三、飢える魔獣
轟音の発生源へと、三人は雨の中を走っていた。
「あとどのくらいですか」とレージ。
「まだ離れています。少しペースを上げましょう」とゼドア。
「はぁ…はぁ。ちょっ…と、まっ……て…」とアリア。
うん。アリア体力少なすぎ。
「しょうがないな。」
アリアの事を『お姫様抱っこ』し、走る。軽い。
「ちょっ!君!何してるんだい!?やめて!!」
「お前が遅いから悪い。リアは軽いからこのまま走るぞ。
あと、『君』はやめていい加減『レージ』って呼べよ」
「仲がよろしいですね。では、急ぎましょう」
いつまでも君では、よそよそしい。
可愛い女の子に名前で呼んでほしいわけではない。
俺は体力には自信がある。それに、不死の肉体はどうやら疲れにくいようだ。どこまでも便利な身体である。
いきなり岩が飛んできた。
先頭のゼドアが剣を一振りすると、豆腐でも切るかのように岩が切断される。この人、絶対におかしいぐらい強い。
「いえいえ、私などはまだまだですよ」
『とか言ってるけど、実際は?』
『うーん。上の下?』
この人が上の下。この世界の人間は異常な程に強いらしい。
《感知》がまったく当てにならない。
『でも、強いことに変わりはないよ?多分、ボクとレージじゃ倒せないと思う。スキルも使っていないようだし、戦うようなことは絶対に避けたいね』
『そりゃどうして』
『この人、さっきの岩をほとんど見ないで切ったよね。君は《感知》があるけど、ボクらにはない。彼は気配で感じ取っているのだと思うよ。君の魔手も、存在はしているのだから、空気を動かしたり、音を立てたりするだろう?不可視化が中途半端なら完全にバレると思う。例え停滞をかけても十分に早いはずだ。魔法は多分避けられたり軌道を逸らされたりするだろうし、現時点で彼に通用する手がないよ。完敗するね』
『…』
とりあえず分かったのは『この世界の人怖い』ってことだ。この人で上の下でしょ?中の上の上とかに俺らは負けるってことだよな。
…強くなろう。このままだといつか殺される。多分『再生より早く全身切れば勝てる』とかいう頭のおかしい奴が出てくると思う。
じゃなきゃ消滅とか石化とか箱詰めとか永久ミンチとか燃え続ける燃料にするとか拘束して海に沈めるとか無限の食料にするとか…
考えれば考えるほど不死を倒す方法が思い浮かぶ。
そもそも俺の《不死》は完璧じゃない。頭と心臓を同時破壊すれば俺は活動を停止する。
そうじゃなくても、要は再生する前に殺し続けるか行動不能に出来ればいいのだ。とくに海に沈められるのと永久ミンチは絶対にいやだ。片方は暇すぎるし苦しいし片方は痛すぎる。
寝るのは好きだけど、永遠には寝たくない。死と睡眠は違うのだ。
また、岩が飛んできた。ゼドアが一閃。ああやって剣を操れるのはかっこいいな。魔手で剣をたくさん持つのとかかっこよさそう。
また、轟音が聞こえた。
それだけではない。遠くから、魔獣の鳴き声が聞こえる。それも一匹ではなく、無数の種類の魔獣が大量にいるようだ。
「何事でしょうか。危険そうですが、進みますか?」
「ここまで来たなら様子を見に行きましょう。ゼドアさんなら、魔獣ぐらいどうにかなるでしょう」
そんな安易な気持ちで、この先を進んだのが間違いだった。
そして、見てしまう。多くの死体を見たゼドアですら、思わず呻き顔を歪める様な惨状を。
ユグドラシル大森林中央部。
何百匹もの魔獣が互いを貪りあい、散らばった鮮血は生臭い匂いを放つ。そして、聞こえる咀嚼音。
グチャグチャ、バリバリ、メキメキ、ゴリゴリ
その中には、ただ喰われるだけの、理性を失った人々が混ざっていたのだった。
アリアの絶叫が、死臭溢れる森に響き渡った。
アリア「ブクマと評価と感想が欲しいかな」
レージ「強欲だな」