第2話:気が付いたら違う世界でエルフに出会いました。
――万物の創造主が作りし星と言う器。
そこに創造主が最初に生み出した「星の民:エルフ族」には、生きる全ての存在の中で、最も美しく、最も優れた資質、永久に近い命を与えられた。
「星の民:エルフ族」は創造主の思考より生れ仕える精霊体に聘され、「ミズドガルドの目覚めの扉」から「至高の地:アールヴヘイムの世界樹」を目指す事となる。
エルフ族の中でも最も数が少なかったが「至高の地:アールヴヘイムの世界樹」へ最初に旅を成したエルフは「光のエルフ」、次に旅を成したエルフは「地のエルフ」、三番目に成したエルフは「海のエルフ」となった。
この三部族は精霊体より更なる知識を与えられ上位エルフに進化した。
「光のエルフ」は世界樹の太い幹に街を造り、
「海のエルフ」はアールヴヘイムの沿岸に都市を築いたが、
「地のエルフ」はアールヴヘイムからミズドガルドへと帰還し、
開けた土地に石造りの都市を築いた。
エルフ族の中には招致を拒んで旅に出ずミズドガルドに残った者も居た。
それらは後に「森のエルフ」や「風のエルフ」と呼ばれるようになる。
また、初めは光を欲しアールヴヘイムを目指そうとしたが、光を独占できないと解りミズドガルドより下層にあるニヴルヘイムに下り、光と対をなす暗闇を求めたエルフは後に「闇のエルフ」となり、常闇を支配するように冥王が生まれた。
◇◆◇◆
――俺は家が燃やされ森に逃げ、岩と岩の裂け目に入った事は覚えているが、その後に何が起きたのか……
大きめで色が濃く縁にギザギザの切れ込みの入った葉が敷かれ、その上に白い布がかけられたところに寝かされていた。
徐々に覚醒していき、ここは木の幹の中……だろうか?
木の香りが漂い小屋ではないようだが、これが幹の中だとかなり太い樹だと分かる。
そして、斜め横からの姿でよく分からないが、ゆるくふわっとウェーブしたピンクがかったシルバー色の長い髪を微風になびかせ一人の女性が何かしているようだ。
「……varr……aska……(あら、気が付いたのね。トネリコの葉が効いたかの)」
よく解らない言葉とダブッて日本語も聞こえる。
女性が話ながらこちらに向きかえると、GカップやHカップぐらいありそうな胸に目が奪われそうになるが現状把握が先だ……
俺は体がだるく倦怠感に襲われ、表現しようがないほど沈んだ気分ながらも言葉を振り絞る。
「あ、あなたは……」
「わっちはレティシア、友人からはレティって呼ばれているぞ。それにしても人間がこの樹の麓、ウルズの泉の畔に来るなんて珍しい事なのじゃ」
どうなっているのか解らないが言葉は通じるようだ。
「すいません、この樹の麓って……?」
「世界樹の麓じゃ、人間はみなミズドガルドに住んでいて、アールヴヘイムへは商いで沿岸都市アクアロンデに来る程度で、こんな奥地までは来ないと思っていたんじゃがの」
ルビーのような赤い瞳で俺を覗き込んで来る女性の顔に俺も目を向けると、そこに居たのは長く尖った耳はまさにエルフに見える。
俺は森に逃げて小さな祠に……
「とりあえずこの葉を肩に貼っておけ良くなる」
あれ……たしか左腕は大火傷だったはず、火傷と痛みは残っているが小さくなっている?
よく見ればしたに敷かれている葉と同じようだ。
「ありがとうございます……」
全てを失い失意の底で疑心暗鬼になっていたが、俺は一言お礼を言うと再び眠りに落ちてしまった。
◇◆◇◆
――俺は夢の中で岩と岩の裂け目の時の様子がうっすらと浮かんだ。
たしか『何者にも脅かされない平和な日常』って願って……
再び目覚めるとイイ香りが鼻をかすめ腹がグゥゥッと鳴ってしまった。
「匂いに釣られて起こしてしまったかの」
そう言ってクスッと笑われてしまった。思わず耳と頬が赤くなる。
思い返せば夕飯前に家を燃やされずっと何も食べていないな……
「わっち特性のスープができておる。そこに座って夕飯にするのじゃ。起きられるか?」
まだダルさが残っているが、レティシアさんの言葉に従って木の椅子に腰を掛け、スープを食べながら俺に何があったかを話した。
「それはもしかすると、心の空虚感に苛まれて、過去と未来の裂け目から飛ばされて来たのかもしれないのじゃ。
創造主が星を作る前から存在していた巨大で空虚な裂け目『ギンヌンガガプ』。
長く生きているが、実際に飛ばされて来た人に会うのははじめてなのじゃ」
「そっそうなのですね……まさか違う世界に来るなんて……」
「とりあえず、わっちもしばらく一人で退屈していたところじゃ、しばらくはゆっくりして行くとよいのじゃ」
「ありがとうございます」
「な~に気にするでない、
そう言えばお主は精霊に好かているように見えるが……どんな系統の魔法が使えるのじゃ?」
「……精霊?……魔法?」
「お主はそれも分からないのか、しょうがないわっちが見てやろう」
するとレティシアさんがいくつかの綺麗な鉱石を取り出してきた。
「この鉱石を順番に握って力を込めてみるのじゃ」
言われるがままに椅子に座りながら七つの鉱石を順番に握ってみる。
「ふむむ……全て強い光を発せさせておったのじゃ……」
「ん……?」
「普通は強く光らせられるのは一つ、適正の多い闇のエルフでも三つがよいところなのじゃが、お主は光・闇・火・水・氷・風・土の七つ全てに適性を持っておるのじゃ」
詳しく聞くと先程の鉱石は精霊に反応して光る鉱石で”光のエルフは光””地のエルフは土””海のエルフは水””森のエルフは土””風のエルフは風””闇のエルフは闇・火・氷”に適性を持っていて、人間はごく稀にどれかの精霊に適性を示せばよい方なのだとか。
「良かろう。わっちが暇つぶしにしばらく精霊の扱いを教えてやろう。その代わりにわっちの事は師匠と呼ぶがよいのじゃ(面白いヤツを拾ったのじゃ)」
こうして俺はレティシアさんに従事する事となった……
余談だが、俺はギンヌンガガプを越えアールヴヘイムに来た事で見た目年齢が32歳で固定され、肉体の自動治癒が付き、エルフと同じように永久に近い命を与えられたのが分かるのは少し先の話だ。