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怠惰と六人の仲間は今日を歩く  作者: 灰色の蛇
第二章 寂しさは
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六、器と中身

またまた遅れました。

更新遅くてすみません。


 ゼドアがこちらを見る。


「魔獣討伐を手伝っていただき、ありがとうございました。

 申し訳ありませんが、私はこれからギルドにこの事を報告に行きたいと思います。この数の魔獣が暴れたとなると、大森林の生態系に多少なりとも影響を及ぼしたでしょう。ですので、状況の把握や、近隣の都市への被害がないかを確認したいのです」


「分かりました。短い間でしたが、ありがとうございました。雨で体を冷やして、風邪をひかないようにしてくださいね」


「ボクもありがとね。戦う経験が出来てよかったよ。また、いつか何処かであおう」


「はい。お二人とも、お元気で。それでは」


 ゼドアが踵を返し、森の中へ消えていく。

 隙がない、様に見える。この経験は大きい。


 予想したより、はるかにあっさりした別れだった。彼とは、またいつかどこかで出会う気がする。

 きっと、出会うだろう。出来れば、友好的に関わりたい。


 意識を隣のアリアへと向ける。戦闘に必死で気づかなかったが、傷や怪我が多いのではないだろうか。



「リア、大丈夫か?」


「いや、全然。魔法をいっぱい使ったから、魔力が少なくてけだるいよ」


「それは、大丈夫って言うと思うぞ?」


「…そこは、心配してくれるところじゃないかな」


「…そう、だな。えっと、大丈夫か?」


「違う違う!肩貸そうか?とかさ、そういう優しさはないの?」


「…肩貸そうか」


「…じゃあ、ボクを背負って拠点まで帰ってくれないかなっ!!」


「…調子のんなぁ!!!」


「わっ、やめっ、やめてっ、くすぐったい!!わかった!おちょくってたのは認めるから!ついつい楽しくてっ!!やめてってば!!スキルの乱用はいけないよ!!ちょっ、やめてったら!!もう!」


 ちょっとむかついたので、魔手でアリアをくすぐってみる。魔手の制御もだいぶ慣れてきたので、指の細かい操作も出来る。力加減も自由だ。


「ふぅ、ふぅ。呼吸困難で死んでしまうかとかと思った。心が狭いね、このくらいで怒るなんて」


「今のはリアが悪くないか?俺が悪いのか?またくすぐるぞ?」


 魔手を出し、握ったり開いたりさせる。黒い腕が無数に伸びている絵面は、相当に気色悪いものだ。


「やめてくださいお願いします」


「許す。ほんとに大丈夫なんだよな?」


「…うん。大丈夫だよ。そんなに心配しなくてもいいさ」


「そうか。じゃあ聞くが、なんでそんなに魔法が得意なんだ?」


 アリアの魔法は、魔獣を最低限の威力で、かつ一撃で倒すという精密なものだ。スキルの性能にも個人差があるということなのだろうか。それともなにか秘密があるのだろうか。


「うーんとね、魔法スキルは本人の補助でしかないんだよ。魔力を魔法に変える過程を補助してくれるんだ。具体的には、魔力の節約、発動までの時短、操作の精密化、などがあるよ。よし、詳しく説明してもいいかい?」


 アリアが首を傾げながら、レージに聞く。揺れる白髪が美しく、一瞬見とれそうになる。一瞬だけ目をそらして、アリアに頷き返した。


「ステータスはさ、ボクらが何を出来るのかを表しているだけなんだ。自分に何が出来るのか、どんな才能があるのかを、明確に示してくれる。一説には神の与えた慈悲だと言われているけれど、君の記憶の中で神様はそれに触れていたね。なんとも興味深い」


「アリア、話がそれてる」


「おっと、すまない。もう少しお話させてもらうよ。例えば、君は魔法スキルを持っているが、ボクとは比べ物にならないよね。スキルの力には個人差があるんだ。武術や剣術のように。そして、成長もするんだ。努力次第でね。わかった?大丈夫かい?」


「ああ、理解出来た。話は長かったが、分かりやすかった。今のお前のスキルだと、どんな感じなんだ?」


「漠然とした質問ありがとう。魔獣を殺すくらいなら、ほとんどイメージした瞬間攻撃できるかな?レージを殺そうとしたら、再生する前に全部壊さなきゃいけないから、氷の弾幕を三層ぐらいにすればいけるかも」


「やめてください」


 そんな茶番もはさみつつ、レージは浮かんだ疑問をそのまま口にする。


「どうやってそこまで成長させたんだ?」


「地道な努力だね。毎日魔力を使い切るまで水属性を使ってた。汎用性も高かったからね。特に洗濯は、毎日たくさんの服を洗っていたよ」


「分かった。俺には無理だ」


「何で!?頑張ってよ!!努力しようよ!!」


 魔力を使い切ることは一度した。一度全身を作り直したため、そこまでの疲労感はなかったが、使い切った瞬間のだるさと、痺れるような痛みは嫌いだ。

 それを毎日か。努力家とは彼女のような人を指すのだろう。


「…ねぇ、レージ。この娘、何があったんだろうね?」


 アリアが、視線を落とす。その先には、今回の事件の元凶の少女がいた。

 青い短めの髪、小さめの身長、幼さの残る顔立ち。背丈をからは十代前半と見受けられるが、顔立ちは少し大人びている。


 ゼドアは魔獣に乗っ取られたと言っていた。しかし。


「微妙に違うかな。人を乗っ取った、と言うよりは、人を取り込んだって感じだよ。でも、何故魔獣を暴れさせていたのか、どうやったのかは分からない」


「《解析》では駄目なのか?」


「うん。《解析》は冷徹だからね。死体は死体で、死体という物体の構成を《解析》してしまう。魂の情報なら出来なくもないけど、記憶は得られないんだ。一度やっているしね」


「…そうか」


 死体は物体でしかない、か。生命の宿っていない抜け殻。()だ。


 ーーそう。()だ。


「はっ?」


「…?どうしたんだいレージ」


 頭の中に、思念が伝わる。アリアは何の反応もしていない。聞こえなかったのだろうか。

 《感知》を発動周囲を感知する。だが、何も感知しない。

 いや、おかしい。死体を、いや彼女を《感知》が生命として反応している。


「生き返った…!?」


「レージ!?この娘が!!」


 《解析》していたアリアも遅れて気づく。


 そして、


「…?」


 彼女が目を開く。


「…こコ、は?わ、ワタ、し、は?」


 たどたどしく、所々流暢に喋る。



 アリアは呆然としていた。自分が望んだ結果の一つが、唐突に起きたのだ。


 死者の復活。生命の再生。肉体への魂の定着。


 これは《禁忌》のはずだ。なにか罰があるはずだ。なにか…


 だが、何もない。つまりそれは、神の御業。

 神だけが起こせる《奇跡》。魔法とは別に、世界が自ら起こす現象。


 そこまで考えて、アリアは気づく。彼女はきっとーー


 レージはすぐに気付いた。彼女も同じ(・・)だと。

 彼女がさっきまでしていたことも考えると、彼女がどれ(・・)なのかもわかる。


 そして彼女は…


「ワタシは、わたしは、私は。

 あれ、えっと、私は、私は?わた、私は!!」


 首を傾げて、


「…どっち…?」




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