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とりあえずまとめようと思いました

 前世を思い出した私がまずやることは、情報をまとめること。頭の中だけだとこんがらがってしまうことがあるだろうし。書いておけば見直せる。

 そう思った私はノートを一冊持ってきて机に向かう。


「よし」


 まずこの世界についてから。この世界には魔力を持つ者が多くいる。そして様々な魔法を駆使し、生活を豊かなものにしているのだ。

 属性は火、水、土、風。そして光と闇。この世界で希少属性なのは闇。次に光属性である。闇属性は魔族には魔王様だけ。そして人間は知っているだけで私と初代神帝の親友であったリーシャ・アルカヴィルレア様だけだ。あまりにも少ない数。次に希少な光属性にはそこそこ人数がいるし。何か意味があるのかしら。

 ストーリーが思い出せないだけでこんなにも困るなんて。

 ……いいえ。本当は知らないのが普通なのだから、私が楽をしすぎなんだわ。


「まあ、属性は目安なだけだから他の属性が使えないわけではないし」


 それに火属性の人が水属性の魔力ランクを最高ランクのSにしたという話もある。ただ光と闇属性は特別で、互いの属性以外の全ての属性を満遍なく使える上に努力次第では全ての属性をSランクにできる。火、水、土、風の四属性は光と闇属性の使用ができないから……ある意味最強の二属性よね。

 でもこれ以上は余計に混乱しそうだから、今はあまり属性について気にしすぎない方が良さそうね。


 次に爵位について。この世界の爵位は他の世界とは異なっている。

 まずこの世界の最高位は神帝(しんてい)。次いで三皇。そして国王、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵となる。

 神帝と三皇という位ができたのは、千年前のことだ。長く続いていた魔族との争いを、平和的に解決した伯爵家の方がいた。その方を人間世界の王にしようと多くの声が挙がり、今の『神帝』という位ができた。そして三皇は初代神帝が最も信じる人間三名を指名し創ったとされる。

 多くの書物を読んだが、書かれている内容が曖昧だったり言葉足らずで深くは書かれていなかった。


「何か……深くは書けない事情があるのかしら」


 でもその事情すら知る術がない。ここは大人しくしておくのが得策だろう。

 でも、何だか闇属性と関わりがあるような気がするのよね。うん。これは知る術を探しつつ、自分でも考えてノートにまとめておこう。

 次はヒロインについて書こう。ヒロインの名前は変換できるが、変換前の名前はアーニー・ラピスフィーネ。ふわふわなクリーム色の長い髪に翡翠色の瞳のおっとりとした少女。性格は努力家で心優しい。彼女の笑顔は、まるで天使の微笑みのようだと言われる。属性は光。

 そして次に悪役令嬢である私。名前はローズ・アルカヴィルレア。三皇の令嬢。断罪イベントで必ず命を失う結末を迎える。属性は闇。

 まるで悪と正義と言わんばかりの属性設定である。まあ、私はこの世界に悪役として生を持ったから仕方がないと言えばそうなんだけど。


「……気にしてもしょうがない。次だ、次」


 さて、ようやく攻略対象者についてだ。まず一人目、アラン・フェンフージャ。彼は三皇に位置する家柄の人間だ。そして気さくないい人。年齢は私と同い年。ワインレッドの瞳と髪を持ち、高身長かつ鍛えられた肉体美で女性人気がすごかった。属性は風。

 二人目、リック・カタナルーシュ。公爵家の子息。美しい金糸の髪に碧眼の美男子。世話好きで優しい。巷では『お母様』と呼ばれていた。年齢は私と同い年。属性は火。

 三人目、ギルベルト・ガーネット。伯爵家の子息。まるで美しい絵画を観ているような気分になるほど美しい容姿をしている。闇を彷彿とさせる黒髪と瞳。けれど怖さはない。笑うと可愛らしい、寡黙な人。年齢は私より一つ下。属性は土。

 四人目、シオン・ハルハレトス。伯爵家の子息。可愛いものが好きで愛情深い。容姿はラベンダー色の髪に赤色と青色のオッドアイ。とても一途な人だ。年齢は私より二つ下でヒロインと同い年である。属性は水。

 以上四名が攻略対象者である。そしてこの段階で私は、三皇のアラン・フェンフージャと婚約しているはずだった。だが私は現在別の男性と婚約している。しかも攻略対象外の男性だ。

 ……もしかするともう既にストーリーから外れている可能性があるのでは。ということは、私が悪役で断罪されることもないかもしれない。


「いいえ。まだ油断はできないわ」


 それになぜ婚約者が私を選んだのか未だに謎なのだ。彼には婚約者候補がいた。私を含め三人。私以外のお二人はとても評判の良い令嬢だ。対して私はといえば、自分で言うのも何だが令嬢としての評判はそこまで良くない。私の良いところと言えば家柄くらいなもので。

 それに偶然ではあったが彼に初めて会ったときなんて、泥だらけの状態だった。あの時はまだ自分が彼の婚約者候補だとは知らなかったけど、後で知ったときは流石に背筋が凍った。だって令嬢としてはアウトな気がする状態だったのだから。だがしかし両親は「誰にも言えないような恥ずかしいことをしてきたわけではないのだから、堂々としていなさい」と私の頭を撫でた。


「駄目だわ。話が脱線してしまった……」


 とりあえず彼についても書いておこう。

 私の婚約者の名前は、アルヴェルト・リシャール。三皇の子息。眉目秀麗で色気のある男性だ。年齢は私より二つ上。深紫の髪と瞳を持つ、穏やかな性格の人。笑うと綺麗というより、少し幼い感じになって可愛らしい。そして秀才。属性は光。

 彼と結婚したいという女性はかなりいる。なので私自身がヒロインの立ち位置にいて、あの手この手で蔑まれても仕方がないくらいの魅力的な男性だ。


「蔑まれるのは嫌だけど」


 ……考えても仕方がないことだわ。だって私と彼は別の個体だもの。考えていること、想っていることの全てがわかるわけではない。

 だからこそ私も彼との婚約が決まりそうになって、確認の意も込めて一度だけ彼に問いかけたのだ。すると十歳の彼から返ってきた答えは「君と添い遂げたいからだよ」だった。

 あの時の微笑みもまだ声変わり前の高い声も、彼とのやり取り全部を鮮明に思い出せるくらいには衝撃的で記憶に残っている。

 そして彼の返事を聞いた私は「私はきっと大人になっても変わらないわ。今と同じように野を駆け回るし、魔物の生態を調べたりする。それに街で開かれるお祭りが好きなの」とはっきり目を見て伝えたのだ。すると彼はキョトンとした顔をしたが、すぐに目を細め柔らかく笑った。


「知っているよ。街で見かけた君はとても楽しそうで目が輝いていたから。それにあの時はレッドフルーツの飴をとても幸せそうに食べていた」

「まさか見られていたなんて……恥ずかしいわ」

「可愛らしかったよ、とても。だから君は好きなことをしていい。僕は気にしないよ。それに回りが何か言うようなら、僕が守るから」

「……」

「だから僕を選んでほしい」


 そう。あの日、彼はそう言った。そして私の手を優しく握る彼の手があまりにも冷たく、私を見る瞳があまりにも不安気に揺れていたから……だから私はただ静かに頷いたのだ。そうして決まった婚約。

 ふと思う。前世の記憶を持った私なら、未来を変えるために動いたと思う。だけど今日この日まで私は前世の記憶を持っていなかった。つまりゲームでは出されていなかったが、ローズ・アルカヴィルレアの幼少はこういう感じだったのだろう。ならばなぜ断罪されるようなことがヒロインにできたのか。

 嫉妬……かしら。でも嫉妬でローズ・アルカヴィルレアはそこまでやるかしら。


「でもシナリオがそうなっていたら、やるわよね」


 だって物語を構築する人物の一人だもの。ただ、どうにもローズ・アルカヴィルレアが嫉妬でそんなことをする人物には思えない。

 まあ、そう考えるのが前世の記憶を持つ『(ローズ・アルカヴィルレア)』だから何とも言えないけれど。

 とりあえず私は後悔しないように生きる。そして元気に明るくできれば穏やかに過ごしたいな。

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