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ヴァンパイア王の恋  作者: ルクス・エテルナ
1/2

1.目覚め

目が覚めた。


チラチラと炎が視界に入る。


身体を起こそうと先ほどまで眠っていた棺に手をかけるのと同時に、


???

「きゃあっ?!」


耳に、つんざくような声のトーンが高い悲鳴が聞こえた。


(不快だ)


そう思った。


もっと静かに、そして緩やかな悲鳴をあげられないのか。

しかし悲鳴とは声を大にして助けを求めるか、驚いてあげるものだ。緩やかな悲鳴など、あげられるものではないと思い直す。


ゆっくりと身体を徐々に上半身を起こす。


棺の近くにかけられた松明は、隙間風に踊らされながら俺を炎の波は照らした。


ボフッボッと、規則性がありそうでない炎の音を聞きながら周りを見渡す。


棺から少し離れたところに“生き物”がいる。

人間よりも優秀な種族である俺には分かる。

生暖かい血流が流れる音、太鼓のようなリズミカルな心臓の跳ねる音……。


思わず、舌なめずりをした。


過去に何度も繰り返した本能が内から湧き上がる。


“喉が渇いた”


それは本能。

三大欲求の一つ、食欲。


本能と欲望に突き動かされて立ち上がろうとして、ズキリと痛んだ心臓の真下に手をやった。


(……ケガか?)


俺は、何でケガをしているんだ?

どうして眠っていたんだ?

俺の名前は……。


起きたばかりの頭だから思いつかないんじゃないかと思ったが、どうやら違うらしい。


そのとき手の先で、何かに触れる。

【エルンハイム=アーロン=ブラッド】

そこには、そう記載され丁寧に文字が彫られている。


(俺は……。)

俺は、偉大なヴァンパイアを統べる王。


そうだ。間違いない。

確信に近いものが自分の中に満たされていく。


自分の名前だと認識するのと同時に一瞬、知らない人物が脳内によぎる。


「──!!」


それも一瞬の出来事で深く思い出せない。


王である俺がケガをしたまま眠っている理由が分からない。

(何があった?)

喉の渇きと、記憶の混迷。

欲求と困惑。それが入り混じる。

とりあえず、近くにいる獲物で食事をしようとエサの方を見る。


どうやら人間の少女らしい。


???

「うそっ?!

嘘だよね?!」


暗闇のなかでも浮かび上がる金糸の髪。


声からして年若い少女の声。


俺が思うのは、

(腹が減った……お前を食わせろ)

それだけ。


一歩を踏み出す。

俺の一歩は、人間からみたら通り過ぎる風に感じるだろう。


気づかぬうちに首筋に噛みつき血を吸う。これを待ちわびて、牙を少女に当てる……ハズだった。


(この匂い……)


(俺は、この人間の匂いを知っている)


少女から香る、人間のフェロモンの香り。


記憶が曖昧なはずなのに、この匂いは知っている。

そして俺は、首筋から牙を外す。


少女をまじまじと見た。


間近で見た少女は、恐怖におののいて小刻みに震えている。


見開いた青い瞳、

血の気の引いた顔、少女を彩る金糸の髪……。


俺は、少女から少し離れて声をかける。


「食べたりしないよ」


知らないはずの少女から香る、知っているフェロモンの香り。

それが食欲よりも興味が打ち勝ち声をかけた。


今は、という言葉を飲み込んで、ゆっくりと表情を作り上げた。


???

「誰か助けてー!」


どうやら俺の作り笑顔は役に立たないらしく少女は声を張り上げる。


「……」


「食べないよ」


もう一度、優しく冷静に言った。


???

「ほ、本当に?!

ホントのホント??!」


???

「嘘付かないよね??

約束してくれる?!」


少女は、早口で確かめるように下から視線を送ってくる。


「本当だ」


今は。

もう一度、その言葉を飲み込んで、にっこりと笑ってみせた。


「その代わり、お腹がすいてたまらないから、

花の蜜をコップ一杯分くれればいい」


???

「分かったわ!今はないから、私の家まで来てくれればあげられるから!」


少女は、あからさまに肩から力を抜いて、ぎこちない笑みを浮かべる。


「君の名前は?」


一応、便宜上、名前を聞く。


さすがに『エサ』とは呼べないし、そんなことをして警戒されたままでは うるさそうだと思ったからだ。


???

「私はアリア」


アリア

「アリア=ホースウッドよ。

あなたの名前は?ヴァンパイアさん」


「エルンハイム=アーロン=ブラッド」


アリア

「じゃあブラッドさん、

蜂蜜をあげるから……村まで案内してくれる?」


「……迷子?」


ふと思いついたことを口にすると、


アリア

「ち、違うわよ!ちょっと道に迷ったの!!」


(それを迷子って言うだろ……)


半ば呆れながら、


「道に迷っただけなんだな」


アリア

「そうよ!村まで案内、よろしくね!」


少女の脳天気な受け答えに、

口元が笑ったのに気づけなかった。

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