第15話:新たな食材達と出会いました。
――こちらの世界には四季と言うものはあまり感じられない。
上位エルフの師匠とギンヌンガガプを越えた俺は、歳を取ると言う事も無くなってしまったが、妹弟子のリリーナを見ていると移りゆく時の流れを感じられる。
あれから三年程の時間が経った。
リリーナがもう15歳、元の世界で言えば中学三年生相当だろう。
身長なんかも母親のシャルフェルさんを追い抜いて、見た目はすっかり大人のレディだが……
「先生ぇ 小父様ぁ 帰りましたにゃぁ」
タンポポの綿帽子のようなフワフワな毛並でカピパラを大きくした、タラクサカム・テリコミスに乗ったリリーナが森の奥から帰ってきた。
『白金の林檎』や『聖女のワサビ』はウルズの泉の側に生るが、他にも世界樹の周辺には珍しい果実などがあり、それらを採りに行くのが最近のリリーナの仕事の一つになっている。
今日の収穫は、見た目はラズベリーに近いが、酸味が少なく苺の甘さを凝縮しネットリさせたような味わいの『深紅のロイヤルシルワベリー』
地上に群生し漏斗型の傘が黄金に輝く、アプリコットのような香りがする『黄金のアンズダケ』
こちらの世界にもあった事に歓喜し、世界樹周辺の土の中に埋まっていて、リリーナの嗅覚によって発見する事ができた『純白のトリュフ』
以上の三種だが、『白金の林檎』『聖女のワサビ』と並んで希少で高価な物だ。
「リリーナお帰り、今日もよい収穫があったようだね」
「わっちの好きな甘い香りがするのじゃ」
師匠の好物となったのはプリンに『深紅のロイヤルシルワベリー』のソースを掛けた物で、プリン自体は甘さ控え目で作るのがポイントだ。
俺としては、『純白のトリュフ』を軽く塩をふった目玉焼きに
トリュフをかけるのが好きだ。
半熟のトロリとした黄身がトリュフの香りを纏うのが最高である。
『黄金のアンズダケ』はバターで炒めて、クリームで煮込んだソースをパスタやパイ生地に合せるのが実に良い。
そうそう、こっちの世界にはバターや生クリーム、ちゃんとしたチーズは、偶然できたと言う物はあったが、ほとんど出まわって無かった……
世界樹から少し沿岸都市アクアロンデ方面に行った場所。
ここにオリーブ牛とオリーブ鶏をシャルさんから譲ってもらい飼いだし、そして、オリーブ牛の生乳から生クリームやバターに加工する実験をはじめた。
シャルさんに頼まれていた、元の世界の食材をこちらで再現する為の実験だ
「≪スピリトゥス・テネブラールム・エレメントゥム・グラウィタス≫」
闇魔法の重力を生乳に加える事で、遠心分離機でやっていた事を魔法で再現するのに成功。
魔法で脂肪分を分け比重の軽いクリーム分が上部に浮かぶ
ここから吸い上げる魔法
「≪スピリトゥス・アウレ・エレメントゥム・アブソーブ≫」
を使う事によって完全に分離する事ができ、クリームになった後、そのままなら生クリーム、さらに空気や水分を抜きながら練り上げバターも作れた。
クリーム分を無くし乾燥させるとスキムミルク(脱脂粉乳)になるが、この状態だとカロリーオフできカルシウム量はアップされて、料理ではシチュー、ポタージュスープなどに使える。
こうした生乳の加工実験が半年程で実を結び、今後の量産にむけても動き出した。
実験で出来たバターや生クリームを使った料理は師匠とリリーナから大絶賛。
ちょっとカロリーが気になるところだったりもするが、その事はまだ内緒にしておこう……