主人公死亡
その者は大罪を犯した。
否、それだけの狂気に飲まれていた。
憤怒、故に感情に任せて全てを壊した。
暴食、故に世界すらも喰らおうとした。
強欲、故に何もかもすべて求めた。
嫉妬、故に他人を嫉み妬んだ。
怠惰、故に自らの邪魔をするものを憎んだ。
色欲、故に愛し、愛されることを望んだ。
傲慢、故に人に、世界に、神にさえも敵対した。
創造主たる神との戦いの末、神はその者の力を器に封じた。しかし、神も、それによって力を大きく失うこととなった。
その【器】とは、その力の適合者の事である。神は適合者を、自らが作った世界の中から七人、探し出した。
その力の一つ、《怠惰》、その能力の適合者は異世界の、とある男を選んだのであった。
物語の始まりである。
その男は怠惰だった。
そして今、死ぬ所である。
男に向かって真っ直ぐに車が向かってきた。
ーーあぁ、死んだな。
そんな冷めきった感情しか、彼は感じなかった。
ただ繰り返される日々を使い潰し、目指すところもなく、ただ、ただ生きていた。それが終わっただけだった。彼はもう死んでいたのだ。
ある時から、感情は凍えた。それだけの事があった。自分の内面より外側の世界を感じたくなくなった。嫌になった。
かといって、自分の殻にこもったところで、辛いのは変わらなかった。
赤黒くなった部屋。同じ色に染まったナイフ。それらと同じか、それより濃く染まった自身の身体。鼻腔を突く、死の匂い。思い出す度に、鮮明になっていく。思い出す度に、忘れようとする。思い出して、傷つき直して、また忘れようとする。
何もかもから目をそらし、自分の存在すらも忘れてしまおうとする。
内面も、外面も同じ。なら、見なければいい。例え、それが見なくてはならなくても。
すべて忘れたい。
すべて無くしたい。
すべてやり直したい。
もう何もしたくない。
そんな時に、死が彼を襲った。
それは彼にとって救済だった。
男は自ら死ぬことも出来なかった。
ーー怠惰だったのだ。
薄くなり、世界に溶け込んで行く意識。ただぽつりと、自分のみが存在する闇。
ああ、消える。薄まる。溶け込む。流れ出す。同化する。混ざる。混ざり合う。世界と。
永遠とも思える時間の中で、そんなことを感じていた。
闇の中の意識に、声が響く。
『ニンゲン、非常に怠惰だ。すばらしい。お前には怠惰の資格がある。それだけの罪がある。やり直したいなら、その権利がある。もう一度、生きる権利がお前にはある!!お前を選ぼう。我が怠惰の継承者に!!』
そうだな。俺は怠惰で、罪人だ。
彼の意識は、完全に消滅した。
初めまして!
少しずつ書いていくつもりなので、更新も遅く、また内容も少ないかも知れません。気長にお待ちください。
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