037――襲撃
プリムムダンジョンの深層が発見された事が正式に公表されてから、様々な人間が、ここアースガード自治区に押し寄せるようになった。
大半は冒険者で、レベリングや出稼ぎが目的のようで、ダンジョンの周囲は大変な賑わいを見せていた。
かつての純朴な村人たちは、このゴールドラッシュに対して十分な備えをしていて、村長の一族やオルトたちは濡れ手に泡と言わんばかりに利益をあげている。
店舗を持たない者たちも屋台や露店で足りない需要を補っていた。
特に自治区や森で採取した材料で作られたポーションはナス子の協力で品質を上げることに成功しており冒険者たちは大枚をはたいて競うように購入している。
それと王都で食い詰めた官僚も士官を求めて到来してきた。
立ち上げて間もない辺境の地で人手不足だろうと足元を見たつもりの尊大な態度の者が少なくなかったが、実際は眷属化したオズリックの縁者たちが予想以上に優秀だったので、少数を除いてお引き取り願った。
眷属たちは最初こそ列強諸国の常識に戸惑う事も多かったが、元大官僚の族長であるセネカの指導で短期間で優秀な文官となった。
今回はセネカのおかげで大分助かった。
彼は上級官僚の顔と名前と業績は粗方記憶しているらしく、彼を知っている志願者は顔を見た途端、冷や汗を流し始める者も多く、中には急用を思い出してUターンする者すらいた。
中級官僚以下は流石に個別に把握してなかったが、それでも、縁者や地域の顔役の名前を出して二、三の質問をすれば、どこの役所のどういう仕事に携わったかはすぐに分かるようだ。
というのも、官僚の名前や役職を騙る輩がそれなりに多く、そういう者を炙り出す手法をいくつも持っていた。
それに加えて、村長もダンジョンでのレベリングで鑑定スキルを強化した結果、隠蔽スキルを持った、熟練の詐欺師や他国の間諜、前科を持っている犯罪者等も見破れるようになっていて、自治区を悪人から水際でガードしてくれている。
この二人には感謝の念しかない。
■
俺たちが殺到する人間の波の対処に追われている頃、叡智の迷宮に赴いていたデンが帰ってきた。予想より大分早かったな。
「もっと滞在したかったですね。本当に素晴らしい蔵書の図書館でした……」
本読みの楽園ともいえる叡智の図書館を思い起こし、未だ夢見心地のデンだったが、転移門開通前で自治区は大忙しでジュンは微妙に殺気立ってる。
「……いいから、さっさと手伝ってよ。仕事溜まってるんだから」
まぁ、まぁ。
それにしても大丈夫だったか?お館様に無茶振りされなかったか?
お兄ちゃんは心配だ。
「とても良くしてもらいましたよ。貴重な資料も沢山見せてもらえたし……ダンジョンの構造に関する情報は入手が困難でしたからね。ただ、迷宮の再挑戦してもいいかを聞いたら困った顔をしてお茶を濁されましたが」
叡智の迷宮を周回するような奴は今までいなかったんだろうな……すみません、お館様。
「出来るなら再度挑戦してタイムアタック自己ベスト記録更新したいです!」
今更感はあるが、お前努力する方向間違ってないか?
■
そうしてついに、自治区とスパピア間に転移門が開通した。
想定通り、転移門が作動するたびに定員マックスの人数が、この辺境に送り込まれてくる。
ダンジョンはギルド職員の臨時派遣もあって何とか人員整理されているが、規模に対して明らかに過剰な人間が押し寄せていた。
しかも、どうみても冒険者には見えない者も少なくなかった。
「王都の元官僚も混じってるんだろうね……まぁ、今日は初日だから、もう少し経てば落ち着くでしょ」
ゲンマは呑気にニコニコしているが、宿泊施設は既に定員オーバーで空き地で天幕を貼っている冒険者が日没前から多数出た。
野宿の備えがある冒険者はともかく、経験のない一般人たちが宿を確保できずに右往左往していたので、急遽、天幕を用意したり、馬車の車輪を外して緊急の宿泊施設とて提供して何とか初日を凌いだ。
今が暦で七の月、夏にあたる季節であったのは幸いだろう。
この山岳地帯で冬の季節に野宿などしたら凍死してもおかしくない。
備えをしていてもあっさりキャパシティオーバーになったし、今後のことを考えると仮設住宅の設置が簡単に出来た方がいいな。
■
悩ましい問題はまだある。
帝国のアン姫が供犠として自治区に送られて以来、フィン王国の周辺国からも供儀と称して人間が送り込まれてくる事だ。
ゲンマが危惧していた面倒な事態とは多分これだろう。
行ったことのない国の面識のない王族から人身御供を捧げられても普通に扱いに困る。
というか、大人の王族の女とかどうしろと……。
「ああああ、ゲンマ様!エンダー様!貴方の花嫁ですわー」
「……あたくしにも黄金の林檎を捧げてくださるのかしら?ふふふ」
「だるーい。何もしたくなーい」
厚化粧の上に香水の匂いがプンプンで見るからにハニトラ感アリアリだ。
うちはこないだまで村だったんだからな、贅沢する余裕はないぞ。
ベンチャーのスタートアップは厳しい世界だからな。
ただ、眷属の文官に国と名前を聞けば、大体の事情は分かるのは不幸中の幸いだ。
結局、対処をゲンマに丸投げして、引き取っても問題なさそうな見所のある子供は寄宿学校に預けることにし、それ以外はポーション詰め合わせを持たせて丁重にお引き取り願った。
これは龍族に対する官僚の供犠と同じ儀式のようで、返礼という名の手土産を渡すと、彼らはあっさり帰国してくれた。
■
それから一週間くらい経過してもゲンマの予想した通り人の波は収まらなかった。
一般人で定着する者はそれほど多くなかったが、口コミで冒険者が龍王国中からやってきた。
その中でも中堅冒険者は、空き家を借りて長期滞在するようになり、自治区の不動産の値段は高騰した。
この動きにギルドは焦り、空いている物件をギルドが購入して、滞在先に困っている冒険者に仲介するシステムを作り上げた。
「中立地帯での教訓ですよ。不動産の高騰で地元住民と大分揉めた経緯がありましてね。早い段階で組織が介入しないと取り返しがつかなくなりますよ」
冒険者ギルド職員のヴァリエは苦い顔で言った。
人間が大勢いるところでの問題は異世界でも変わることはないんだな。
地球の大都市でも似たような話は聞く。
「元いた人たちの為の保護区も必要かも。ダンジョンの周辺が冒険者の街になるなら学校地区とは分けた方がいいだろうし……それにしても潜在的需要がこんなにあったとはねー」
ゲンマはそう言うが、それだけ王都のダンジョン占有は大きな国家的損失であったのだろう。
そして、自治区に訪れたのは良いことばかりではなかった。
ダンジョンによる好景気に水を差すように、他所から来たチンピラによる妨害活動が目につくようになった。
ま、どこの誰からの命令で来たのかは丸分かりだ。
あいつら本当に分かり易すぎるな。
もっとも、冒険者はともかく、ここの村人は十分にレベリング済みなので、王都のチンピラごときは、その辺のおばちゃんにでも簡単に取り押さえられて涙目でスパピアに強制送還されている。
オクルスの情報では王都のダンジョンは閑散としていて、ソルラエダは一味だけでドロップ品の回収を行っているが、その配下も離脱する者が出始めているとの事だ。
彼らは配下の人間のレベリングやクラス変更まで制限するなどガチガチに管理していて、さらに厳しいノルマを課している状況なら無理もない話だ。
彼らの終焉はすぐそこまで来ているのは誰の目にも見えていた。
■
ある日、書斎に入ると俺の椅子にデンが腰かけて窓の外を眺めていた。
デンは探究に関しては倫理観のリミットが外れた正しくマッドサイエンティストではあるが、普段は理性的な常識人で俺と二人っきりの時でも上下関係を崩すような行為は滅多にしないので、彼の振る舞いに軽い違和感を抱いた。
俺が書斎机に近づくと、彼が椅子を回して俺を正面から見据えた時、何が起きているのか察した。
デンの顔から人間らしい感情が抜け落ちた表情を見た瞬間、目の前にいるのが誰であるのかを感覚で理解してしまったのだ。
俺は思わず跪いた。
「楽にしてて良い」
目の前の御方はデンの声であの独特な音声合成のような口調で俺に語りかける。
俺は平静を装っていたが、突然の出来事に頭の中は真っ白で焦っていた。
「心配することはない、これは一時的な物だ」
俺の内心を察したかのようにお館様は言った。
「現在、私がこの世界に干渉する手段は限られていてな。私から話しかける手段を探していたのだが、君の弟と私の波長が合っていたようなので交渉した次第だ」
「交渉……」
「叡智の図書館の蔵書を好きに読んで良いかわりに時々体を借りるという内容だ。だが、私は過剰な干渉をするつもりはないし、この現象も永続させるつもりはない。つまり君の弟に成り代わるとかそういうことはしないので心配する必要はない」
お館様の言葉に安堵した俺は質問した。
「お気遣いに感謝します……それでは俺に何か使命があるのでしょうか?」
お館様は叡智の管理人としてこの世界の運行に携わっている御方だ。
何の目的もなく語りかけてくるとは考えにくい。
「私だって、たまには会話を楽しみたい。それにもうじき面白いショーも始まる。一人で見るのはもったいない気がしてね。君もそう思うだろう?ゲンマよ」
いつの間にかソファに龍形態のゲンマが腰かけていた。
俺は促されて、その隣に腰かけた。
お館様は手元のリモコンを操作して本棚に置いている液晶テレビを点けると、見たことがない風景が映し出された。
どこかの建物の中のホールのような所に大勢の人間が集まっている。
『冒険者ギルド本部だよ……』
ゲンマは小声で囁いた。
ホールの壇上に六人の人物が立っていて、一人はクロード先輩だった。
『冒険者ギルドの幹部だね。ギルド改革の発表かな……多分大陸中の全ギルド支部にこの映像が流されているよ』
映像の中で中央にいた人物が前に出て演説台に上がった。
「冒険者ギルド長を任されているデンスだ。本日は今後のギルド運営に関する、重大な発表をする」
ホールにはギルド関係者が集められているのか、ざわめきが起こる。
「まず、評価システムの見直しだ。近年、冒険者のランク制度を巡って様々な軋轢があり、我々はこの問題を解決するべく新しいランク制度を制定した――これを発表する前に、俺は今見ている皆に問いたい。冒険者とは一体なんだ?」
この問いに会場は静まり返り、数秒の沈黙の後、ギルド長は言葉を続ける。
「俺が定義するなら、冒険者とは冒険をする者であるべきだと考える。未知の領域を探検する、まだ見ぬ新種を発見する、手強い魔獣を討伐する、そうした偉業をなしとげた者こそ冒険者と名乗るにふさわしいと考えている」
彼は会場を見渡して周囲の反応を確認している。
「しかし、現状この冒険者ギルドにはそうでない者たちが数多くいる、いや、安全なダンジョンとギルドを往復する者が大多数といってもいい。俺個人の感情を優先すれば、そうした者が“冒険者”と名乗っていること自体が我慢ができない……だが、俺は仮にもギルドと名のつく組織の長だ。この私情を一旦封印して、新しく制定したランク制を公表する」
彼は羊皮紙を広げ、そこに書いてあることを読み上げる。
「改革に際して、現行のランク制度を全て破棄する。その上で冒険者を五段階に分ける。まず、もっとも下位、第五位はギルド管理のダンジョンでのアイテム収集や危険度の極めて低い採取行動が活動の大部分の者、これは“作業者”とする。次の第四位は都市外部での活動も一定量こなす者で“冒険者見習い”とする」
デンスは淡々と読み上げる。
「第三位は野良ダンジョンの攻略や討伐任務を達成した者、これを我々は“冒険者”と定義する。そして、第二位は“冒険者幹部候補”だ。これに関しては、達成した実績を幹部会議で審査の上で我々が、最終的には俺の一存で決める……以上だ」
会場は静まり返っている。
『思い切ったねー。討伐任務を達成できる冒険者は限られているよ』
ゲンマはのんびりとした口調でコメントした。
「そ、それじゃ、現状殆ど、半数以上が“作業者”じゃないか!!」
「今まで、ギルドのために労働してきたことが評価に値しないというのか!」
「ギルドは我々に死ねというのか!何の権利があってこんな横暴を!」
現場で多くが呆気にとられていた中で、我に返って抗議する者がポツポツ出てきた。
デンスはつまらなそうな顔で会場を見て、面倒臭そうに口を開いた。
「あー、なんか勘違いしてる奴がいるが……大部分のギルド構成員には関係ない話だからなコレ。今まで通りの生活でいい奴は今まで通りやってればいいだけだ。俺個人としては“作業者”は全員足切りしても良いと思っていたが、そうした作業者もダンジョン内外の環境保全に役立っているとか、地域経済に多大な恩恵があると幹部からも説得されて考えを変えた。だったら、ついでに福利厚生の制度を見直して、子供を扶養している構成員には家族手当、社会奉仕活動をする者にも特別な手当を支給するように改めた。真っ当に暮らしてる奴なら肩書が作業者に変わるだけで手に出来る報酬はむしろ増える筈だ」
ギルド長の言葉に会場はざわめいた。
先にそれを言った方が良かったのでは……?多分会場と俺の気持ちは同じだと思う。
『冒険者の子供が施設に預けられることは多いからね……これで少しは減ってくれたらいいけど』
「但し、作業者がリスクを負わずに冒険者ギルド内での発言力や実権を得ようとするなら、現行の百倍以上の功績は必要になるだろう。冒険者ギルドはあくまでも冒険する者の為の組織だ。そこは履き違えてもらっては困る」
下位の大部分の構成員には特別手当で黙らせた上で、都市内に閉じこもっている上位ランカーに外に出向くように圧迫する感じか。
「大まかな方針はこんな所だな。細かい改変に関しては、この後配布する資料を見てくれ。冒険者ギルドの制度改革については以上だ……ああ、それと、王都のダンジョンは近日中に閉鎖する事が決定した」
「は?!」
『ぶっ!!』
俺とゲンマはほぼ同時に吹き出した。
そんな大事を物のついでみたいにいうか。
会場は一気に喧騒に包まれた。
「ダンジョン周辺の土地に結界を張って封印、部外者の出入りを完全に禁じる。よって関係者は速やかに退避してくれ」
「ちょっと、待ってください!何の権利があってそんな蛮行を!」
一人の明らかに冒険者ではなさそうな男が立ち上がって抗議の声をあげた。
「誰だ?」
俺はゲンマに聞いた。
『王都のダンジョンを管理している団体の長だね。元カタリ派官僚で……アマクダリって奴?多分ダンジョンには入った事もないよ。賭けてもいい』
うへぇ……そんな奴が中立地帯のギルド本部にまで潜り込んでんのかよ。
デンスは男の抗議を涼しい顔で受け流す。
「何でギルド構成員じゃない人間がここにいる?」
「王都のダンジョン運営には多くの人間が関わっているんです!上層部だけで勝手に決められては困ります!」
「勝手に、ねぇ……そっちが勝手にやりたい放題した結果なんだがな」
「っ!……だからって……こんな一方的に……」
「この件については龍王ガーラの許可を得ている『王都の民に貢献することが少ない施設であるなら、いっそ封鎖してしまった方が良い』との事だ。話し合いで何とかできる段階はとっくに過ぎた。甘んじて受けろ」
流石にガーラの名前を出されたら元官僚程度は黙らざるをえない。
「それと、最近、勘違いしている奴が増えてきたから念のため言っておくが……この冒険者ギルドでは俺が王だ。俺のジジイが、魔獣やダンジョンと死闘して、支配種族と交渉して自治権を勝ち取った立派な独立組織だ。どれほど世の中が変わろうと、未知の挑戦を避け続ける奴には何があっても権利を与えるつもりはない。少なくとも俺がギルド長である限り絶対に認めない。制度を利用して冒険者ギルドをつまんねぇお役所に変えようとするなら、制度を変えるだけだ。それが面白くないって奴がいるんなら……」
ギルド長は演説台を拳で叩いた。
「俺と決闘して勝ってから言え!冒険王は誰の挑戦でも受ける!」
中継はそこで終わった。
俺はこの世界の冒険者事情に詳しい訳ではないが、それなりの衝撃は受けた。
何より、この自治区にとばっちりが来ない事を祈りたい……。
『いや、無理でしょ……全く何を考えてるのか……』
ゲンマは何故か困っていた。事前に話聞いてたんじゃないのか?
『やるってのは聞いてたけど……ちょっと急すぎるよ……もう少し余裕があると思ってたのに……』
「敵に付け入る隙を与えたくなかったのだ」
お館様がリモコンでテレビの電源を切りながら言った。
『それにしても……ともかく、君はしばらく外出禁止だよ。一回誘拐されてるんだから』
「ええー」
『不満げな顔してもダメだよ。あと、絶対一人っきりにならないでね。君が攫われるのが一番困るんだから!』
うーん……この状況で缶詰になっても落ち着かない、ただの軟禁状態じゃねーか。
集めた資料の整理でもするか……。
「まぁ、如何なる困難があっても、君たちなら力を合わせて何とかするだろう」
お館様は相変わらず無感情で言う。
このあと何が起こるか知っているのだろうし……少しはネタバレしてくれてもいいのに。
■
王都のダンジョン封鎖が目前になったある日、事態は大きく動いた。
「パリエース?」
「そう、彼が王都のダンジョンの入り口に立ち塞がってギルドの監査を拒んでいるらしい」
ゲンマが王都の速報を伝えてきた。
確か、ソルラエダの一員だったな。脳筋の盾役って印象だが。
いくら高レベルでも防御特化じゃギルド幹部には勝てないだろうに。
「一人でか?」
「配下の者が数人いる程度らしい。他のメンバーは見当たらないってさ」
あいつら詰んでるのによくやるな。全く何を企んでるんだか……。
その時、書斎机に置いたスマホが振動し始めた。
待ち受け画面を見ると、ジョイスからのメッセージで『緊急事態発生』と表示されていた。
「ジョイスからだ、何か事件が起きたらしい」
俺は部屋にいたゲンマとテルさんと一緒に階下の食堂に向かった。
□
食堂に行くと、メンバーが緊張した表情で立っていた。
特にジュンは目を見開いたまま俯いていて、その手をデンがしっかり握っている。
そして、脇には子供達が青い顔をして震えている。
「どうしたのさ、ジョイス。何かあったの?」
「ゲンマ……落ち着いて聞いてくれ…………アンとトオルが誘拐された」
はぁっ……???どういうことだ?
「子供達の話だと、知らない男が学校寮に出現して、子供達を拐おうとしたが、アンが交渉して自分一人を人質にするように言いくるめたらしい。最終的にはアンとトオルの二人が人質になっている」
「ちょっと待って!寮は護衛がいた筈じゃ……!!」
ゲンマはかなり動揺している。
「証言によると現場にいたオクルスは一撃でやられたらしい。完全に不意打ちだったそうだ。入り口の護衛は昏倒していた」
いくら不意打ちでもオクルスはそんな簡単にやられるような男じゃない。
相手は相当の手練れと見ていいだろう。
ゲンマはショックで打ちのめされている風なので俺がジョイスに尋ねた。
「誘拐犯の要求は何だ?」
ジョイスは羊皮紙を渡した。
「プリムムダンジョンを休業してソルラエダの貸し切り状態にしろ、とのことだ」
「何を考えてるんだ……」
いや、おそらくギルド長の煽りを受けてのことだろうな……完全にとばっちり――という訳でもない。俺たちも十分追い詰めに加担した。部外者ではない。
「……やってくれるじゃないか」
徐々にショックから立ち直りつつあるゲンマの瞳は赤く光り始めた。




