別に好きに生きれば良いのに。
言ってはなんだが、俺はかなり自由にやってるぞ。
……何も考えてないだけともいうが。
「自分に勇気が無いせいで神無月先生に後始末を押し付けてしまったと心を痛めていたよ。モジュロー先生の安否も気にしていた。全て丸く収まったと伝えたら、きっと喜んで貰えるだろう」
その勇気って、兄貴たちと血みどろの戦争をする事だよな。
人間領域では日常茶飯事なんだろうが、それは責められないだろう。
「わかりました。では、神無月了として努力はしてみます……お父さん」
俺が何とかそう呼ぶと、父の顔はパッと輝いた。
「デンと話す時みたいに、タメ口でいいんだぞ?」
……いや、流石にそれはハードルが高い。人見知り激しくてスマン。
□
とはいえ、これまでの人生において俺の父親と言えるのは、養父の神無月のオヤジさんだろう。
見た目は人畜無害な風采の上がらない中年男性で実際“いい人”だった。
俺が小学六年生の時、新聞配達のアルバイトをやろうとして養父さんに許可を求めた事がある。
彼は少し難しい顔をした。
「急にどうしたんだい?何か欲しいものでもあるの?」
「はい……自分のパソコンが欲しくて」
「どのくらいするの?」
「えっと……六万……くらい?」
俺がそういうと、彼は腕を組んで考え込んだ後、
「その話、少し待ってね」
◇
その次の日曜日、俺は養父さんの車で街に連れ出された。
車には彼が経営している会社の従業員で二十代の青年が同車していた。
「とうさん、あんまり詳しく無いから、付いてきてもらったんだ」
「坊ちゃん、六万円のパソコンなんて使い物にならないって。今日日、会社の事務の子でももっと良い奴使ってるよ」
当時の俺としては、ネットとメールが使えればいいかなくらいに考えていた。
「そうはいっても、ゲームしたいでしょ?ゲーム。グラボも付いてない安物のマシンじゃカックカクだよー。それに動画編集とかやりたくなったら、また別にマシンが必要になって二度手間になるって!」
そうはいっても、俺は小学生だし、立場上贅沢は言えない。
「子供こそハイスペックが必要なの!俺が見繕うから任せとき!」
連れて行かれたのは駅前近くの裏通りにある小さなパソコンショップだった。
彼は店の常連らしく店員と気安く談笑しながら次々にパーツを選んでいく。
「最近のメーカー品も性能は悪くは無いけど、男なら一度は自作機っしょ!」
正直な話、自作に興味はあったが知識がなかったので候補からは外していた。
ただ、それなりの性能にしようとすると、既製品とあまり変わらない価格になる。
結果、十五万くらいのややオーバースペックなマシンとなった。
「これでも、最低限だよ!でも、十年は戦える性能だから、弟くんが大きくなった時のことを考えればお買い得だって!」
「とうさん、こういうの苦手だから、了君に手伝ってもらえると助かるよ」
「そーそー、おやっさん、今だにキーボード打つ時、人差し指しか使ってないからね!見てらんないから、代わりにちゃちゃっと片付けてあげてよ!」
そう言った後、彼は俺に耳打ちした。
「お金のことなら心配ないよ。これ経費で落とすから。おやっさん、経理に関してはデキる男だから遠慮すんなって」
◇
その後、自作パソコンは十分に使い倒した。
ネット利用が殆どだったが、ゲームもそこそこした。
養父さんに頼まれて、社内報やチラシの作成を手伝ったり、動画編集もした。
その度にお小遣いを貰って、かなり恐縮したが、振り返ると良い経験だったと思う。
高校進学の際に母方の祖父にノートパソコンを買ってもらったので、マシンは弟たちに譲ったが、二人は体育会系だったからか、あまり使わなかったようだ。
俺がかろうじて人間の善意を信じられるのは、血の繋がらない俺を息子として受け入れてくれた神無月のオヤジさんがいたからだと思っている。
■
翌日、前々から準備を重ねてきた、エリクサー作成実験を行なった。
ナス子と記録係のデンとニコラの他に、モジュロー、オルト、森川、ゲンマ、ジュン、アイディ、シモネムといった、いつもの面々に加えて大地博士も是非見学したいと最前席でかぶりついてる。
中間素材の作成や材料の下準備はナス子が全て行なったが、精霊メルクリウスの召喚は自信がないとのことで、専門家であるモジュローが執り行った。
四方からカメラで撮影する中、メルクリウスが次々に錬成を行う様を見物人たちは食い入るように眺めた。
結果、錬成は成功して、四本のエリクサーが入手できた。
その後、撮影した映像を再生しつつ、見識者たちによる雑談に花が咲いた。
「途中で何かの魔法を使ってましたね。ああ、ここです、ここ」
「これは重力魔法ですね、素材を入れる前に水に圧力を加えているように見えましたが」
「なるほど、それで加熱と冷却を加えた結果、水の粘度が上がっているからアモルファス化させているんじゃないかな?」
「意味あるのかな?その状態じゃないと引き出せない成分があるとか?」
天才たちの熱の入った議論を見ながらナス子は青い顔で項垂れた。
「……こんなの絶対一人じゃ無理……ドツボにハマって材料無駄にする前に相談しておいて良かった……」
うん。俺も何話しているのかさっぱりわからん。
それとは対照的にニコラはテカテカした顔でギークたちの会話を聞いていた。
「科学って本当に素晴らしいですね!」
■
色々ありすぎてスルーするところだったが、俺が出かけている間にデンがまたしても大発見をしていた。
領事館の地下に設置したままにしていたコピー機スクリーバのシリアルナンバーを発見していたのだ。
外部から見えにくい所に人目から隠すように記されていたらしい。
それを聞いた時に嫌な予感がして「まさかとは思うが、お前、分解するつもりだったのか?」と聞いたら、聞こえないふりで誤魔化された。おい。
さっそく彼はオルトに頼んで同じモノを二台購入する。
おかげで彼の手持ちのキャッシュは相当目減りしたようだが、それだけの価値はあるだろう。
デンはそのうち一台を分解し、組み立て直して、知的好奇心を満足させたようだ。
ただ、話はそれだけでは終わらず、彼はスクリーバに拡大縮小機能が付いている事に気が付き、既存の巻物を縮小コピーするアイデアを思いつく。
そうすることで嵩張っていた巻物を小さくし一枚のカードに収める事に成功した。
「見た目は完全にトレカですね……機能面は変わらずですが、インベントリに余裕がない人でも大量に携帯出来ますし需要はあるでしょう」
森川は太鼓判を押す。
「ええ。でも、まだまだ発展の余地はあると思いますね……」
デンの目が怪しく光る。
超天才少年の飽くなき探求はまだまだ続くようだ。
■
夕食の集まりで六院皆伝と大地夫妻が自治区に滞在している間に記念撮影をしようという話になり、その流れで大地響子たっての希望でジュンはプリンセスの扮装をすることになった。
その事にジュンは内面で複雑な葛藤をしているような表情をしていた。
トオルの解説によると、彼女は十二歳まで母親に言われるままに、お姫様のような格好をしていたが、成長するにつれて周囲の視線が生暖かい物に変化しているのに気がつき慌てて是正した過去を持っている。
この事は彼女の中では黒歴史化しているので、今では親以外の人間が当時の話をすることは禁句になってるらしい。
それは他人事なので別に良いのだが、何故かこっちにまで流れ弾が飛んできて、俺まで例の正装という名のコスプレをする事になったのは解せなかった。
「私一人だけ羞恥プレイなんて、絶対イヤ……」
「こっちは一人でも二人でも嫌なんだけど……」
「まぁまぁ、ボクも付き合うから。楽しみだねー」
ゲンマはやたら張り切ってるけど、こればっかりは慣れないんだよなぁ……。
■
撮影会当日。
ジュンのプリンセス姿はそれは見事なお姫様だった。
“プリンセス”という概念そのものと言っても過言ではないクオリティだった。
そのドレスはダンジョンでドロップしたエンチャント済みのレア装備だが、光沢のある絹生地に緻密な刺繍が加えられた見事な意匠で、丈長のスカートは優美な曲線のパニエで膨らんでいた。
衣装合わせの段階から、一目見た者は男女問わず溜息をついた。
皆は口々に褒め称えるが、本人の顔は必死に笑顔を保とうと口元が引きつっていた。
「やっぱり、よく似合うねぇ!ジュンはアタシの自慢のお姫様だよ!」
響子ママは嬉しそうに娘を抱きしめるが、本人は内心『解せぬ』といった思いが透けて見えていた。
俺が正装すると言う事で、メンバーの面々も正装していたが、森川とデンは三つ揃えの落ち着いたスーツで、現地人男性のオルトとシモネムの正装すらもっと大人しい民族衣装的なデザインだった。
なんで俺だけ謎のコスプレなんだよ。
「……俺もスーツの方がいいんだが……」
「「「「「「それはダメ!!!!」」」」」」
その場にいた全員に却下されてしまった……解せぬ……解せぬ……。
全員集合の記念撮影は、アースガード自治区の要人と冒険者ギルド幹部、それに地球からやってきた四人を加えた大人数が参加するイベントになったが、つつがなく終わった。
ただその後すぐに解放される事はなく、希望者とのツーショットの撮影が延々続いたのには参った。
ただ、みんな一生の思い出が出来たと喜んでいたので俺の不満は飲み込んだ。
メンバーたち以外にも、ヴェールやモジュロー、子供達とも撮影した。
「父上にも晴れ姿を見て貰うでございまする!」
アン姫は気合の入った礼装で俺とのツーショットに臨んだが、どのショットも迫力のある厳しい顔で選定が悩ましかった。
ジュンも俺同様、中々解放されることはなく精神的にかなり参っていたようだが、モモちゃんが途中で衣装替えをして王子様のコスプレをしてくれた。
いつものジュンなら恥も外聞もなくデレてはしゃぐ場面だが、親の目がある以上、迂闊に喜ぶことも出来ずに悶々としていた。
「ジュンちゃん、すっごく可愛いよー!」
モモちゃんはそう言いながらジュンの肩を寄せて、何枚もスマホで自撮する。
「ふえぇぇ……お姉様……うれすい……ふぇぇ」
……そろそろ休ませないとやべぇな、これ。
こうして、撮影会は日が暮れた後まで続いた。
良い思い出作りになっただろう。
■
楽しい時はあっという間に過ぎて、別れの時が訪れた。
地球からやってきた四人はメガロクオートに戻り、三百光年先の故郷に帰還する。
「名残惜しいが、我々はまだやらなければならないことがある」
大地博士の手にはエリクサーと賢者の石がある。
システムから実験協力の報酬として地球に持ち帰ることが許されたようだ。
「地球の研究所でも成分を調べてみます。何か分かるかもしれません」
彼らが再びこの地に来るのは、システムの思惑が絡むので難しいだろう。
父は俺の肩に手を置いて言った。
「メガロクオートに戻ったら帰還する前に、クオート化した夢幻界の私たちに会って君たちの力になるようにお願いするつもりだ」
「もっとも、外に出る為のポイントを稼ぐ必要がありますが、彼らなら大丈夫であろう」
彼らの優秀さはジューベーも保証してくれた。
「デン、神無月先生を頼む……私の分まで力になってくれ」
「ええ、分かってます――母さんにも……謝っておいてください」
「全くだ。リサはお前が出て行ってから禁煙を止めたんだぞ……まぁいい。それよりあまり先生方に迷惑かけるなよ?」
「うーん……まぁ、善処します。自治区に貢献できるよう頑張ります」
なんでそこ、歯切れが悪いんだよ。
「それでは、息子たちをよろしくお願いします、ゲンマ様」
「うん、任せて。姉さんも会いたがっていたから、また来てね」
父とゲンマは握手を交わし、俺たちはハグをして別れを惜しんだ。
そして、彼らはクオートの使者とともに転移門で消え去った。




