五、初めての仲間
アリアは名乗る。
それを受けて、レージは考える。
そして…
「…リア」
「……え?」
レージは愛称を考えていた。そして気に入ったのが思いついたので、口に出してみたのだ。
「リア。そう呼んでいいよな?」
アリアは面食らったような、困惑したような、照れたような、複雑な表情をしていた。
「当然いいけれど、君は相変わらずだね…」
「ん?会ったことあるか?そんな訳ないが…」
「いや、何でもないよ。こっちの話さ」
気になるが、とりあえずは話を進めたい。
「転生者ってことはお前は俺と同じか?」
もしかしたら自分と同じ、元地球人かもしれない。
しかし、
「キミも転生者なのかい?
そうか、そうなのか。だから先程から何か違うと感じたのか…
もしや、転生者の中でも特段珍しい異世界人なのではないか?」
驚いた様子で一言、それからブツブツとなにか話している。
この光景はよく分かる。俺もするからだ。考えるのに夢中になって、つい思考に溺れてしまう。
「…おーい…」
だめだ。完全に思考に溺れている。
大声で叫ぶか。
「アリアっ!!!」
「わっ!」
アリアが顔を赤くしながらこちらを睨んでいる。迫力がない。
「悪かった悪かった。でも、今思考に溺れてたろ?戻してやっただけだ。あと、睨んでも怖くないぞ。
そもそも、気になることは聞けばいいだろうが。俺も聞きたい」
「む、確かにそうだね。聞かせてもらおう…
…なんてね?ボクの《強欲》と、もう一つのスキル、《叡智》の力を見せてあげるよ。頭に触れても?」
そう言いつつ、アリアは俺に近付いてくる。もう警戒はしていない。何故か、彼女は信用できるのだ。
そして、彼女の指先が、俺の額に触れる。
瞬間、全てが真っ白になる。
ーーーーーーーーー僕は誰?
僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は誰僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は何僕は俺は俺は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕ハ僕ハ僕僕僕僕僕僕僕僕はははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハ………ーーーーーーーーー
そして、全てが『戻る』
「どうだい?自分の持つ知識や、経験、思考、生き方、さらには自分の存在まで、『強奪』された感想は?ちなみに、しっかり『強奪』したものは全て返してある。安心して」
今の、無の状態がアリアのスキルのものだと知り、安堵すら覚える。
自分の存在すら見失い、自己の存在を問い続け、あのままならば、きっと崩壊していたと思う。とても恐ろしいスキルだ。
「今のが…《強欲》の力?」
「正確には違うよ?《強欲》は求めたり、奪ったり、離さないようにするスキルだ。それを利用して、君の知識や経験をボクのものにしたんだ。これで教えなくても良いでしょ?
それで、奪ったものは返せないんだけど、ここで、ボクの《叡智》スキルの出番。これは知識を得て、守り、伝える力。ボクが一度キミの全てをいただいて、それをそのままキミに『伝えた』んだ。
素晴らしいスキルだと思わないかい?《叡智》は前世のボクの力なのだけどね」
「前世の、か。お前は、この世界からこの世界に転生したのか?
俺の前世のこと、知ってもらえたのかな?」
「あぁ、ボクは元々この世界にいる。それと、言っただろう。君の全てを知ったんだ。これは貴重な体験ができたよ。キミの世界、行ってみたいね」
「そっか。それはいつか、行ける時にな。俺もいずれは戻ってみたい。せっかく不死のアンデットになったんだ。時間は沢山ある」
「そう、そこだよ」
彼女は薄く笑う。
「アンデットになった。キミは神と出会った。そして、仲間を探してやれと頼まれた」
「あぁ、そうだ」
一呼吸。そして、アリアは言葉を紡ぐ。
目を瞑る。睫毛が震えていた。
「それではボクがキミの、仲間になろう。
ボクとキミ、二人の大罪が揃ったよ?」
ああ、そうか、俺達は仲間になるのか。
改めて実感する。仲間は欲しい。
何より、一人じゃ、俺も、アリアも寂しいしな。
さっき奪われ、返された時、彼女の心情が流れてきた。同時に一瞬《感知》に対する抵抗が消えた。その時、分かった。
ずっと一人で。人に会えなくて。話せなくて。寂しくて。辛くて。悲しくて。
それが、前までの感情。
そして、今は
嬉しい。楽しい。でも、不安で。安心して。恐怖を感じて。
きっと、俺に会えたのが、嬉しかったのだろう。
さっき、大罪能力は差別されると言ってた。それはつまり、アリアもそうなるということ。
だから人に会えない。バレたら怖い。それはストレスになる。
だが、レージは違う。レージは《怠惰》だ。同じ状況にある、いずれ『仲間』になる相手だ。
もし、断られたら。また一人になったら。それが不安だろう。
思わず、笑ってしまう。アリアはほんの少し怯えている。やっぱり、断られてしまうのは不安だったようだ。
俺も、鈍感だな。
「あぁ、俺達は仲間だよ。リア、これからよろしくな?」
「うん!!レージ、キミは仲間だ!!」
こうして、レージには仲間が出来る。仲間を守ろうと、彼は最強になろうと、いつか決意することとなる。
だが、それはまた後の話だ。