神様は白髪の老人
沈んだ意識が、また、浮かび上がる。
俺は死んだはずで、意識はさっき消滅したはずだ。
状況を考えよう。俺は天国や死後のことは考えない。死とは完全な終わりだと考えている。
だが、現に俺は死んだのに意識がある。
大量出血なら意識がある、という話を聞いたことがあるが、こんなにリアルではないだろうな。
見渡す限りの白。物はなく、寂しげでもあり、またそれが美しい。
ここは、一体どこだろうか。
「おぉ、意識が戻ったか」
何者かの声がした。威厳を感じさせる、少し枯れた声だ。
「…誰?」
少し無愛想だろうか。仕方ないだろう?せっかく終われたかと思ったのに。
「無愛想だが、混乱もしておるようじゃな」
「まぁ、そりゃあな。俺は死んだはずだ。もう一回聞くけど、誰?」
確かに混乱はしている。けど、そんなこと、どうだっていいさ。
「ふっ、ふっはははは!!」
白髪の老人が現れた。そして笑っている。
「…何が面白かったんだ?」
「人と話すのが面白くてな。特にお主のような若造はのう!」
「…いいから、早く状況説明を」
「そう慌てるな!!もっとシャキッとせんか!」
「…わかった」
「返事は元気に!」
「…はい」
めんどくさい。
「まず、状況の説明を」
「わかったわかった。お主は一度死んだ。それは分かるな」
「ああ、それは大丈夫」
「そこで重要なのが、お主とわしの事じゃ」
そこで一息いれ、
「わしは創造主。万物の生みの親であり、世界の設計者。知性あるものはわしを神と形容する。
そして、ここは【原初の庭】。全ての生まれし場所であり、世界を管理するための世界じゃ 」
神はそう名乗る。同時に、『老人』から『創造主』と呼ぶに相応しい、神々しく、重厚な気配を纏う。それは可視化され、神の周りを漂っていた。圧倒的だった。
「神様は白髪の老人、か…」
「いや、イメージ的にわかりやすいじゃろ。なぁ?」
そして、さっきまでの雰囲気に戻る。
「何で、俺をここに?」
元の口調に戻るが、気にしない。
現実味が無いのもそうだが、それ以上の理由があった。
「お主が《怠惰》だからじゃ」
「怠惰…?」
「そう。《怠惰》じゃ。大罪《怠惰》の罪人であり、適合者。
その話のためには、まず他の世界の話をするべきじゃろうな。
初め、世界は【原初の庭】のみだった。いつからか、ぽつりとわしはそこに居た。あるのは意識と、『世界を作らなければ』という使命感のみ。
まずは世界を二つ作った。最初の世界じゃ、全力で設計したぞ。
暇つぶしという意味もあったがな。
それが、お主の世界と、お主がこれから行く世界じゃ、そして…」
「まて!!俺が、これから、行く、世界…??」
「そうじゃよ?」
「つまり、これはあれだ。異世界転生ってやつだ」
「そうじゃな。実はそれも設計の一つじゃ。世界をリンクさせたかったのじゃよ。後付けじゃがな。基本的には輪廻転生という仏教の考えで良い。じゃが、魂の消費、消耗を防ぐために転生というシステムがあるのじゃ。記憶を取り戻せるものは少数で、転生時に肉体をそのまま連れていけるものは数十、数百年に一度じゃろう。
魂は精密機械と同じじゃ。点検して、整備してやらねば、いずれ壊れてしまう。転生前に、わしが見ているのじゃよ。時間がたっぷり作れるからのう。
その二つの世界の大きな違いは、マナの存在じゃ。マナとは、世界が現象を起こすために使われるエネルギーの塊じゃ。それを肉体に取り込むと、魔力となる。その魔力を用いて魔法が使われるぞ。
そんな世界に適応した生物達は、スキルを持っており、それらを閲覧するためにステータスを与えた。スキルを得たり、成長したりすればそれを知覚出来る。耳に覚えがあるじゃろう。転生を世界に組み込んだ際に、その情報を知れるようにしたのじゃ。神話や伝説、お主の身近なものじゃと本やゲーム?だったかの?それらが該当する。
お主の《怠惰》もスキルじゃ。
わしのいる世界は全ての世界を【観測】し、【調整】するための世界じゃ。【調整】とは、世界に適度に手を加えることじゃ。
例えば天災じゃな。お主の星では人が増えすぎやすいから、適度に手を加えていた。
マナはエネルギーそのモノじゃ。それを過剰に取り込んだり、大きな影響を受けたりすれば生物や物質は変貌する。
それが、魔獣じゃ。その中でも、知性をもち、文明を築いた者達を魔族と呼ぶ。中でも魔力を持つ者達は魔法を扱え、その威力はかなり高い。マナが全身に満ちているのじゃからな。
人間も魔力を扱える。魔法使いや魔術師、錬金術師などがその代表じゃな。魔族と人間はよく争っておるのう。嘆かわしいことじゃ。
魔族にはいくつか種類がある。魔獣が進化して知性を得る場合。魔獣が人を乗っ取り、知性を奪う場合。人などの知性を持つ生物がマナの影響で魔獣になる場合。この三つが基本的かのう。もしかすれば、他にも方法があるかもしれん。
ここらで、なにか質問はあるかの?」
質問か。自分の理解力のおかげで、ほぼ完璧に理解出来ている。
気になることといえば…
「《怠惰》の能力は、どんなものなんだ?」
自分の力が、何なのか、だな。