第1話:引っ越したら村で虐めに遭いました。
俺の名前は華房 将生32歳。
身長175cm、体重76kg、A型のおうし座、どこにでもよくいる都内の中小企業に勤めるサラリーマン。
一時は結婚もしていたが今は独り身の所謂バツイチと言うやつだ。
母親は小学校の頃に他界、先日親父も交通事故で逝ってしまった。
いろいろ重なりポッカリと開いた心の空白……
それを埋めてくれるかのように友人に連れられジビエ料理を食べに行った時、今までになかった衝撃を受けてしまった。
これまではクリスマスにフレンチで鳩肉は食べた事があったが、鹿肉や猪肉は獣臭さと硬そうと言う苦手意識が働いて避けてきた。
それが、友人の強い勧めに負け食べてみたら、猪肉は獣臭さは無く豚肉を淡泊にした感じで脂もしつこくなく、野生味溢れる力強さを感じ実に美味しい!
低温調理でじっくり仕上げられた鹿肉のタタキも絶品だ……
ジビエと言う新たな食材との出会いもあり、俺はとても興味を掻き立てられた。
都会の通勤ラッシュなど慌ただしいストレス社会から逃げ出すべく、田舎暮らしを考えるようになったのだ。
◇◆◇◆
――俺は狩猟免許を取得し、父親の死で得た遺産と慰謝料を元手に、スローライフをすべく仕事を辞め田舎にIターン。
役場で説明を受けた際に消防団に誘われてしまったが、何も知らない土地なのでと丁寧に断りを入れ、古民家を改装し憧れの生活を手にしようとしていた。
これが災い全てのはじまりだったとも知らずに……
改装が終り住み出そうとし周辺の家に挨拶に周った。
ところが、どこの家も門前払いされ取り合ってもらえない。
そんな矢先、玄関に『村民共同絶交状』なる物が貼られていた。
都会から村に引越し何の事か解らず茫然としたが内容はこうだった。
”華房 将生氏の愚行は村民にとって害悪であり、虫けらに等しい存在で腐れ外道である。
この事から村民で協議した結果に基づき大愚と共同絶交する事を決定した。
書状をもって大愚は村に存在しないものとし、今後大愚に何が起ころうとも自らで解決すべし。
村民一同”
それからは、歩いていて挨拶しても無視され、すれ違いざまにオッサンがぶつかってきたので、カッとなって蹴り飛ばしてしまった。
この後から俺に対しての行動がエスカレートしていく……
家に落書きされ、
動物の死骸が家に投げ込まれ、
郵便物が届かなくなり、
電気・水道・ガスが止められ、
道路を歩いていたら軽自動車が突っ込んで来てひかれそうになり、
終いには家を燃やされてしまった……
辺りは暗くなり出し目の前にある家は激しく燃えている。
その様を見ながら失意に暮れ茫然としていた。
だが村民達の暴挙は止まる事を知らず、松明を持って追い立てられ、俺は左腕に大火傷を受けながら森へと逃げた。
森に入り何時間走っただろうか……
岩と岩の裂け目に入ると小さな祠のような物があった。
俺は万策尽き藁にも縋る思いで膝をつき掌を合わせて願う
『何者にも脅かされない平和な日常』を
次の瞬間、周辺が軽やかな白い光に包まれ気を失った。