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怠惰と六人の仲間は今日を歩く  作者: 灰色の蛇
第一章 仲間がいれば
10/35

七、そして《強欲》は一度目を終える

十話目です。

少し長め。

 まず、術式の構成。


 もし、《反転》というこの世に存在しない魔法を行使できれば、死のエネルギーを生のエネルギーに反転させられる。


 しかし、それは神の魔法。


 《蘇生》を使うのが一番だ。

『蘇生』も神の魔法であるが、不可能ではないはずだ。


『生命錬金』


 それはこの世の禁忌(許されざる行い)であり、知恵ある生物の触れては行けない領域である。



 ーーそんなことは、どうでも良かった。


 優しくしてくれた家族。親しくしてくれた隣人。仲良く議論をかわす友人。

 いくらアリアが恐れられる存在でも、村人は優しくしてくれた。


 それがいなくなれば、アリアは一人だ。


 寂しいのは嫌だ



 だから、いま、呼び戻す。



 《錬金術》は二つのものから一つ別の性質を持つものを創造する力。


 生物には、魂と、器となる肉体が必要だ。

 ただの器は器でしかなく、魂は定着できなければ消えるだろう。


 例えばゴーレムには、擬似的に魂の役割を果たす『魔石』を埋め込む。魂に命令を与え、ゴーレムを動かすのだ。


 だが、今からするのは『蘇生』だ。


 死ぬ前までの全ての情報を持つ魂を創り、それを肉体に与える。


 村人の身体を修復する。いくら治したところで、魂のないただの抜け殻だ。それで十分だが。



 さぁ、魂を生み出そう。

 村人達の記憶を《知識》で解析する。《知識》は知識を得るための力。解析と、完全記憶が能力だ。


 解析した記憶を全て保存する。


 そして、魂の基礎となる、エネルギーの塊を生み出す。

 そこに、記憶を流し込む。アリアのほとんどの魔力を喰らい、塊は出来ていく。


 精密かつ高度。極限とも言える集中力で、加速した思考の中で、アリアは超高速で作業をする。


 魂が、出来た。


 気は抜けない。すぐさま魂を村人に定着させていく。全員に、同時に。


 それすらすぐさま終わらせる。



 あとは、魂と肉体を繋ぐだけ。



 残り少ない魔力を動かし、魂と肉体を接続していく。


 記憶を脳に、エネルギーを隅々まで浸透させる。


 …彼女は気づかない。魔力が黒く染まっていくことに。美しく白い髪の一部が、黒く染まることに。銀色の瞳の中心が、黒く染まることに。




 ーーー村人が起き上がる。








「「「「グォォォォォオン!!!!!」」」」



 村人は吠える。この世のものとは思えない、歪で、耳障りで、不快な声で。

 村人達の、声のはずなのに、不快で不快で仕方が無い。



 アリアは呆然とする。何が起きたのか、分からなかった。理解出来なかった。したくなかった。



 だが、無慈悲にも起動していた《知識》は解析結果を告げる。




「…死者冒涜(ネクロマンス)


 震える声で口にする。ステータスを見ても、ネクロマンスはそこにある。



 泣いた。泣いて、泣いて、泣いた。

 スキル《死者冒涜(ネクロマンス)》は、死んだ者の魂を贄として、偽物の生者(ゴースト)を生み出すスキル。



 村人は、こいつらは、死者だ。

 禁忌の代償は、蘇らせたい魂の冒涜だった。


「…ボクは。…皆を。…みんなの魂を………!!!!」


 泣いた。自分の欲求のために、それだけのために魂を冒涜することになった。それが許せなかった。


 自らの、『強欲』さを嘆いた。

 泣いた、泣いて、泣いた。


 その間も、罪の代償たちは呻き続ける。その声は、アリアを責めるように聞こえた。

 そしてアリアは泣き止んだ。


 死にたかった。ほんの少し回復した魔力で氷を生む。尖らせて、喉にむける。

 目を瞑った。高速で氷が動き、それが喉に突き刺さる。




 はずだった。痛みは来ない。目を、恐る恐る開ける。


 目の前に手の甲があった。氷が貫通し、それでも血が歪に流れる手が。


 ゴーストの一体が、氷を止めていた。


「…ィ、キテ」


 それは彼女の父だった。冒涜された魂の、その残りがそうさせた。


「…分かった。生きる。死なない。

 …ごめんね」


 そこで、ゴーストは微笑んだように見えた。


 同時に、全員が崩れ落ちる。ネクロマンスを解除したのだ。


 もう一度、泣いた。ほんの少し笑いながら、大声で泣いた。父が、皆が、生きてと、そう言ってくれたようだった。嬉しくて、悲しくて、辛くて、幸せで。


 どんなに悲しくても、生きようと。

 許してくれたかは分からない。分からないが、生きてと言われた。


 それだけでしかないけれど、それがアリアにできる償いだった。それしか出来なかった。




 生きるという意思に従って、スキルが進化する。

 まとめられ、集められ、混じり合う。



 スキル《叡智》



 《知識》がベースに、知っている技法を全て能力として表し、自由に扱えるように。

 アリアは気づく。これが、生きるための力だと。この兵士達を殺したのだ。きっと、狙われる。


 死んではいけない。努力しなければ。

 覚悟を決めた彼女は、もう一度気づく。



 自分がエルフから、ダークエルフに変化していることに。


 容姿がほんの少し変わっている事に。


 魔力がおぞましい色をしていることに。


 それでも、彼女は気づけない。




 自分に、《強欲》が芽吹いたことなど。




 アリアは動き出す。まずは、逃げなければ。


 見知った街はダメだ。顔がしれている。村が潰れたのはすぐに広まるだろう。一人生きていては、確実に怪しまれる。


 町の無い方角へ。体力も、魔力も限界だが、知ったことではない。


 歩く。邪魔する魔獣は極小の攻撃力で排除する。

 背中に火をつけたり、地形を少し変えて転ばせて行動不能にしたり、小さな氷で貫いたり、風の刃で首を浅く撫でたりした。


 だが、限界は来た。

 歩けなくなった。魔力も、回復していない。そのまま、近くの木の幹に寄りかかり、意識を失った。



 それから数分後のことだ。略奪に向かった兵の帰還を遅く思った指揮官は、村の偵察に兵を向かわせた。そして、惨殺された兵と、謎の塵のみが広がる村を見つけた。村人は見つからなかった。

 すぐさま、兵を捜索に向かわせる。

 村の周辺、森の中を捜索する。そして、



 そして、アリアは目を覚ます。足音が聞こえたのだ。ほんの少し寝てしまっていたようだが、体力は少し残っている。


 逃げなければ。


 行こう。歩ける。力はないが、『死んではいけない』のだから。


「見つけたぞー!!!女一人!!!」


 立ち上がったところを兵に見つかった。

 走り出す。後ろを兵が追ってくる。妨害を加えつつ、走る。

 だが、兵士達には数があった。


 先回りをし、追い込み、アリアを捕らえたのだ。

 そのまま、指揮官の下まで連れていく。指揮官は一瞬悩むが、すぐに結論を出す。兵士に帰還を命ずる。

 ここで判断することではないと考え、彼女を国へ連れ帰ることにした。

 国から、とある命令が出されていたのだ。



 それから一日たった。

 アリアは牢の中で目を覚ます。


「…ここは」


 すぐさま《解析》する。知識と照らし合わせ、ここがゼリアス帝国であると判断する。


 ゼリアス帝国は、略奪行為の絶えない、好戦的な武力国家だった。

 今代の皇帝、ファルセル・ゼリアスは、国を広げ、力を伸ばすことを考えていた。帝国はゼリアス家の最も優秀ものを皇帝とし、皇帝の判断で全てが動かせる国であった。

 結果、帝国は武力行使を厭わない国家となったのだ。


 足音が聞こえる。こちらに向かってきている。


「魔術師、何者だ」


 男は問う。

 問われて答えるのは愚か者のすることだ。


「さぁ。ボクは一体誰だろうか?」


 相手の眉間に皺がよる。なるほど。わかりやすい性格のようだ。すぐに表情が切り替わり、嘲笑を浮かべる。


「まぁ、そんなことはどうでも良い。お前は処刑される。泣きわめきながら、命乞いでもするがいい」


 それは困る。考えよう。脱走は問題ない。魔力も体力も回復している。何より、ダークエルフは魔力が濃い。少しの力で強大な力が出せるはずだ。


ダークエルフ。闇に飲まれた種族は『ダーク』が種族名に追加される。この世界の、解明されていない謎の一つ。


 男が口元を歪めながら去るのをみとどけ、魔法を起こす。


「《ウィンドブレイド》」


 少しづつ。壁を切る。ゆっくりと、着実に。

 人ひとり通れる幅を広げ、すぐさま脱走する。

 ここが地下牢でなくて良かったと思う。皇帝や上部のきままで、たくさんの罪人を捕まえることになるため、丸ごと牢獄の大きな施設があるのだろう。


 当然、警備も厳しく、すぐにバレてしまう。もともと高い隠密性など持ち合わせていないのだ。

 だから、アリアは正面突破を選ぶ。それが最善策だ。



 同刻、『監獄』上層部に話は伝わる。


「相手はなかなかの手練だ。兵士を差し向けても、射程の長い魔法で殺されてしまう」

「ならばどうする?魔術師でも差し向けるか?」

「今国内にいるものをか?ありえん。相手の方が強い。無駄だろう」


 そんな堂々巡りな会話を繰り返す会議室の扉が、勢いよく開く。


「その案件、私が引き受けましょう」

 その言葉の主は、醜悪に顔を歪めた。



 時は進み、アリアは人混みに紛れている。町の中へ入り、隠れたのだ。

 独裁国家のはずだが、人々は予想よりはるかに明るい。前を見て、軽い足取りをしている。

 何故だろうか。そんな情報は無かった。


 そんな思考は終わる。


「みなさーん!今日も元気ですか!申し訳ありませんが、ほんの少しお手伝いをお願いします。白い髪に、黒の混ざった髪の、エルフを見つけていただきたいのです」


 そこで言葉を切ると、軽く辺りを見渡す。

 聴衆は、

「なんだよー」

「いいぜー?」

「おう、勇者様のたのみだ!」などと、威勢良くかえしている。


「ありがとう、ありがとう。見つかったら、もしかしたら戦闘になるかもしれないから。その人から離れてくださいね?お願いします!」


 すぐさま、アリアは見つかる。周囲の人々が距離を開ける。それも、相当な距離だ。


「見つけていただき、ありがとうございます!!それでは、身の安全に気をつけてください!!」


 そして、数十mの距離を瞬時に詰める。


「こんにちは、罪人さん。抹殺命令があったから、殺しに来たよ?大人しくしてね?周りが被害を受けてしまうからね?」


 ひどく芝居がかっていて、苛立つ。

 魔法を発動させようと、魔力を集め…


 気づく。


「そう、僕の領域では、スキルは使えないんだ!!これは、勇者にのみ与えられるスキル、《英雄》の力さ!

 魔法もスキルでしかないなら、僕の力でおしまいなんだ。」


 アリアは判断した。勝てないと。

 もう終わってしまったのだ。


「バイバイ。さよなら!」


 一閃、それで終わる。


 こんなあっさり終われない

次が欲しい。命が欲しい。欲しい、欲しい、欲しい!!



 声が聞こえる。


『強欲だな。素晴らしい。求め、禁忌に触れ、それでも求めることを止めない姿勢は素晴らしい。

 だが、知識を得たいだろう?欲しいだろう?ならば、力を与えよう。

 次の命に、《強欲》をさずけようではないか!』


 それを最後に、アリアの意識は消滅したのだ。



ゴーストとは、この世界では意思のない死体のことを指します。霊体も含みます。


評価頂けると嬉しいです。

でも、読んでくれたことの方が嬉しいです。

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