第12話:師匠に機嫌を治してもらうのが大変でした。
――シャルさんとの別れの時
「母さん、行って来るニャ」
「レティ、リリーナを宜しくお願いするわ、リリーナは、レティの言う事聞いて体に気を付けるのよ」
それが溢れないように目にうっすらと浮かぶ物を堪え、笑顔で振る舞った
「なんじゃ、まだ確実に弟子にすると決まったわけではないのじゃ
それに買い出しで街には来るのじゃ」
師匠はドライに振る舞うが、シャルさんと同じように目が涙目になっている。
口は少し悪いところもあるが、義理人情に厚く、人の面倒見は良いタイプだ。
「それでは行くのじゃ」
≪スピリトゥス(精霊)・ルミニス(光の)・エレメントゥム(元素)・フーニス(縄)≫
≪スピリトゥス(精霊)・ルミニス(光の)・エレメントゥム(元素)・ポテスタース(力)≫
師匠は無詠唱の光の縄で荷物を縛り力を増強させて背中に担ぎ
リリーナと共に世界樹の麓、ウルズの泉の畔への帰路についた。
「小父様先輩これから宜しくですニャ」
「こちらこそ宜しく」
リリーナはサッパリした性格のようで、別れ際も特にいつもと変わらない様子だった。
「この子達のモフモフした肌触りが気持ち良いですニャァ」
それよりも、タラクサカム・テリコミスのフワフワでモフモフに虜になっている。
最初リリーナは師匠と一緒を希望したのだが、俺の前にリリーナが座り、師匠が街で買った荷物を全て背負った。
荷物の量が多く俺の魔法ではまとめきれず、師匠が魔法でまとめる必要があったのだ。
「わっちが荷物持ちになるとは……」
「師匠すいません」
「リリが一緒に来たばかりにごめんなさいなのニャ」
「わっちがリリーナを連れて行くと決めたのじゃからよいのじゃ……ただ、わっちもイチャイチャしたかったのじゃ……」
レティシア師匠はそう言うと頬っぺたを少し膨らませて拗ねているようだ
「しっ、師匠……」
それから少し重い空気の中、一回だけ休憩しつつ麓に向ってひた走り、荷物が多くなったので六時間程掛かって帰って来た。
世界樹の麓に着いた途端、師匠が荷物を下に置きギュッと抱き着いて来た。
「兄弟子成分を補充なのじゃ♪」
「じゃぁリリは師匠成分の補給ニャァ」
急だったので少し驚いてしまった。
それでも無言の時がやっと終わって、師匠のガスが抜けたようでいつもに戻ってくれた。
三人でくっ付きあってて何だか変な感じになっているが良かった。
「そろそろ、荷物を中に運びますよ」
「むぅぅ、もう少し補充したかったのにしょうがないのじゃ」
「リリもお手伝いニャ」
三人で協力して玄関ホールから地下の倉庫に買ってきた物を入れていく。
タラクサカム・テリコミスも師匠が呼べば来るように調教済みなので、寂しくなるが撫でて別れを惜しみつつも森に還された。
気が付けば辺りは日が暮れていた。
「途中休憩はしましたが腹減りましたね」
「お腹空いたのじゃ」
「リリもニャァ」
三人でリビングでへばりながらも腹が減った。
「今夜は小麦が手に入ったので『すいとん』にしましょうか」
「『すいとん』がよく分からないが優しい物が食べたいのじゃ」
「リリは食べれれば何でもありがたいニャ」
小麦を師匠に頼み魔法で粉にしてもらう。
俺はオリーブ鳥でスープ作りだ。
丸鳥の毛を取り背中を上に向けて足を持ち背中に十字の切り込みを入れる。
続いてひっくり返し両ももの付根に切り込み入れ、両手で両足を持ちガバッと広げて関節を外す。
片方ずつ足を引っ張って外し、包丁の刃元を肩甲骨に当て押さえ、手羽もとの付根を持ち引っ張り取り外し胸肉を外す。
ここで内臓が見えているが、俺はまだ内臓に詳しくないので今日は止めておこう。
一通り外し鳥の解体が終了したところで、骨付きの鳥肉とニンニク、ネギなど香味野菜を煮込んでスープを作成。
ここに小麦粉に塩を入れ水を三回に分けて入れながら、耳たぶ程の硬さになるまでこねる。
すいとん生地が出来たところで鳥のスープにひと口大にちぎり入れ、すいとんが浮かび上がってきたら塩と胡椒で味を調えて今日の夕食の完成だ。
「具は鳥肉と白くて浮いてるヤツだけだが、体の芯に染み渡るようで美味しいのじゃ」
「食べた事がない料理だけど美味しいのニャ」
鳥のスープが良い出汁出ていて実にいいな。
野菜は少ないが鳥肉とすいとんで腹には溜まった。
「体がポカポカしてるのじゃ、疲れたから眠くなって来たのじゃ」
師匠は道中魔法をずっと使用してたのだから疲れているのも分かる。
「今日は早めにゆっくり休みましょう」
「リリはどうしたらいいかにゃ?」
「これ運んでくれるかな」
俺とリリーナは手早く食事の片付けする中、師匠は寝室のベッドにフラフラとなりながら歩いて行った。
「師匠、着替えないとゆっくり休めませんよぉ」
「う、う~ん」
何やら唸りながら手を上げてきた。
どうやら着替えさせて欲しいらしい……
「リリーナ、ちょっと師匠にアレ着替えさせてくれるかな」
アレと言われた物を手に取り顔を赤くしながらも頑張るリリーナ
「リリもアレみたいなの着た方がいいのかニャ……」
アレと言うのはシースルーのキャミソールワンピースなネグリジェだが、リリーナにはまだ早い……よな?
「別に無理に師匠と同じ物を着る必要はないと思うよ」
そう言うとリリーナはホッとした顔で白い大き目のシャツを取り出し着替えた。
「これがゆったりしてて楽なのニャ」
十二歳には見えないDカップ程の胸の持ち主であるリリーナが、大き目のYシャツだけをゆったり纏っている姿は、豊満な胸元部分と腰のクビレを強調したレティシア師匠、二人は対照的な寝間着だが両方とも実にエロい……
そして、俺とリリーナは師匠に呼ばれ、一つのキングサイズのベッドで川の字になって眠るのだった。