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乙葉の正体
すっかり夜になり、月夜に照らされた少女は昼間の団子売りの娘とはまるで違った。
狐の面をつけ、ハイカラな裾の短い着物をまとった彼女は、懐には短刀をさしている。
彼女の着物の中には、手裏剣、煙玉、巻き菱などの道具が入っていた。
そう、彼女の夜の姿は、世を忍ぶクノイチなのである―
「師匠、必ずまかされた責務果たします-」
彼女は忍者の里で修行を積んだクノイチ乙葉、あやかしと人が生きるこの町を守ることを任された者であった。
あやかしと人とが共存できる世界を目指したい、そう思うおおらかな考えを持つこの町の殿を陰ながら守るという使命も課されている。
そう、彼女は昼は団子屋の娘、夜は町の平和をまもるクノイチである。
来る者を助け、去る者にも手厚く施す、彼女は陰ではそうささやかれていた。
今宵も町には様々な浮き世言が飛び交っている。
乙葉は、瓦を蹴り、次々と家屋の屋根屋根を飛び移り、闇夜に消えていった-