第9話:猫耳少女と出会いました。
――裏路地にある一軒の商店で品物を買い取ってもらい、俺達は店主シャルフェルと夜の約束をし店を出た。
表に出ると近くが少し騒がしい
「こら待てぇ!」
「待てと言われても待たないのニャァ~」
”ドンッ”
路地の曲がり角で小さな女の子が俺の胸に飛び込んで来た。
っと言うか、叫びながらただぶつかったようだ。
「ごめんのなのニャァ~」
女の子は一言言い残してそのまま走り去ってしまった。
今の子かなり小さいのに、柔らかい感触がしっかりと腹のあたりに残っている。
そう言えば、今の猫耳どこかで見た事があるような……
「何してるのじゃ、早くお茶に行くのじゃ」
師匠を待たしてるんだった。
今の事は忘れてしまおう。
「すいません、今行きます」
それからしばらくタラクサカム・テリコミスをモフモフしながら歩き、街の中央通りから海岸の方へ向って曲がり、テント張りのマーケットが立ち並ぶ小道の一角にある一軒のカフェに寄った。
壁をくり抜いたような間口三メートル程の小さなスタンド式カフェ。
気さくな海のエルフと思われる男性バリスタが素晴らしいラテを淹れてくれる。
店内には三席程しか椅子がなく先客でいっぱいだったので、ラテを持ってマーケットのテント裏にある階段に腰掛けホッと一息つく。
「このラテと言う物が泡泡で実に美味しいのじゃ、アクアロンデに来た時は必ずと言っていいほど寄ってるのじゃ」
両手でカップを持って美味しそうに飲む師匠は実に微笑ましい。
「たしかにこれは美味しいですね」
こちらの世界にも美味しいコーヒーがある事に驚きだ
飲み終えた俺達はそのままマーケットで色々な食材を買っていった。
在庫が減ったオリーブオイルに塩、胡椒、各種ワイン、師匠の家では見なかった食材だと海に近いとあって海産物も豊富だ、それに、オリーブの搾りかすを食べて育った牛やニワトリ、小麦や米と言った穀物も並んでいてアレもコレも欲しくなってしまう。
これ明日買った方がよかったんじゃないかととも思ったが、時は既に遅く興奮して買い込んでしまった……
俺も師匠から転移の魔法を学んで買い出しに来よう。
◇◆◇◆
――時間はアッと言う間に過ぎる物で既に日は落ち
裏路地の商店に再び顔を出すと少し離れた場所に案内された。
バタバタと誰かが走ってくる
「この子ったら、わたしの言う事を全然聞かなくてねぇ
昼間も何をやらかしてたんだか……」
「フンッ、母さんには関係ないのニャ」
「君はどこかで会ったかな?」
「ひっ、人違いじゃないかニャ」
誤魔化そうとしているが、店を出てぶつかったのはこの子だろう。
どうりで見覚えあるような気がしたわけだ、まだ幼く小さな女の子なのだが、髪の毛と目のあたりが似ていて、母親程ではないが歳からすると発育が良いようだ。
「この子がリリーナ、わたしの娘さ。歳はまだ12なんだけど、レティの魔法に対しての憧れが強いみたいでねぇ」
「また子ども扱いして、リリはもう立派な大人ニャ! リリーナですニャ。レティシア先生ご無沙汰してますニャ。」
「……先生?」
「うむ、別に何かを教えたわけではないのじゃ、リリーナの耳外側が内出血を起こして膨れ上がってたのじゃが、ぶつけたり刺されたりした形跡もなく、明確な原因が分からないまま元気も失ってしまっておったところをクーラーティオ(治療)の魔法で治してやったのじゃ」
「なるほど、流石は師匠ですね」
「おだてても何も出ないのじゃっ」
師匠は顔を赤くして照れている
「それ以来、会うと先生と呼んでくるようになったのじゃ」
「そこの小父様はなぜ先生を師匠ニャ!?」
「こやつはわっちの弟子なのじゃ」
「!?……是非リリも先生の弟子に……」
「う~む、シャルはどう思ってるのじゃ」
「わたしはまだまだ早い気もするけど、”可愛い子には旅をさせよ”って言うしねぇ、レティさえよければ良い経験かと思ってるわよ」
「明日まで考えさせてくれなのじゃ」
「そうさね、さぁ今夜は沢山食べとくれよ」
こうして宴会が始まったのだった。