21話 魔法ではないのなら……
「離して! 痛いのは嫌だと言いましたよね!?」
「観念しろ。痛いのは最初だけだ」
「嘘です! 知ってますのよ! 血が出るもとだと! その凶器をしまってください!」
「嫌だね。俺を煽った君が悪い」
迫り来る恐怖に私は震えていた。目の前はアルフレッド様が嬉々と目を輝かせてあるものを持っていた。
それは、見たことがある。若かりし頃、はっちゃけて友達としたことがあるやつだ。
そう、ピアスの穴あけ器だ。
(なんで、そんな凶器がここにあるのよ!? それ、すっごく痛いの知ってるんだからね!)
今のは高性能になっているかもしれないが、私の若い頃は痛かった記憶がある。私は注射でも気が遠くなるほどの豆腐メンタル。恐怖しか感じない。
「……痛みは抑えてやるから、暴れるな」
「嘘です! 痛くするって言ったじゃないですか!」
「チクリとするだけだ。これは君に必要なものだ。魔力抑制の器具だからな」
――は?
キョトンとしているとアルフレッド様がため息をついた。
「君が空間魔法を使った時に作らせたものだ。特殊な金属でできていて、耳の血管から魔力を抑える。ジェシーは無意識のうちに力を使うから、血で制御した方がいいだろう」
なるほど、そのためのピアスか。納得の原理だ。
ん? 待ってほしい。なら、早く言えばよかったのでは? そうすれば、無駄に恐怖を感じずにすんだはず。
「……なら、そう言ってくだされば、暴れなかったものを」
「……そんなに嫌がるとは思わなかった」
アルフレッド様は大きく肩を上下させて息を吐き出す。そして、ピアス穴あけ器を持ってない手でシルバーの髪をぐしゃっと掴み、視線はふいっと逸らした。
「大体、君が悪い。セナやマルクスやエディにばかり頼りきって、俺を無視した」
それは、報復が怖かったからだ。だって、あなたにしたからどんなことをされるか……今までの経験上、怒ることは分かりきっていた。だから、思わず実験台として完コピのエドワード様を使用した。なんて、言ったら怒りそうなので黙って彼の言葉を聞いていた。
アルフレッド様はキョトンとして分かってないふりをする私に苛立ちをぶつけてくる。
「……セナやマルクスともあっさり仲良くなって。エディやミアもそうだ。君は俺の手の中からすぐいなくなる。……こんなことなら、生徒会なんか入れるんじゃなかった」
吐き出すような思いに頬が熱くなる。それを誤魔化すように笑ってみたが、あまりうまく笑えなかった。
「そんな……子供すぎますわ」
「悪いか。言っただろう? 君に愛されることしか頭にないと」
照れて熱を孕んだ瞳で射抜かれる。それにドキリとした。またからかっているだけだと分かっていても、うまく言葉に出せない。
私は無言で、髪の毛をかきあげ、耳を差し出した。ちょっと怖いが今は彼を信じよう。
「……本当に痛くしない?」
視線を外し熱い頬のままポツリというと、ふっと笑い声がした。
「痛くはしない。力を抜け、ジェシー……」
甘く優しい声がして、怖くて竦み上がっていた体の力が抜ける。目を瞑っていると、くすりと笑い声がした。
「いい子だ……」
その声はやたら耳に深く届いて、正直言って腰が抜けそうだった。いや、抜けた。耳に重みを感じて、アルフレッド様の気配が遠のいた瞬間、足の力が抜ける。とっさに、アルフレッド様に抱き止められた。
(なに、今の……また操りの術なの?)
激しくなる動悸を感じながら、胸に手をあてて、アルフレッド様を見上げる。
「また、操りの術を使いましたの?」
熱い息を吐き出しなら問うと、アルフレッド様は目を丸くした後、肩を震わせて笑いだした。小バカにしたような笑い方に思えてムッとする。
でも、アルフレッド様は獰猛さを和らげ、意地の悪い子供のような顔になる。
「ジェシー、俺は魔法は使ってない」
(え? だって、今、足の力が抜けて……)
腰を抱き止められた腕の力が強まり、さらに体が密着する。空いてる手の人差し指が第二間接まで曲がり、そっと指のはらで私の頬に触れた。
「熱いな……君は今、どんな顔しているか気づいているか?」
分からなくて眉根をひそめると、くくっと喉で笑われた。
「――俺を意識した女の目になっている」
「!?」
動揺しすぎて声も出せずに、口をパクパク動かしていると、アルフレッド様は愛しそうにまた頬を撫でる。その武骨な指は顔をなぞりながら、前髪に触れた。手のひらが私の照れを暴くように前髪をあげる。ダークネイビーの瞳の奥には獣はいなかった。
「そのまま堕ちてこい。――愛しか待ってないぞ」
そう言って、彼は私のおでこに軽いキスをした。




