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ミステリ作家の異世界日記――小説を書こう、異世界で  作者: 黒井影絵
第6章 冒険者の条件

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038――作戦会議

 プリムムダンジョンは緊急メンテナンスの名目で封鎖した。

 看過できない問題が発見されたので安全性が確認されるまで閉鎖という告知を発布後、ギルド支部に殺気だった抗議をする冒険者が殺到した。

 実際、運営的には詫び石配布レベルの失態ではあるが、人質を取られている事を公表出来ない以上、どうにもならない。

 敵の要望通り人払いは済んだが、クソパーティ・ソルラエダ、あいつらどうやって潜入するんだ?と訝しんでいたら、顔を隠した四人が音もなくダンジョンの入り口に現れ、身に纏っていたマントを脱いでダンジョンに飛び込んでいった。

 その様子を領主館の地下会議室にて、録画されたリモート映像をタブレットで確認した。

「奴ら、認識阻害の装備でここまで来たようだね」

 ゲンマはウンザリした顔で言った。

 どう考えても、それを身に付けたままで潜入した方が良くね?

「見た所、このダンジョンで通用する程のレアアイテムとは思えませんね……それに、アピールの意味も兼ねてるのでしょう」

 デンは淡々とコメントする。

「アピール?」

「彼らの犯行声明がギルド本部に通知で届いたそうです『隷属状態の人間を支配種族から解放する。古き良き時代への回帰の為に』……そんな感じの内容でした」

「はぁ?」

 何言ってんだ、あいつら。散々迷惑かけておいて逆ギレ説教かよ。人として完全アウトの犯罪者のくせに。

「ったく……列強諸国に不満があるなら、人間領域に行けよ」

 クロード先輩が拳を手のひらに叩き込みながら言ったが、大半の人民は同じ意見だろう。

 人間領域には束縛を嫌って自由と野心を胸に抱いて旅立った召喚者や冒険者が建立した国が数多あるのだ。

「結局、好き勝手やりたいが不便な生活や地道な労働は嫌だ、と無い物ねだりをする恥知らずか」

 ジョイスも呆れ気味に頭を掻いている。

「そんな連中と手を組むような奴にトオルとアン姫が囚われてるなんて……」

 ジュンは悔しそうに歯ぎしりする。

 今にも外に飛び出しそうな程の怒りの形相だが、彼女の手はデンがしっかり握っている。



 そんな感じのやり取りをしていると、会議室の扉が開き、オクルスとアラン少年が入室した。

「……本当に面目ない。皆さんに合わせる顔がありません……が、恥を忍んで報告に上がりました」

 オクルスは深々と頭を下げた。かなり落ち込んでいるように見える。無理もない話だ。

「それを言ったら……ボクが敵を察知出来なかったのが一番悪いんだ……君のせいじゃないよ」

 ゲンマは無念そうに奥歯を噛んだ。

 龍の知覚でも感知できなかった実力不明の敵の不意打ちであるなら、その場に他の誰がいたとしても防ぎようがないだろう。

 そもそも分体とはいえ命を落としたオクルスをここで責めるのは文字通り死体蹴りだ。

「こういう仕事をしていると年に二、三回は死にますがね……しかし、ここ一番という時に無駄死にするのは悔やみきれない……分かったでしょう、アラン君。この仕事は泥まみれで薄汚い……積み上げた屍の山にいるようなものですよ……しかも死んでも報われる保証なんてないロクでもない仕事です。子供が憧れるようなもんじゃないんですよ……」

 オクルスはやるせない顔で自嘲して、自分に憧れる少年に諭すように言った。

 アラン少年の顔からいつもの不敵な微笑みは消え、青ざめた顔は真剣そのものだった。

「僕だって……悔しいです……その場にいたのに、何の役にも立てなかったんですから!」

 彼の拳は硬く握り締められて震えていた。

 ジョイスは彼の肩に手を置いて穏やかに語りかけた。

「もう一度、寮で何があったか、皆に話してくれないか?」

 アランは真っ直ぐな目で頷いて、静かに語り始めた。



 あの時、僕とトオル君は寮の一階の談話室で年少組の子供達の面倒を見ていました。

 彼らとゲームをしていると、警護のオクルスさんが異変を感じて外の様子を見に行こうとした時、影から知らない男が突然出現して、オクルスさんの背後からナイフで心臓を貫いたんです。

 オクルスさんは地面に倒れて数秒後、その姿は砂が崩れるように消え去りました。

 部屋は一瞬でパニック状態になりましたが、男は冷たく言い放ちました。

「――騒ぐな」

 彼がナイフを翳すと全員黙りこくりました。

 部屋が沈黙で包まれると、彼は満足そうに頷き言葉を続けます。

「この部屋は結界で封鎖しておきました。逃げても無駄、と言っておきましょう。これくらいのことは知能の足りない人の子でも理解できますね?」

 オクルスさんをあっさり殺す力を持つ彼が私たちをどう見ているか、言うまでもない事です。

 子供達は皆怯えて泣き出す寸前でした。

「お前達のような一様に価値がないゴミに世界の真の支配者たる魔族の役に立つ機会を与えてやるのです。尊き使命を与えてやった私に感謝してその命を捧げなさい……さて、適当に五、六匹程連れて行きますか……ん?」

 その場にいた全員が硬直して動けなかった筈でしたが、いつの間にか魔族の男の前にアン姫が立っていました。

「なんですか?あなたは?」

「――今の言葉、取り消していただこうか」

「はぁ?」

「ここの子供達は全国の施設から集められた孤児たちだ。たとえ貴様が皆殺しにしたとて、再び施設から補充される替えの効く存在――だが、わらわは違う」

 彼女は胸を張って言いました。

「わらわはベース帝国の帝王スティーブの愛娘、アン・ビクトリア・ベースである。エンダー様から黄金の林檎を賜り寵愛を受ける者である。その辺の塵芥と一緒にされるのは遺憾である」

 念の為言っておきますが、普段のアン姫はとてもいい子で、こんな尊大な物言いは決してしない子です。

 僕は彼女がこの恐ろしい魔族と交渉しようと危険な領域に足を踏み入れたのだと気付きました。

 一方、魔族の男は明らかに困惑してます。

 ベース帝国は人間世界の大部分に影響を与えている大国です。

 その帝国の継承者がこんな所にいるとは思いもよらなかったのでしょう。

「それに、人質を数頼みにするなど愚の骨頂である。ここアースガードの地では子供達でさえその身に様々な恩恵を受けている。一斉に逃げ出せば全員は捉えきれぬ。右往左往してる間に、激怒したゲンマ様に見つかり、貴様ごときその場でバラバラに引き裂かれようぞ」

 男はその情景を頭に浮かべたらしく、顔をさらに歪めました。

「ふ、ふん。お前は見てなかったのか?私、魔王国の先鋭キマリスがそこの護衛を一撃で倒したのを?」

 彼がそう虚勢をはるとアン姫はふん、と鼻を鳴らし事も無げに言い返しました。

「確かに其方は手練れのオクルス殿を一撃で倒した……後ろからな」

 アン姫の発言は男の自尊心を大いに刺激したようです。

「オクルス殿は護衛としてそれなりに強いお方であったが、それでもゲンマ様には遠く及ばぬ。そのオクルス殿にすら正面から挑む力量が無いのなら……もっと頭の方を使ったらどうだ?」

「い、い、いい加減しなさい……!」

 男の呼吸は荒れ、必死に怒りを抑えようとしていました。

「ふ、ふ……いいでしょう……連れて行く人質はあなた一人にしましょう。この中では一番利用価値がありそうですしね……」

 男が何かを書きつけた羊皮紙を放り投げた後、アン姫の腕を掴み懐から巻物を取り出した時、僕は我に帰りました。

「お、お待ちください!!」

 二人は振り返り僕を見ました。

「アン様のような高貴なお方に側周りが付かないのは不憫でございます!どうか一人だけでもお供を!」

 男は顎に手を当てて思案しました。

「まぁ……一人だけならいいでしょう。さっさと塵芥から選びなさい」

 彼に促されたアン姫はあたりを見渡して言います。

「では、トオル殿にお願いしたい」

「――ふぁっ?!」

 呆然と一連の経緯を眺めていたトオル君は一瞬動転しましたが、すぐに立ち直り、

「ははっ!アン姫様の一番の家来である、この戦士トオル。お召しとあらば、地獄の果てまでお供いたします!」

 普段からトオル君は人間世界の騎士物語に興味を示し、僕らは良く“ごっこ遊び”をしてました。彼の振る舞いはその延長線上のものでした。

 そして、彼らはそのまま、転移の巻物でどこかに消えてしまったのです。



「彼女を一人にしてはいけないと思った上での提案だったのですが……結果、自分が選ばれなかった上にトオル君を巻き込んでしまったのは痛恨の極みです……」

 俺の中ではアンは子供にしてはしっかりしているくらいの認識だったが、魔族を相手に交渉して一歩も引かない程の強さを持っていたとは思いもよらなかった。

 危機的状況に巻き込まれて帝王の血が覚醒したのだろうか……。

「いや、付いていったのがトオル君で良かったんじゃないかな」

 デンは片手でスマホを操作しながら言った。

「僕じゃ頼りないって事ですか……」

 アランはさらに落ち込んだ風に肩を落とした。

「いやいや、逆です。仮に、トオル君が残ったとしても、今みたいな客観的で分かりやすい報告は無理だったでしょう」

 デンの身も蓋もない言葉に隣のジュンは頷いた。

「確かに……あの子の説明って、やたら擬音ばっかりな上に、どうでもいい話で脱線して、いつ迄経っても要点が掴めなくてイライラするのよね」

 周囲の大人達も納得した顔で数回頷いている。それが普通の子供ってもんだが。

「それと、彼の精神力はかなり強い。きっとアン姫の心の支えになってます、そして何より……」

 そう言いつつ、デンは手元のスマホをテーブルに置いた。

 画面には近辺の地図が表示されていて、テクトム山脈の近くに赤いマーカーのアイコンが刺さっていた。

「……スマホのGPS機能か!」

「これが人工衛星を使ったものかは分かりませんが……以前調査した所、精度は高く誤差はそれほど大きくなかったです。間違いなく、この周辺に囚われているでしょう」

 ジョイスは地図を見て言った。

「ここは採掘場だった場所の近くで……確か山荘がある。今は誰もいない廃墟の筈だ」



 その後小休憩を挟んだ頃、会議室にギルド長とウォクスが入室した。

「今回は無関係な子供を巻き込んじまって申し訳ない。冒険者ギルドの持てる力を全て使って協力するつもりだ」

 部屋に入るなり、ギルド長は頭を下げて謝罪した。

 ソルラエダと魔族は俺たちとも因縁が深い関係でもあるので、そこまでギルドのせいとは思わないが、この緊急事態の解決には助力はいくらでも必要だ。

 それより、ダンジョンと人質のどちらに人員を割くべきか……。

「ダンジョンの方はとりあえず放置でいいでしょう。どの道彼らは外に出られないし、我々も今はどうにも出来ません。人質を無事に救出するのが先決です」

 デンの発言にギルド長も同意する。

「あいつらに関しては後回しだ。最悪、幹部総出で対処すればどうにでもなる……で、首領とやら、キマリスって奴の情報をもっと出してくれ。奴の仲間はどれくらいいるのか?」

()首領です。今は子供達の教師ウォクス先生ですよー。仲間はいないんじゃないですかね?」

「どうして分かる?情報を掴んでるのか?」

 ギルド長は訝しんでるが、実際彼らはどの程度本国と意思疎通が図れているのだろうか?そもそもどうやってここまで来たんだ?船か?

「龍大陸の北の方角のある孤島に内通者を使って転移門を開通させ、そこから船で来たらしいです。その途中、海の魔物に襲われてキマリス以外は撤退したか海の藻屑になったそうです」

「内通者?」

「エルス族のお偉いさんだと思いますー。アタシに隠れてなんかしてる節はありましたからー」

「あ、プロークシーのクソ野郎ですね。システムに問い合わせたら転移門設置の記録がありました。本当にあの野郎はロクでもないことしかしやがりませんね」

 テルさんは女神の微笑みで毒づいた。

「うわぁ……それ後で確認しなきゃダメな奴じゃん……面倒臭いなぁ、もう……」

 ゲンマは心底困った顔をしている。

 海がダメなら空から行くしかないからな。仕方がない。

「まぁ、後でいいや……テル・ムーサ、システム管理者権限を使って、そこの転移門の利用履歴も参照できるよね?」

「十年前に開通してから、しばらくは行き来がありましたが、五年前から利用された形跡はないですね」

 海を簡単に越えられないのが判明して侵略計画は挫折って所か。

 しかし、エルダーエルスってそんな簡単に転移門を設置できるのかよ。

 他にも未確認の転移門があるかもしれないのか?

「転移門の設置には権限を持った複数の支配種族の承認が必要な筈ですが……あ、イテレータ様とモメント様も関わっているようですわね」

「ふーん……後で問い詰めてとっちめないとなぁ……」

 ゲンマはこめかみに青筋を立ててニコニコしている。南ー無ー。

「ともかく、仲間も援軍もなし、か。それでよくやるな。余程、自分の能力と作戦に自信があるのか?」

 クロード先輩は首をひねっている。

「彼の能力は“影渡り”という、影から影に身を隠して移動するという能力です。後はあるとしたら魔大陸から持ってきた旧支配者の遺物ですかね」

 話を聞いた上でも、それで龍族を敵に回すには戦力が足りてないと思うが……。

「そういえば、ゲンマが察知できなかったのは何でだ?心当たりはあるか?」

「んー……霊気(エーテル)の濃度が高いと感知が上手く働かないくらいかな」

 霊気(エーテル)はこの星特有の謎物質で、霊樹と呼ばれる木から分泌される霧に含まれているそうだ。

「魔大陸には霊樹の大森林があって、霊気(エーテル)の霧に覆われている場所が大部分だそうですよー」

「うわー、何か嫌な場所だねー」

 ゲンマにも苦手な物があったんだ。体に悪いのか?

「別に命に別状はないけど、知覚範囲が狭まって憂鬱になるんだよ……魔大陸かぁ……あんまり近づきたくないなぁ……」

 龍族を恐れて逃げ出した旧支配者たちにとっては龍が嫌う霧に覆われた魔大陸は楽園だろう。


「で、どうやって人質を救出する?」

 俺が皆に質問すると、ギルド長はデンの方を見た。

「デン殿の考えを聞きたい」

 デンは頷いて慎重に言葉を紡いだ。

「まずは偵察ですね。仲間はいないとしても、現地での協力者の有無は確認したいです」

 これは妥当だ。幸い偵察や隠密に長けた仲間は多数いる。

「それと……アン姫の機転によって、人質の身の安全はギリギリまで保証される事になりました。これに関しては彼女に感謝するべきでしょうね」

「どういうことだ?」

「彼女が只の子供ではなく帝国の継承権を持つ王族である以上、彼女の生死はキマリスの権限では自由に扱えないでしょう。話を聞く限り、彼の役割は斥候でしょうから、国の外交に関わる意思決定は出来ないと思われます」

 彼女の存在を上手く利用すれば、人間領域最大の国を手に入れる口実にもなりえると考えると、そう簡単には殺せないか。

「ただし、下手に追い詰めると自暴自棄になって何をするわかりません。詰めに関しては慎重に手を打つ必要があります。その為にもダンジョンの方は後回しするべきです」

 でも、万が一、ソルラエダにダンジョンを攻略されたらどうするんだ?あいつら制御室を狙っているんだろ?

 俺がそんな感じの疑問を呈すると、関係者の面々は微妙に苦笑をした。

「大丈夫です」

 デンは涼しい顔で断言した。

「彼らは完全に詰んでます」

 そして、デンは俺が知らなかった事を、彼がこの地に来てからガーラや冒険者ギルドと協力して成し遂げた諸々の事を教えてくれたのだ。


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