43話 従者は小人でラリエ国へ
第四章はセナの話がメインになりますが、恋愛面以外はかなりご都合主義な話となっています。過去話はこの章ではメインではないです。恋愛色は強めです。男の。
他者視点が多めに混在しているので、全体的にアップダウンが激しい流れになっています。
宜しくお願いします。
本日、2話アップしています。
ラリエ国へは転移スポットを三つ経由して行くらしい。ミアちゃんを迎えに行ったエドワード様を待っていると、セナ先輩がやってきた。
「よぉ、待たせたか?」
その姿にビックリした。王子様だ。まごうことなき王子がここにいる。白の正装に白いマント。肩には金色の……アレだアレ。モップみたいなやつが乗っている! 名称は分からないがお掃除の時に使うモップだ! それが両肩にある。ザ・王子様。セナ先輩って本当に王子様だったんだな。
しげしげと見つめていると、にやりとセナ先輩に笑われた。
「どうした? 見惚れたか?」
「はい」
素直に言うと、セナ先輩の顔がちょっと赤くなり、視線を逸らされた。
「セナ先輩って……王子様だったのですね」
「王子様って……なんだよ? 見惚れていたのは服装か?」
えぇ、そうですけど? と思いながら目を瞬きしていると、セナ先輩はブスッとした表情になった。なんだ? 王子様扱い嫌なのだろうか? 殿下も嫌っていたしな。王子様扱いも嫌なのかもしれない。注意しよう。
ところで、セナ先輩一人だが、マルクスさんはいいのか? 従者だろうに。
「セナ先輩、マルクスは?」
「ん? あぁ、ここにいるぞ」
セナ先輩の胸ポケットからひょっこり現れたスマホサイズの従者。
(なぜゆえ!? なぜゆえ、小さいのだ!)
護衛になってないと激しく思う。
「あの……セナ先輩、なぜマルクスは小人アメを舐めているのですか?」
「ん? あぁ、マルクスは命を狙われてたんだよ。だから、念のためな」
(・・・・はい?)
なぜ、従者なのに命を狙われるのだ。殺戮を繰り返しての報復か?
「あー……そういや言ってなかったよな。マルクスは俺の弟だ」
(――――はい?)
ちょっと待て。そんな軽いカミングアウトがあるか! 従者設定どこいった!
「マルクスは従者ではないのですか?」
「まぁな」
「違います。従者です」
甲高い声が胸ポケットから聞こえた。
「私はセナお坊ちゃんの弟ではありますが、従者として生きてきました。だから、従者です」
複雑なことを言われた。端的に説明を求む。……と言いたいところだが、言いたくないならそれでもいい。マルクスさんの真剣な表情を見ていると、嘘をついているように見えなかったから。
それに語りたくないことなどあるもんだ。私にも覚えがある。母がスナックのママだったから色々、変なことを言われたもんだ。放っておけと、言いたくなる。噛みつくと余計にこじらせる。田中梅子、やんちゃした黒歴史だ。
なので、言いたくないのであれば、それでも構わない。
「何か複雑な事情があるんですね。わかりました。マルクスが従者というなら信じます」
そう言うとマルクスは口元に笑みを浮かべた。笑ったところ初めて見た。もっとよく見たかったな。レアショット。小さすぎてよく見えない。
「……なんで、なんも聞かねぇの?」
セナ先輩が少し目を伏せて言う。その表情はなんていうか……仄暗かった。感情が消えてしまったような顔。そんな顔を見るのは嫌なので、私は微笑んだ。
「嫌なことは聞かないだけです。話したくないことなど沢山あるでしょう。でも……言いたくなったら、聞きますからね」
そう言うと、セナ先輩の金色の瞳が輝き出す。そして、照れくさそうに頭をかいた。
「あーもー。ジェシカはずりぃよな。そんなこと言われたら、ますます惚れる」
熱を孕んだ瞳が照れを誤魔化すようにきつく睨まれた。それにビクリと震える。猫のように気配を消して、セナ先輩は近づいた。
「これ以上惚れたら、俺、ヤバイよ?」
低い声で言われたと思ったら、視界が急に暗くなった。暗くなったというか、これは手?
「人の婚約者を堂々と口説くな」
「あぁ、アル。居たんだな」
「ほぉー……そういうこと言うなら今すぐ帰ってもいいんだぞ?」
「護衛の仕事すっぽかすのかよ。ラルフロード家の魔術師は随分、仕事熱心だなぁ」
「力が無いと分かってるなら、大人しくしとけ。余計な仕事を増やすな」
「嫌だ。俺、本気になるって言ったろ?」
見えないがドS対ドSのバトルを感じる……ってか、セナ先輩ってアルフレッド様の前だと随分な物言いだ。おっと。聞き耳たてている場合ではない、止めなければ。
「はい、ストーップ」
私はパンっと手を叩いた。アルフレッド様の手が離れる。
「これから旅行に行くのにケンカしている場合じゃありませんよ。仲良くしてください」
そう言うと、アルフレッド様とセナ先輩は互いに顔を見合わせて、同時に口を開いた。
「「い・や・だ」」
あら、息ぴったり。やればできるではないか。というか、ドSイケメン、めんどさい。先が思いやられる。
◇◇◇
その後、エドワード様とミアちゃんと合流して五人+スマホサイズ従者でラリエ国へと旅立った。
途中、一泊したのだが、セナ先輩が私の部屋に忍び込んで、アルフレッド様が気づいて危うく血を見る展開になりかけた。勘弁してほしい。旅行中に。節度を持って行動してもらいたいものだ。
そんなZ指定展開もありつつ、私たちはラリエ国へに着いた。
「ここが……ラリエ国」
私たちが転移されたのはラリエ国の王宮前だった。海に囲まれた国と言うだけあって、高台の上の王宮からは海が見えた。どことなく風が塩水を含んでいる。その光景を見ていると声をかけられた。
「ジェシカたちは王宮に滞在な。まぁ……住み心地はよくねぇけど、勘弁な」
住み心地が良くない? その理由はすぐわかった。
「ひっ……せ、セナ殿下……」
門番と思われる人がセナ先輩を見た瞬間、青ざめ震えだした。なんだ? と思っていると、セナ先輩は静かに声を出した。
「開けてくれ」
「ひぃぃっ! は、はいっ! 今すぐ」
尋常じゃない怯え方に眉根をひそめる。ちらりとセナ先輩を見ると、目が合い、困ったように笑われた。
不穏なフラグが立っているとは思ったが、やはり勘は当たったらしい。この王宮の人は変だ。セナ先輩を見ると怯えて遠巻きに見る。近づこうとしない。王子の帰還ならお出迎えぐらいあってもいいだろう。淀んだ空気を感じたが、セナ先輩は嫌な視線を意にも介さず長い廻廊を歩いていった。
そして、ある部屋の前で立ち止まった。妙に禍々しい魔法陣と思われる文様が扉に書かれていた。
「ここ、俺の部屋な。ジェシカとミアはこっち。アルたちはそっちな」
セナ先輩の部屋を挟んで右が女子組。左が双子組らしい。
「ひとまず休憩な。後で、散歩にでも出ようぜ。夜は父上が帰ってくるから、一応は挨拶するぞ。じゃーな」
そう言うとセナ先輩はあっさり中に入っていってしまった。大丈夫ですか?と声をかける隙もなかった。ポカンとしている場合ではない。私はセナ先輩に続いて部屋に入ろうとしているマルクスを呼び止める。
「マルクス。セナ先輩、大丈夫? あなたも……」
あんだけ嫌悪感を出されたらこちらも嫌になる。心身的ダメージが大きすぎる。二人は本当に大丈夫だろうか?
心配で声をかけたがなんて言えばよいか分からず中途半端な声がけになってしまった。それでも、マルクスは察してくれたのか柔らかい笑みを口元に浮かべる。
「大丈夫です。いつものことですから。でも……ジェシカ様、ありがとうございます」
そう言うと一礼され、部屋に入っていった。残された私はアルフレッド様と目が合った。あ、そうだ。ここは学園ではないから思念伝達が使えるんだった。こっそり聞いてみよう。同じく待っていてくれたミアちゃんに先に声をかけた。
「ミア様。先に入っててください」
「え? あ、はい……」
背後でドアが閉まる音を聞いて、アルフレッド様へ思念伝達を送る。耳に囁くように、イメージをしてっと。パチン。私は指を鳴らした。
『もしもし、アルフレッド様』
「っ!」
ビクリとアルフレッド様が震え、憎々しげにこちらを向く。
『――なんだ?』
『急にすみません。あの、ここはなんなんですか?』
『…………』
『セナ先輩もマルクスも王子なんですよね? なのに、ここは異様です。二人はいつもあのような目で見られていたのですか?』
そう言うと、アルフレッド様は厳しい表情をして短く答えた。
『――そうだ』
それに喉が鳴った。
『――セナたちの事情は本人から聞け。尤もその時が来るまで話さないとは思うが』
その時?
『――君も部屋に入れ。……それとも、このまま二人で居たいか? 俺はそれでも構わないが』
不敵な顔をされ、甘ったるい低い声が耳元に届いた。
(はぐらかされた……こういう時、イケメンはずるい)
『……部屋に入ります』
そう言うとアルフレッド様は目を細めた。
――バタン。
部屋に入るとミアちゃんが落ち着かなさそうにちょこんと座っていた。そうだ。ミアちゃんを巻き込んでしまった。フォローしなければ。
「ミア様。大丈夫ですか?」
「え? えぇ……こういう場所は慣れてなくて気後れしてしまいました」
ぎこちなく笑うミアちゃんに気を使われていると感じた。いかん、いかん。バックが不穏だろうと、せっかくの旅行。楽しまなければ損だ。
「ミア様。何やらあまり良くない状況みたいですが、でも私はミア様と旅行が出来て楽しいのです。できうる限り楽しみましょうね」
そう微笑みかける。ミアちゃんは大きな瞳をパチクリさせた。それにニヤリと笑う。そして、内緒話をするように耳打ちした。
「ミア様。例のものは持ってきましたか?」
「え、えぇ……でも、ジェシカ様。やはりあのような衣装はやはり恥ずかしいです」
「そうですよね。でも、男性はあのような衣装が好きなものですよ」
「そ、そうでしょうか?」
「えぇ、勿論です。エドワード様だって、きっとドキドキします」
そう言うとミアちゃんは恥ずかしそうに俯いてしまった。それににんまりと微笑む。
バックが不穏だろうが、使用人が異様だろうが構わない。あえて、空気は読まない。空気を読んだところで、鬱々とするだけだ。
そんなのもったいない。こういう時は、楽しんだもん勝ちだ。
せっかくのジレジレ恋を間近に見れるチャンス。逃してなるものか。
田中梅子、またの名をイベント番長。
夏といえば水着。
いい忘れていたが、今は夏休みだ。
気温は熱く、脱ぐ機会に恵まれている。
しかも海が目の前。やるしかない。
ふふっ。
田中梅子、三十路。
野望のためなら、不穏な空気などぶち壊す。




