鳥籠の国
これは、遠い未来のお話。
どこかの馬鹿な国が打った、たくさんの核ミサイルのせいで世界は汚染された。
汚染された世界は有毒ガスで満ちていた。
有毒ガスから身を守るために、各国々で大きな壁を作った。
壁はドーム状になっていて、まるで鳥籠のようだった。
あの美しい空も海も山も川もすべて、もう見れないものだと思っていた。
問題は、土地,食料などの資源の話だ。増え続ける人口の中で、限られた資源がいつまでも持つ訳がない。
壁の中で裕福な暮らしができるのは、一部の権力者,土地や食料を持った者たち。物の売り買いができたあの紙切れや光輝く石ころはここじゃ何の役にも立たなかった。
栄養失調で亡くなる人もスラム街に住む人も増え続けた。
充分な日光も無いものだから作物は育たず、草木も枯れていった。
水や食料を求めて、デモや窃盗が多発し、治安は悪くなっていた。
「みんなでこの危機を乗り越えるために協力すべきだ」
などと言うものも現れたが、所詮は偽善者。自分の食料を他人に分け与えるなどはしなかった。そんな人の意見を誰が聞くのだろうか。
もともと、戦争していたため、食料は不足しているし、爆撃で廃墟が並んでいる。こんな世界に未来はあるのだろうか。
もともとは馬鹿な国がたくさん打った核ミサイルのせいだが、その核ミサイルの開発者はまだ十六歳だった。その天才博士は大罪人として軍に捕らえられた。軍の牢獄で研究を続けさせられていた。
ある日博士は思いついた。
「汚染区域を人工知能に掃除させればいい」
これが人工知能の始まり。ロボットなら有毒ガスの影響を受けない。除去の方法や始末の方法をプログラミングして、掃除させればいい。
天才博士の棗は、国からの莫大な予算の元、小型掃除ロボットを作り始めた。
ごみの分別の仕方。始末の仕方。有毒ガスの除去の方法。
棗は全てのデータをまとめ上げ、ロボットにプログラミングした。
なぜ棗がここまでするのか。部下もなしに徹夜をしてまでロボットを完成させようとするのか。
このままでは人類が滅ぶ、というのももちろんだが、棗は弟の季隻を軍に捕らえられていたからだ。たった一人の家族を裏切ることはできなかった。
棗の両親は棗が核ミサイルを作る実験に参加することを認めなかった。
棗自身も行きたくなかったが、並外れた頭脳と技術を軍は諦めず、棗の両親を殺し、弟を人質に取った。
棗にとってはこの鳥籠のような国も、大きな壁も要らなかった。
あっても無くても棗という鳥は自由になれないから。
重い枷が彼女を飛ばしてはくれないから。
_______二年後
絶望に満ち溢れていたこの世界に一つの希望が生まれた。
棗が作っていたロボットが完成したのだ。
ただ一機だけでは時間が間に合わない。
たくさん量産した。世界中の人々の絶望を希望に変えた。世界をAからZまでの区域に分け、掃除をさせた。除去,分別,始末,それぞれに特化したロボットも作って、効率的に進めた。
ただ棗は絶望していた。世界中が希望に満ち溢れだしたとき、棗は絶望していたのだ。
人質に捕られていた弟が死んだ。栄養失調だった。よくある話だったが、たった一人の家族を失って平気な者はいない。
軍から解放される時、新しい家などは手配してもらった。
手枷も首枷も外してもらった。ただ足枷だけはそのままにした。
爆弾は取り除いていたから安全なものの、これではまるで奴隷だ。
棗が足枷を外さなかったのは、忘れないようにするためだ。
棗が軍にされたことを。弟を失った怒りと悲しみを。