三、お前の罪は
声に対し、レージは沈黙で返す。
ーー敵意があるかもしれない。
レージの《感知》には、敵意感知という能力も存在する。
これは、対象がレージに敵意をもっているのか、それを判別出来る能力である。
それが、通じていない。妨害されているような感覚だ。
それだけでなく、ステータスも読めない。ほんの少しならば相手の力を推し量れる《感知》が、完全に無効化されている。
すなわち、相手は《感知》を知っていた、もしくは気付き、対策をしたということ。
それだけではない。《感知》が、違和感を訴えている。
十分に警戒し、相手の動きを探る。
すると相手、いや彼女は微笑む。
「そんなに警戒をすることは無いよ。《感知》とはまたいやらしいスキルだ。
乙女のプライバシーを覗くものじゃないよ?」
おどけた調子だが、嫌な気はしない。独特な雰囲気をもった女性だった。
だが、レージは聞き逃さない。
「そう言いつつも、《感知》を知っているということは、お前も同じようなことをしたんじゃないか?」
彼女は眉をほんの少し動かす。
「おっと、口が滑ってしまったね。残念だけど、ボクは君みたいな力は持ってないんだ」
彼女のスキルは、きっと、《感知》上位互換、または完全に別の、もっと高レベルのスキルだと思われる。
だとしたら、発動条件は?範囲は?どこまで知れる?
レージには、分からないことしかないのだ。
何も、分からない。
けれど、それは突然やってくる。
彼女のことを知っている気がした。知らないはずなのに。
レージのどこかが、彼女を求める。
それは魂だった。知らない、はずなのに。
そして、気付く。
電気が走ったように、唐突に、強く。確信する。
一つ、それでも、何故か確信できた。
もしかしたら、《感知》が、それを知らせたのかもしれない。
運命があるなら、そいつが俺に知らせたのかもしれない。
彼女は『同じ』だと。
彼女もきっと。
「お前の、罪はなんだ」
口をついて出た。我ながら、なんと洒落た物言いだろう。
しかし、こう問うべきだと、魂が告げる。
彼女は、今までとは違う笑みを浮かべ、嬉しそうに、
「ボクの罪は、《強欲》。求めてはいけない【禁忌】を求め、触れ、囚われた。
やっと、気づいてくれたんだね?《怠惰》」
これは、きっと運命だ。その運命は、きっとあの”神”の仕業だろう。
だから、感謝する。最後に、たくさんの思惑と、少しの慈悲で、この地の、高い空へ、俺を”生み出した”こと。
《強欲》のそばに、俺を送ってくれて。
あんな爺さん、二度と会えないな。
「悪かった。すぐに気付けなくて」
「いいんだ。いいんだよ。それより、名前を教えて欲しい。君の名前が知りたい。
ボクから名乗ろうか?それともキミから?」
首を少し傾けながら、彼女は笑う。
美しい人だった。白い、真っ白な髪を後ろで結んでいる。だが、結ばれた髪の中に、漆黒の髪がひと房混ざっている。
少し高めの鼻に、小さめの唇、耳は尖っていて、エルフのようだ。
けれど、レージが一番惹かれたのは、その、目、瞳である
大きめの目に、少し鋭い目尻は、知性を感じさせる。
瞳は銀色をしている。どこまでも、どこまでも深く、神秘的な妖しさを醸し出す。
そんなことを、今頃になって気付く。
警戒ばかりに心を使いすぎて、余裕がなかった。
「俺から名乗るよ。
俺はレージ・ネシア・ベルフェゴール。
《怠惰》に選ばれた、元人間のアンデット。ってとこだ」
転生者だ、とも言おうとしたが、転生者がどんな扱いか知らないし、もしかしたら、転生という概念もないかもしれない。
バレている範囲で話させてもらった。
「ふふっ。レージ、気を抜いてるつもりかもしれないけど、抜け切れてないよ。もっと、楽に話して欲しい。
ボクの名前は…」
そこまで言って。
勢いよく矢が飛んでくる。それも、彼女を狙って、真っ直ぐに。
《感知》すると同時に、魔手を出し、たたき落とす。
最悪のタイミングで邪魔が入った。
《感知》は相手の正体を探る。
それは、人だった。三人いる。
声がする。
「仕留め損ねた〜…」
「上等な女だ、こんな所で会えるなんてな?」
「丁寧に扱えよ、お前ら?
動けなくして、ポーション飲ませて回復させて麻痺させて…」
虫唾がはしる。
名を知れるところで。
大事な大事なところで。
己の汚い汚い汚い欲求のためだけに。
レージが、《怠惰》が、激昂した。
焦らします。
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