四、《強欲》の名
レージは白熱した怒りの中で思考する。
《感知》は相手の情報を得る。
人数は三人、武器は右のがナイフ、真ん中が弓、左のが杖。おおよそ魔法使いだと思われる。防具はなし、軽装のみで森に入っていたようだ。先程まで魔獣を屠っていたのが、服にこびり付く血からわかる。卑しい笑みを顔に浮かべている。
憎い。邪魔をされただけとは思えないほどに憎い。
ここまでの情報整理を、たった一秒で終わらせると、思考を切り替える。
魔手を3本、透明化させ、切れ味を持たせる。
そして、勢い良く振り下ろし、一撃で二つに切り落とそうと、魔手を振り上げ、
そこで、彼女に肩を叩かれた。
「そうそう大罪能力を使うもんじゃないよ。大罪能力はこの世界に大きく爪痕を残しているからね。もし持ち主だとバレてしまえば、世界中から狙われ、殺されてしまうよ。それに、大罪能力じゃなくても、相手に見合った最小限で戦うのが、ボクは美しいと思う。
まぁまぁ、ボクに任せてよ。」
名前を知れなかった彼女が告げる。怒りが治まってはいないが、彼女に任せてみたい。それに、能力を使おうとしたのが読まれたのも気になる。後で、彼女の能力を聞き出したい。
それに、単純に興味もあった。
彼女は右手を出し、指を広げる。すると、人差し指、中指、薬指の三本から、小石ほどの氷が生成される。相手が表情を変え、警戒する。
魔法が使えたことに驚く。しかしその威力には、目を見張った。
彼女が右手を振ると、氷は凄まじい速度で飛び、男どもの眉間を貫いた。正確無比なコントロールだ。
たった一撃だった。驚いた表情のまま、後ろにばたりと倒れる。
「…凄いな」
圧倒的な技量に驚いた。魔法の力の強さを感じた。
殺した三人を埋葬し両手を合わせ、それから彼女との会話を再開する。
彼女はこちらを見て微笑むと、
「ふふん、ボクは強いんだ。あの程度なら、余裕だね!」
自慢げで、嬉しそうな彼女を見て、ふと思う。
ーー可愛い。
「可愛いな」
「っ!?」
つい口に出てしまい、彼女は顔を真っ赤にして驚き、狼狽える。
「そ、それはボクの事を指して言っているのかい!?あ、い、いや、照れてるわけじゃないんだよっ!けっして!!」
「悪かった悪かった。ついつい可愛いと思って、口に出しちゃったわ。ごめんな」
「むぅ…。君は本当に…」
つい、イタズラをしてしまう。やり取りに、何故か懐かしさを感じた。
彼女は何かを言いかけて、すぐに口を閉じた。その表情が一瞬暗くなった気がして、今度は注意してその顔を見つめた。
照れてる彼女は可愛かった。元々が綺麗な顔立ちな上に、白く長い髪は美しいし、性格も愛らしい。
先ほどの表情は、きっと気のせいだ。
「そ、そんなことより!自己紹介をしてなかったじゃないか!
まったく、可愛いなんて軽々しくいうものじゃないよ。もしかしたら惚れてしまうかもしれないよ?ボクは案外ちょろいんだ。
さて、さっき出来なかった自己紹介をしようか。
私は《強欲》。アリア・アクィナス・マモン。
《強欲》の悪魔、マモンの名を持つ。
エルフの元賢者で、転生者でもある。元、賢者だけど、ボクは強いんだよ?」
彼女は、アリアは、そう名乗った。
ーーこの時、レージは全く気づいていなかった。
人を三人も目の前で殺し、平然としているアリアの異常さ。
そんなアリアと、当たり前のように話すレージの異常さ。
二人の、ほんの少しの狂気に、二人は気づくことは無い。
異世界なら、生命の価値観が違くてもおかしくない。
そう思う方もいるかもしれませんが、人を殺して感情に波がたっていないことに問題があります。