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僕は事務所から歩いて5分ぐらいの公園に着いたのだけど、目の前には黒服の男が倒れていた。周りには人の気配はなく倒れていた男の近くにボールペンを発見すると、それを手に取った。
「こんなペンでも気絶はするんだな」
恐怖心を感じながらも、男の首筋を見るとボールペンの跡があった。僕はヒヤリと血の気が引いた。
ボールーペンを回収すると、警察に電話をかけようと思い、ポケットからスマホを取り出そうとした。すると一人の少女が倒れていることに気が付いた。
「あれ?僕が気付かなかっただけだろうか?彩音さんも女の子がって言ってたし、その子だろう」
僕はその少女に近づきながら、少女に声をかけた。
「おい、大丈夫か?意識はあるのか?おーい」
そう話しかけると、少女は薄っすら目を見開いて、僕を見た。そして口を開けた。
「お、王子様?あなたが私を助けた王子様なの?」
僕の顔をずっと見ている。なぜか少女の顔が赤く火照っているようだった。ただ少女のわりにはトップクラスのアイドル並みに可愛かった。まるで現代のクレオパトラを見ているようだった。顔を見た瞬間、僕の胸はなにかの矢を貫いた気がした。
ダメだダメだ。相手はロリっこだぞ。イケない、危ないところだった。僕はゴクリと喉の唾を飲んだ。
ただ、今、少女を助けているのはこの僕であって、僕がこの子の言う王子様になるのかな?
僕は少女の目を見ながら、コクリと縦にうなづいた。
「ようやく解放されたのね。良かった」
少女はホッと息を吐き、笑みを見せた。そして立ち上がり、両手を握りながら、僕に言った。
「お願いです。王子様、私、神楽坂千尋をお守りして貰えないでしょうか?お代ならいくらでも払います。いつも男に追われるのです。そんな生活もう嫌です」
とりあえず、予想外の状況に困惑しつつ、少女を保護し、彩音さんに相談することにした。
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「彩音さん、警察に連絡および、ボールペンの回収に行ってきました」
僕は事務所の扉を開けると、彩音さんはいつも座っている高級そうな椅子に座り、足を机に置き、腕組をしながら僕を見た。
「まさか、連れて帰ってこなくても良かったのに……」
彩音さんは机に置いてあるコーヒーを口にした。コーヒーの器を机の上に置いて、ボソりと、
「ちょっと待てよ。まさか、これも時間平面上の流れなのかも……」
そうつぶやきながら、右手をあごに付けた。
たまに訳の分からないことをつぶやく人だ。ただいきなりそんなことを言われるとこっちが困惑してしまう。
「彩音さん?どうしたんですか?それよりもこの子に依頼されまして、守ってほしいらしいんですよ。助けてほしいと」
僕の背中から隠れていた少女が僕の前に出た。そして手を両手でにぎにぎしながら、軽いおじぎを彩音さんに見せた。
「私は、神楽坂千尋と言います。どうか私を守っていただけないでしょうか」
深々と再度、おじぎをして見せた。丁寧なおじぎで。ただ今にも少女は涙目だったのが見えた。
彩音さんは腕組みをしたまま、立ち上がり、少女の目の前に向かった。セーラー服姿で。少女を見渡すと、一息吐いて黙り込んだ。
「…………」
「…………」
無言が続く、耐えきれなくなった少女は、口を開いた。
「報酬は払います。男にいつも追われているのです。もうこんな生活から解放してほしいのです」
涙ぐみながら、彩音さんに向かって言った。
僕自身、二つ返事で助けたい。そう願っていた。こんな少女が襲われる姿なんて見たくない。そう僕は思いながらも少女を見つめるしか出来なかった。
彩音さんはため息を一つ吐いた。腕組みを止め、仁王立ちで少女を見ながら、
「いーや、助けない。助けられないよ。私では」
彩音さんの予想外で悲痛な言葉が部屋全体に広がった。それと同時に、少女は激高した。
「な、なんで助けてくれないんですか。どうして、あなたに何がわかるんですか」
そう言葉を発した瞬間、地震が起きた。けっこう揺れていた。本棚の本が下に落ち、彩音さんの飲みかけのコーヒーカップが下に落ちて割れた。僕は少女をかばおうとしたが、彩音さんはピクリともせずに神楽坂ちゃんを見ていた。
落ち着いたようだ。急な地震でビックリした。余震が来るかもしれないな。
「彩音さん、ここは危ないです。避難を行いましょう」
そう僕は彩音さんに伝えると、彩音さんは僕に手のひらを見せて、
「大丈夫よ。もう来ないわ。もうそんな力残ってないから」
そう僕を唖然とさせた。
彩音さんは神楽坂ちゃんを見つめながら言った。
「これだからガキは嫌いなのよ。ふぅ。ただあんたの正体、君の過去、これから起こる未来もその過程も知ってるわ。私は何でも知っている。だけどあなたは救わない。救いたくもないの」
笑みを見せながら、少女を睨む付けた。僕の予想とは全く真逆の答えだった。
今回もご観覧ありがとうございます。