〇四一〇 ♯4【終】
* * *
数度の瞬きの後、視界に映ったのは、クリーム色の天井だった。相変わらず視界はぼやけたままで、その上熱を帯びている。口には酸素マスクが被せられているし、身体中けだるさで支配されていて、上手く動かせそうにはなかった。
状況を飲み込もうと見回した途端、普段から見慣れた相棒の顔が項垂れたまま唇を結んでいるのが目に留まった。彼女は夏希と視線が合うなり、ぱっと面を上げた。
「……良かった……。ちゃんと、目、覚ましてくれた」
「何だよ……人を殺すなって、の……」
掠れた声で夏希が悪態を吐くと、真麻はふるふると小さく首を振った。良く見て見れば彼女の手元には、自分の手が握り絞められている。麻酔が利いているのだろう、感覚は余りなかったけれど。
何となく、解っていた。ここが病院で、手術後なんだろうって。
夏希の負傷はそれ程までに深かった、と思う。体感でただ痛い、と思うだけだったから傷が内臓に達していたかどうか、は解らない。けれど木刀を切り落としてしまう程鋭利な刃物で、真っ直ぐに切りつけられたのだ。死んだって何ら不思議はなかった。
「……ごめん、ごめん、夏希……。私がもっとちゃんと止めてれば、こんな事にならなかった。ちゃんと来ないで、って言えば良かったんだわ……」
電話越しに聞いた、喉を詰まらせる様な声が、ぽつぽつと降ってくる。は、と息を吐くと、プラスチック・マスクの中に息が凝った。
「……みんなは?」
問いかけると、突然だと思ったのか、真麻は一瞬喉を詰まらせた。それからゆっくりと、「無事。他のみんなはただ眠らされていただけだったから」と頷いた。
「……じゃあ、いいよ。他のみんなはとにかくだけど、俺には、謝るな。俺が勝手にみんな巻き込んで、勝手に怪我して、させちまったんだから」
謝るのは、俺の方だ。目が覚めてから、そんなに時間は経っていない筈なのに、ずっと頭の中に浮かんでいる言葉がある。
“何も、出来なかった”大手を振って、助けに行く。そう言った筈なのに、助ける事はおろか、こんな風に傷を負ってしまった。格好良いことなんて、何一つ出来なかったのだ。
「違うの、私が――」
「真麻、お前はさ、やれたか? 言ってた事。守れた、か?」
わざと言葉を切る様に問いかけると、女はぼやけた視界でもはっきりと解る程目を丸くしてから、ん、と小さく頷いた。
「……なら、いいや。俺は気にしない。ていうか、あの時戦ってた奴……誰だったんだ? 助けられちまったからさ」
最後、あの旋風が乱入してこなければ、夏希はそれこそ死んでいたかもしれないのだ。現場にいた真麻なら知っているかもしれない、そう踏んでいるのだ。すると。
「俺だよ、レッドアロウズ」
部屋の隅から声がした。透き通った、初めて聞く声だ。ぼやけた視界を向けるとそこには、無表情のままの少年の姿が佇んでいた。
書面上に見た顔でも実物とは印象が異なる、なんて事は良くある話だ。気合いを入れて撮った証明写真と本人とは、同じ人間の筈なのにどこかちぐはぐにも見えるものだ。
レッドアロウズのオフィスでもないのに、部屋はしん、と静まり返っていて、むしろ空気が重たくのしかかってくる様だ。夏希はなんとか酸素マスクを外せるまでは回復したけれど、未だ微熱は続いている状態である。しかし、だからと言って欠席します、と言う内容でもない。そして無理やりこんな状況になった訳でもなく、夏希自身が希望したのだ。
眼鏡を僅かに正す音と溜息が、静まり返った部屋の中に響き、壁を叩き、反響してくる。
「それで、一条。説明をしろ」
背筋を正してたった一人に視線を向けた司令官に、はい。と真麻は辿々しく返事した。
あれから、夏希は再び眠りに落ちた。実際何時間経ったか解らなかったけれど、気がついたら柳が到着しており、今から一条に詰問する予定だ。と告げられた。同時に、夏希の両親達も今晩中には到着するだろう。とも。流石に遠い仙台の、規模的には総合病院程度だろう。に、いくら新幹線が通っていようとも、東京から直ぐに駆けつけてこれる筈がない。柳は元々、ある程度準備だけはしていたのだろう。処分の検討も含めなければならないから早急に話を聞く、と告げられて、夏希は同席を願い出たのだ。現場で一番最後まで記憶があったのは自分だったし、処分と聞いては、自分だけ欠いて、情報を伝え切れないのは嫌だったからだ。
だから、動けない夏希の為に、こうして部屋に来て貰っているのだが。
真麻はいくつか、頭の中で言葉を選んでいる様だった。しかしようやく意を決したのか、ゆっくりと顔を上げた。
「今回の件は、全て私の独断による単独行動のせいです。処分は勿論、覚悟の上です。け、経緯としましては……」
ゆっくりと、差し障りのない言葉を少しずつ削り取って口にしていた様子だったが、その時す、と椅子から立ち上がる姿に視線が向いた。
「待って。今回の件は、俺が話す」
真麻を庇う様に腕で制した少年に、ほぼ全員が怪訝の眼差しを向けた。
「君は……箱守和也君……だったかな」
一層眉間の皺を深くして柳が問いかけたのに、少年は「そうだ」と頷いた。
箱守和也。それは、夏希が書面上で見てきた名前だった。四月、箱守教授殺害事件においては被害者遺族として名を連ねたし、真麻と連絡を取った時も、少年の名が上がっていた。父はおろか、母も数年前に交通事故に寄り他界、叔母も病死、義叔父は行方不明と彼個人ではないが、血筋の経歴は暗雲に満ちている。唯一残されたのが母方の祖父母と、妹のみ。そのくらいしか把握していない。そんな少年が何故ここにいるのか、非常に疑問だった。
「今回の事件、俺がお姉さんに頼んで、ついてきて貰った。秘密にしてくれって言って。俺が……あんたらには、何て言った方が解りやすいかな……。D―クラウンのSに呼び出しを受けた、“X”だ」
はっきりと、声変わりの兆しも見せない透き通った声色が部屋中の壁を反射して、頭を殴り付けてくる様だ。
嘘だろ、だって、Xって……。思わず言葉を失ってしまう程だ。代わりに麗花が「う、嘘でしょ、だって……」と声を濁したし、追いかける様に、藤堂が唸った。
「き、君は、十二歳でした、よね……? そんな、まさか……だって、中央区の会館の一件だって……」
コンサルタント企業の会議を襲撃したD―クラウンをものの数分で片付け、あまつさえ室内の壁に大穴を穿った。どこからどう見ても、十二歳の少年としか見えないし、腕も足も細く、背だって低い。真麻ですら、機械がないと無理ね、なんて言っていた。その上Sが敢えて大型パネルをジャックしてまで呼び出したかったのが、この少年だとは信じがたい。
「全部俺がやった。信じないなら、どうやったのか、説明してもいい。俺、父さんからその力を貰ったんだ。D―クラウンも、俺が片をつけた」
「和也君っ」
真麻が窘める様に名前を呼ぶと、箱守和也少年は小さく頭を振って返した。
「……いいから。もう、俺から誰も取って欲しくないんだ。例え悪い事でも、何でもさ。だから言う。あいつらはもう動かない。悪い事もしない、俺に誓わせた。だからもう、構わないでやって欲しい」
「どういう事だね。いいか、箱守和也君、Dークラウンは犯罪者だ。世間的にも被害が出ている。もし犯人の居場所を解っているなら、きちんと説明をして貰いたい。捕まえなければならない。それが我々、正義を預かるものとして……」
普段冷静な筈の柳も、半ば困惑している様子だ。何しろ降って沸いた情報が、荒唐無稽過ぎるのだ。流れもいまいち掴めないし、ましてこの子供たった一人で、今までレッドアロウズが逃がしてきた彼らをねじ伏せたなどと、絵空事でも信じられない。しかし和也少年は、ゆっくりと冷めた眼差しで司令を見つめた。
「……あのさ、あんたここで一番偉いんだよな? 正義を預かるってさ、あんた達は、俺に何してくれたんだ? 正義って、誰が誰に対してしてくれるもんなの?」
「……確かに、箱守教授の一件は、力及ばず、申し訳ないと思っている。しかし、だ」
「しかしも何もないよ。何にもしてくれなかった。このお姉さんだけが、俺と美羽を守ってくれた。俺、D―クラウンが父さんの事件に関係してると思って、一人でずっとあいつらを追いかけてた。あんた達があいつらを逃がしたままでいる間に全部倒した。何も関係がないのが解ったし、二度と悪い事はしませんって、俺は聞いた。被害被害って言ってるけどさ、あんた達がたとえばあいつら捕まえて、被害者って人達に謝らせられんの? ごめんなさいって。それともお金払えば済むの? ごめんなさいって、父さんが死んだ時の値段みたいにさ。母さんだって、ごめんなさいって、今でもお金を払われてるみたいだけど、それで済むの?」
「和也君! そんな話しないで。私が」
慌てて背中に追いすがろうとした真麻の腕を、和也少年は振り向かずにやんわりと振り解いた。冷めた眼差しは小さな少年が持つには酷く重たく、冷ややかなままだ。
「ううん、しなくちゃ多分駄目だよ、俺はそう思う。例えばあそこであった事をただ話す事は出来る。けど、俺も守りたい人がいる。正義って簡単に口にすれば片付けられる、と思ってるかもしれない、そんな大人には、何で俺が一人で戦わなくちゃならなかったのか言わなきゃ、いけない気がする。大人って、なんかあったら報告書って奴に書いて、判子推して、おしまいにしちゃうから。俺のわがまま、もうちょっとだけ付き合ってよ」
ぴんと張った背は、ただの子供のものではない。夏希は、今日以前の箱守少年を知らない。否、一度はテレビの中継で見た事がある。けれど彼はその時沈んだ表情のままだったし、あれが彼本来の姿だったのか、それとも今の状態がそうなのか、判別がつかない。
けれど、言っている事は、何となく解る。小さくうん、と頷いてから、夏希は熱っぽい胸で、思い切り息を吐いた。
「ええと、箱守……和也だっけ。お前の言い分は何となく解る。ホントに、親父さんの事は悪かった。俺も行く筈だったのに、いけなかった。確かに大人は正義とか、正しいって言いくるめて終わりにする奴もいる。けど、悪い事したら、ちゃんと謝る為に、法で裁かれる為に、法律があるんだ。だから簡単にはもう放っておいてくれってのは、ちょっと違う……と俺は思う」
夏希は、彼を保護すべく動いた事件では欠席してしまい、彼の言う通り何も出来なかった。けれど、全てをそれで片付けてしまうのは、イコールにはならない。和也少年の話の着地がどこに行くのか、確認するまでは良しと言ってはいけない気がしていた。少年は頬を僅かに膨らせて、小さく唸ってみせる。
「……そのくらい、俺だって知ってるよ。けど、正義って、法律って、どこまで人にごめんなさいって言わせられるの? 俺の父さん殺したのは、川澄のおじちゃんだろ? 死んだ人に謝らせる事なんて出来ない。母さんが死んだ、ごめんなさいのお金だって、顔見せて渡してくるんじゃない。ただ銀行に入れられるだけだし、俺はごめんなさいって言われてない。正義ってさ、どこまで貫いたら正義になるの? あんた達は、その正義って奴貫くのに、あいつら捕まえられもしなかっただろ」
「今まで捕まえられなかった事は、勿論謝罪しよう。しかし、箱守君。罪を償う事により被害者の心も軽くなり、救う事になる。彼らは犯罪者だ。再犯に怯える市民がいるなら、その彼らも救わねばならない。きちんと逮捕される事により、民衆の目にも如実に現れ、安心に繋がる」
和也少年の言葉に被さる様に、柳が言葉を発する。宥める様な声色だが、どこか大人の威圧を感じさせる。夏希にはそう感じた音だった。しかし、それで少年が揺らぐ訳ではなかった。
「あんたたちの言い分は解るよ。けど、絶対にもうあいつらは……D―クラウンは動かない。もしまた悪さをするなら、責任持って俺がなんとかする。……このお姉さんをあんまり責めないで。この人は俺が復讐しないように、誰もいなくならないようにしてくれた。例えそれが、あんた達のルールを破っても、だ」
「一条、要領を得ない。話をしなさい」
「は、はい……」
問答を無意味だと思ったのか、柳の矛先が再び真麻に向けられる。目線を配られた女は、膝に置いた拳をぎゅ、と握り絞めた。けれど直ぐ様、少年の声に遮られてしまった。
「いいから。じゃあ、まず順を追って説明する。昨日、Sに呼び出されて、一度はあいつを退けた。けど真相が解らなかった。九時頃、困ってお姉さんに連絡してる。履歴は確認して貰えば解るだろ? で、奴らが次に狙ってたのが、前に壊されたリゾートホテル開発地だって解ったから、そこに向かった。あの村で様子伺ってたのを、Sも、Nも、全部やっつけた。赤いジャケット着た奴らがいただろ。あいつNって言うんだ。……多分、もうあそこに行ったって何もないと思うよ。俺が悪い事はさせませんって言わせたんだから」
聞いていると、筋が通っている様で、通っていない。そんな気がする。夏希の負傷はN、と呼ばれている男に付けられたものに間違いない。けれど彼は「静かにして欲しい」ぽっつりと口にしていた。本当は、あの場所に何かがあったのだ。
麗花も困惑した様に小さく唸ったし、藤堂も頭の中がまとまりきらないままなんだろう。和也少年を見つめた。
「……しかし、自分には到底信じられません。どのみち、彼らは法律を犯している。捕まえなくてはならない相手なんです。和也君……でしたか。それを解って頂きたい」
「……悪い事したら捕まるなら、それが正義なら、俺も捕まるよ。俺、D―クラウンの奴ら、怪我させたんだ。Mは腕の骨折ったし、他の奴らも思いきり殴った。俺は何の罪で捕まるのかな?」
「……相手が訴えれば、傷害罪になるでしょう」
「じゃあ、俺は捕まえて欲しくない。向こうは俺が悪い事するなってお願いして、いいよって言ったんだ。俺が“正しい”って思った事も、法律だけで見れば悪いことになるもんな」
暴力を振るったんだ。それだけの事は覚悟している。けれど、どこかそれだけではない気がする。夏希はそう感じていた。それに真麻がその肩にすがって、ぐい、と引っ張った。
「和也君、違うの、彼らが知りたいのは、真実だけなの。貴方が言ってるのは……」
「正義って、沢山理由があってさ、信じて突き進んでも人によっては悪にもなる。俺はそう聞いた。あいつらはあいつらの事情があって、悪い事かもしれないけどずっと信じてきた。俺も、そうだ。あいつらはあいつらのしてきた事に胸張れてたし、俺はちゃんと、いい事したって胸張れる。あのさ、あいつらの事訴えてるって、誰がいるんだ? 今すぐどうにかして欲しいって、殺すまではしなくても、裁かれて欲しいっているのか? それよりもあいつらの事今すぐ守りたいって思う人がどこかにいて訴えられたら、あんた達はどっちの声を大事にするんだ? ……勝手な言い分だって解ってるよ。けど俺は、誰にも傷ついて欲しくない。もう、誰もいなくなって欲しくないんだよ」
なんて難しい事を話すんだろう。到底、十二歳とは思えない発言だ。Dークラウンは犯罪者集団だ。確固たる意思を持っていても、悪い事をしていた。人質に遭った人々や、銀行に勤める人、他にも沢山、それに付随して被害者がいる。到底許せる事ではない。
「それは子供の言い分だ! いいかね、例え君にそんな力があったとして、世間的に認められる事ではないぞ、犯罪者をそのままにするとは。こちらは隊員も負傷しているんだ。みすみす放っておける事ではないだろう。堂々巡りだ、一条……」
改めて、柳が当事者の一人に意見を求めようとした、その時。ぱん、と弾けた様に和也が椅子をかかとで蹴り倒した。
「じゃあ、それは大人の、何にも守らなかった奴らの言い分じゃねぇか! じゃあ言うけどさ、警察が、正義がその間何してくれたんだよ。検証とか言って父さんの身体切って、俺んち荒らして、そんだけじゃねぇか! 美羽が、俺の妹が泣いてるときに何してくれたんだよ! 俺が戦ってる間、そいつらも、お前も、何してたんだよ! お、俺が父さんにあ、会えたの……ど、どんくらい経ったとおも……っ」
「和也君、もういい。私がちゃんと話す。ごめんなさい」
「だ、駄目だ……! お姉さんは黙っててよ!」
しかしそれに真麻はかぶりを振って、和也を真っ直ぐと見つめていた。
「甘える訳にはいかない。大丈夫、元々私が勝手に動いたから、こんな事になったんだから。責任は、私の分は私が取りたい」
覚悟を秘めた、強い眼差しだ。元々真麻は気が強いし、少年に全て説明を任せるなんて、らしくないと思っていた。責任を取りたい。その言葉が、何を意味しているのかは解らない。
ただ、夏希は聞いていた。彼女が単身動いた理由を。
「あー、あのさ、その前に俺、ちょっと聞いていいか」
なんとか右腕を挙手させながら、夏希が声を発した。途端、室内の視線が一気にこちらに向き、少なくとも柳と少年のものが射る様な眼差しで、少しだけたじろいだ。それでも熱に浮かされた頭で、言葉をまとめようとした。
この事件には、不可解な点が多すぎる。突然飛び込んできた少年に、Dークラウンの機能停止。勿論それは夏希が箱守事件に関与していない事もあるのかもしれない。夏希はただの部外者だったのかもしれない。真麻が言う様に、これはあくまでも“真麻の事件”だったのかもしれないし、“箱守少年の事件”だったのかもしれない。
けれど、例えそうだったとしても、一つだけ、これだけは聞かなくちゃいけない。
「あのさ真麻、お前はこの事件、ちゃんと自分に胸張れるか? 言ってた事、出来たか?」
守りたい人がいる。助けたい人がいる。その一言があったからこそ、彼女は単身、勝手に動いたのだ。それはもしかしたら、この箱守少年の事かもしれない。別の奴の事だったのかもしれない。真麻は胸にぎゅっと手を当てて、力強く、さっき聞いた時と同じように、こくん、と頷いた。
それならいいや。笑ってやりたかったけれど、流石にそれは出来なかった。
次に少年へと視線を向ける。初めて見た時の様に、冷ややかな、しかし芯の通った眼差しだ。きっと彼は、彼のしたことに胸を張っているのだろう。そして、胸を張る為に、全ての状況説明を買って出た、そんな気がする。
「……司令。多分、俺が生きてるの、こいつのおかげです。真っ赤なジャケット着た奴を倒したのは、めちゃくちゃ小さかった。あの場所には、そいつと、多分Sと、真麻しかいなかった……と思います。多分、言ってる事はホントっすよ」
「馬鹿な、こんな子供にか。到底無理のある話だ」
そう思うのも無理はない話だ。ただ聞いただけなら、夏希だって絶対に信じられない。けれど確かにこの目で、死を感じたあの時、見たのだ。
赤く小さな旋風、そして透き通った声が響くのを。
「流石に死にそうって思ってても、見間違えないっすよ。……確かに、納得出来ない事もあるし、俺の入院費も財布に大打撃、けど俺、藤堂さんと麗花がいいよって言ったら、命を助けられたこいつに免じて、ここは信じてやりたいって思います……駄目っすかね……?」
「な、何言い出すんだ、赤城、お前まで」
もしかしたら、和也少年はD―クラウンの真のアジトを知っているかもしれない。ここで問い質さねば、犯罪者を見過ごす事に繋がるのかもしれない。けれど少年ははっきりと、自分の信じた心で、眼差しで、“もう二度と悪い事はさせないって約束した。何かあれば、俺が責任持って倒す”そう言った。同時に今、守りたいものの為に、自分に胸を張る為に出なくてもいい大人の前で、精一杯説明をしているのだ。
「いや、変な事言ってるってのは、俺も解ってるんですけど……なんていうか、確かに真麻は勝手に動いて良くないと思います。けど、俺はこいつから、行かなくちゃ助けられない奴がいるって聞きました。むしろみんなに声かけて、巻き込んだのは俺です。責められんのは、なんつーか、名ばかりでもリーダーの俺っていうか。……けど、二人は多分守ったんですよ。結果として、守れりゃいいのかなって」
「それは……」
麗花が言葉を濁らせたのに、夏希はうん、と唸ってみせた。
「なんていうかな……俺達レッドアロウズは、政府公認の、正義の味方だって、俺は思ってます。俺達の仕事って、悪の組織を見付けて喧嘩売るんじゃなくて、みんなを守る為だって、そう思ってます。こいつが言う様に、もうD―クラウンが動かないってなると、証拠も出ないし、現行犯逮捕なんてそれこそ出来なくなる。けど、こいつらが必死で何かが守れたんなら、胸張れるんなら俺はそれこそ、正義の味方だって言えるんじゃないかなって。……駄目っすかね……」
夏希は馬鹿だし、説明も下手だ。その上熱に浮かされて頭の中はほんやりとしている。上手く言えている自信なんて何一つもない。けれど、そう思ったのだ。
すると真麻は眉を下げて、小さく頭を振った。
「……馬鹿ね、そんな事で納得なんて、誰も出来ないわ」
それにまあ、そうなんだけどさ。と小さく唸った。
「けど、誰が納得出来なくても、お前や和也は納得するんだろ? そもそも今回の事だって、俺がみんな連れて突っ込まなきゃ、何も起きなかったかもしれない。真麻は俺達を頼ったら、守れなかったんだろ? 胸張ってんなら、俺はお前が胸張ってる事を信じるよ。もしそれが悪い事だってんなら、聞きたくはねぇけどさ」
夏希は、子供の頃から人に暴力を振るうのは悪い事だと教えられてきた。それは何故か、振るわれた相手が痛くて悲しい思いをするからだ。けれどそれがもし、“誰かを守る為”に振るわれた拳だったとしたら、それが絶対に悪い事だとは窘められないと思っている。泣いている奴を助ける為、死にそうになった奴を守る為に振るわれる拳が全て正しい、とは言えなくても、見殺しにするなら、間違っている、とは声を上げて叫べない。
今まで真麻や箱守少年がどんな背景を背負って動いていたのか、D―クラウンが何の為に活動してきたのかは解らない。聞いたところで、知っていても教えては貰えないだろう。あべこべに見える組織連中は真っ直ぐな信念を持って動いているのは感じていた。例えそれが悪い事だと理解した上で、だ。迷惑をかけられた人は沢山いる。追いかける事が正しいのかもしれない。けれど本質を見誤ってはいけない。
泣いている誰かを助ける為に、泣かせない為に動く。正義の味方とは、そう言うものだと夏希は思っている。もし今無理やり動いて、誰かが泣くんだとしたら、きっとそれは、その“誰か”にとって自分達がただの悪になってしまうだろう。
「あ、勿論D―クラウンの事は許すとか許さないとかじゃねぇ。また悪い事しに出てきたら、次は絶対に捕まえる。……勿論、藤堂さんと麗花がいいって言ったらなんだけどさ……。いや、入院費俺が払えるかっていうと、それもきつい、けど……」
それに二人はお互いの顔色を伺う様に見合わせてから、小さく唸った。
「……まぁ……そうですね……」
「入院費は……私達のは軽傷でしたし、気にしないですけど」
「法律を守るって大事な事だけど、守ったからってこいつみたいに、納得出来る奴が増える訳じゃない。けど、こいつらは今回、ちゃんと胸張ってここにいる。俺たちの怪我の仇も取った、Dークラウンにも悪い事させないって約束させたんなら、俺たちはもう動けない、と思う」
俺は、誰かが守れたなら、それで胸張れてんなら、それでいいです。夏希は馬鹿だ。刑事になりたかったけど法律もなんとかギリギリ覚えているくらいだし、たまにあべこべで曖昧になる。
けれど自分達はあくまでも刑事ではない。罪を掘り起こして訴えるだけの効力もなく、ただ単に誰かを守る為の正義の味方なのだ。
それにゆっくりと、麗花が頷いた。
「解った。私はいいよ。っていうか、ナッちゃんが一番怪我酷いし、ナッちゃんがいいって言うなら、私はしょうがないって思う。ただ、納得仕切れない部分はいくつもあるから、そこはもう少し話を聞いてから、だけど。真麻姉さんが無事だったから、そこはしょうがないって納得するしかないかなって」
「……自分も、最終判断はもっと詳しく話を聞いてからです。ただ実際、夏希君は彼に助けられた。我々もです。しかしどうやってあのNを倒したのか、些か信じがたい。明確にして頂かないと、絵空事のままで終わってしまいますから」
はっきりと、しかし方針がある程度決まったのか、藤堂が頷いた。柳は納得がいかない、と言う風に全員を眺めていたが、どこか諦めた様に溜息を吐いて口を結んだ。
本当にこれでいいのかは、解らない。けれど夏希はこれでいいと自分に胸を張れる。もし間違いだったなら、選んだ自分が馬鹿だった、とみんなに頭を下げるだろう。けれど今は、胸を張って“これでいい”と自分に言ってやれる。そう感じていた。
「と言う事で、俺達はこれでいい。けど、矢っ張り気になる事はある。お前、一体何者なんだ? どうやってD―クラウンみたいな奴らを倒したのか、俺達は納得する為にちゃんと聞きたい」
真っ直ぐに問いかけると、滲んだ眼差しを丸く象っていた少年は、目元を腕でぐい、と拭って、改めて真っ直ぐに夏希を見つめてくる。その眼差しは、十二歳の子供が持つものにしては鋭く、強かった。
「〇四一〇・ハコモリ。父さんが最期にくれた、俺が正義の味方になる為の力。それを使った。D―クラウンは“X”って呼んでた。それが俺、箱守和也だ」
* * *
レッドアロウズ、それは政府主導における、正義の味方の組織名である。警察庁、防衛省、法務省。初の試みである、複数省庁の元立ち上げられた、対テロにおける抑止力として機能している。そして、それぞれと特出して異なる点が、矢羽根たり、刃である能力である。
“ツバサ・システム”。故箱守和久教授が開発した、特殊能力増強装置である。例えば人は、腕を動かすその一つの動作ですら脳を経由してでないと動かす事が出来ない。無意識に、とは言えその動作一つ一つは、脳の信号によって管理されている。勿論通常では、持ち得る筋力以上の力は同じように“必要以上に力を出すな”という無意識の信号によって制御されている。それを一定時間解除し、それ以上の力を出させる為のシステムが、それである。隊員は、柳を除く全員に首の後ろの神経にチップが埋め込まれており、その制御を解除させる事が出来る。
そして、同時に、〇四一〇・ハコモリ。Xと名乗った少年が使用しているのも、ツバサ・システムを流用した装置だと伝えられた。
「父さんが、死ぬ前に俺に渡してくれた、誕生日プレゼントって奴だよ。俺は全部それで、悪い奴らやっつけた」
少年が開示したシステムは、一件すると、真っ赤なリュックサックだった。実際はいくつかのキィ・ワードで作動する、少年の身体に合わせた特殊スーツだと言う。夏希達がシステムを用いて戦った行動パターンを学習し、システム・ツバサ同様に神経のリミッターを解除した上で、オート、セミオート、マニュアルの大まかに分けて三つのパターンで動くのだそうだ。子供が持てる以上の能力を使用し、スピードを計算し、あまつさえ学習し続ける、子供には余る程の力である。まるでテレビのヒーローそのもの、夏希の印象としてはそうだった。
瞬きよりも早く動き回る、つむじ風。けれど実際はツバサ・システム同様に、起動させるだけで肉体負担がかかるのだという。それを解っていても尚、少年は酷使し、夏希を助けたのだ。
一条真麻が個別に作成を命じられた報告書は、非常に端的だった。事実上朽ちた村にて、D―クラウンの活動報告あり。一条真麻の報告書に関して、端的に言おう。宮城県沿岸の、朽ちた村にて、Dークラウンの活動予測あり。情報提供者、箱守和也からの要請を受け、侵入。その上で幹部Sを真麻個人が撃破、続いて、幹部……ナガレ、と呼ばれていたが、報告書にはN、と記載されていた。男を、箱守和也が〇四一〇を使用し、叩き伏せた。負傷した夏希を、これまた信じられない事だが〇四一〇を使用し、和也一人で病院まで運んだ。他隊員は真麻が運んだとある。そして、D―クラウンが動かない理由。ボスの引退を目の当たりにした事、引き継ぐべき人間が二度と事件は起こらない、と明言した、と結んであった。
信じるか信じないかは、目を通した人間の采配に任せるしかない。柳は報告書を受け取った際、真麻に再度事情を聞いたが、その報告書に書かれていたことのみを俯きながら告げた。それと、何の報告もなかった事を咎められた。真麻はそれも覚悟していたのが、言葉少なにこう言った。
「……これは、私がなんとかしなくちゃならなかった事件だったんです……守りたかったんです……ちゃんと」
何とも要領が得ない言葉だ。しかし夏希は、少なからず「もう誰も失いたくない」と言った和也を守る為の言葉だと、その時は受け取った。彼女は箱守の事件に関わった、それこそただ一人の隊員だし、和也も事件の当事者だった。
和也は、真麻と別れる時に、小さな声で彼女にこう告げていた。
「あのさ、多分全部話す事の方が、きっと良い事だとは思う。けど、誰も助けてくれなかったあの時、あんただけは俺のヒーローだったんだ。ずっと、そうだったんだ。信じてたいんだ、正義の味方って奴。だから、そのままでいて。俺の為に誰も死ななくて済むようにした、お姉さんの事も守りたいんだ。だからさ……」
最後の言葉は真麻に耳打ちしたものだから、夏希は彼が何て言ったのか解らないし、同じようにこっそりと伝えた真麻が何て返したのかは想像も出来ない。当事者にしか解らない事で、自分が足を踏み入れる事は許して貰えないのだろう。
後に真麻は、単独行動、及び連絡を欠いたとして、二週間の謹慎を命じられた。なんて重い処分だと思う人間もいるかもしれない。けれど、真麻はまず報告書と共に辞表を書いて提出した。一度柳に「何の真似だ」と返されてからも、後に二度書いて提出している。流石に三度目でやっと東京の病院に搬送された夏希の耳に届き、勢いで電話して「受理しねぇからな!」と言ってやった。それでも厳しい処分を望むなら、と柳が親切心で与えた。夏希はその時病院にいたが、後に麗花から聞いた真麻は、処分を言い渡された時、深々と頭を下げ「有り難う御座います」と静かに言ったのだそうだ。
そして、現在。
朝六時には目が覚めて、日課とも言える雑種犬、マルの散歩も終えた。今までだったら母親の食事を食って、二度目の歯磨きをしながらニュースを見て出勤する所だ。しかし、現在の夏希にはもう一つ仕事があるのだ。
一階の客間のふすまをすぱーん、と思い切り開け、丁度真ん中に敷かれた布団のこんもりとした山を見下ろした。もぞり、と動いているが、目を覚ます気配はない。今日もやるか。うん、と一人で頷いて、掛け布団を引っぺがした。
「おーい、和也、起きろ! 飯! 寝坊してんぞ!」
すると背中を丸めていた少年が隠れ蓑を失って頼りなさげに動いた。
箱守和也、十二歳。九月も残り十数日現在、夏希の家に居候をしている身である。これもかれも、並々ならぬ事情故に、だ。
〇四一〇は子供には、有り余る力だ。今の平和な日本ならまだしも、他国に力が渡ったら軍事利用される可能性があると、政府本体が、箱守和也の保護に動いた。実際、システムの動かし方とキーは、箱守和也しか知らず、狙うなら少年ごと攫うしかない。と言う事で、レッドアロウズに、子供で、非公式だろうと籍を置くこととなった。政府の元にいて必ずしも安全とは言えないにしろ、ある程度の抑止にはなる。柳から受けた説明がそれである。
和也は元々仙台にある祖父母の家に、妹と共に居候させている。けれど東京からは余りにも距離がありすぎて、例えレッドアロウズの籍を持っていようと、何の保護にもならない。と言う訳で、東京住まいを強いられたのだ。最初は、暫く柳の家に置きながら、彼の住まいを探す予定だったらしい。しかしいくら力があろうと、十二歳はただの少年だ。ちゃんとした食事もしなくちゃならないし、一人で何でもかんでもやらなくちゃならない一人暮らしなんて、今経験させなくたっていいだろう。だから、夏希が両親にお願いをして、こうして共に生活をしている。生活費等は、国だけでなく、祖父母の援助があるらしい。詳しい話は聞いていないけれど、学費を抜いた、食費となると多すぎる金額。母は使わなかったら貯金しておけばいいのよ。なんてすっぱりと言い切っていた。
生意気だけど、姉しかいない夏希は弟が出来たみたいで少し嬉しかった。何しろ姉というものは漫画なら酷く可愛い存在だが、実際の所は弟を小間使いか何かと思っている、それこそ小姑なのだ。ただその姉も、年が離れていせいか、和也にはちょっと甘い。けれど少しずつ生活にも馴染んでくれていて、和也はどうか解らないが、少なからず夏希にとっては悪い気はしなかった。そして、手間のかかる“弟分”を起こすのは、夏希の役目なのだ。
「あのさ、今日から真麻、出てくる日なんだけど、ちゃんとしとかなくていいのかよ。憧れのヒーロー、なんだろ?」
夏希がそう言うと、和也はばっと布団を捲って「お、起きる! 今起きる!」
どうやら和也にとっては矢張り真麻は特別な存在みたいだ。時折彼女と連絡を取るとどこか嬉しそうにしていたし、彼女の話をするだけで、ふぅん、と頬を綻ばせるのだ。夏希が「俺、一応真麻の相棒」と教えてやると、「嘘だろ」と返された。しかし今日、やっと彼女の謹慎が解けるのだ。そしたら改めて教えてやろう、と心に決めていた。
「しかし、ホントに動きねぇな、Dークラウン」
あれきり、とは言ってもまだ二週間しか経っていないのだが、トーストに噛み付きながら呟くと、正面でカップ・スープを飲んでいた和也が睨み付けてくる。
「もう動かないって言ってるだろ。お前、何回俺におんなじ話させるんだよ」
「だって、悪の組織って奴だ。ああいう悪の組織って奴は、一回や二回叩いただけじゃ終わんねぇからな。ていうか、俺は守れなかった、リベンジしてぇんだよ」
「信じてねぇならいいけど、まぁいいや、お前どうせ、今日一人仲間が増えるって知らないだろ、夏希」
「は? 真麻が戻ってくるとかじゃなくてか?」
そんな話は一度も聞いていない。確かにここ数日、柳がルーチンワークの一つである、決まった店でコーヒーを買ってくる、をすっかり忘れてしまうくらい頭を悩ませているのは、なんとなく解っていたが。増えるなら、真麻が戻ってくる以外の事は知らない。
すると和也はイチゴジャムとマーガリンを塗りたくったトーストを手に、得意げに笑った。
「違うって。……まぁいいや、どんな反応するか、ちょっと楽しみだし。今日って事は間違いないから、腹決めとけよ、夏希」
そうしてさっくりとトーストに噛み付いたのに、「何だよ」と返した。
和也とは、何度か口でやりあった。最初はこちらの事なんて全然信用してなくて、沢山話をした。強くなりたい、そう言ったから、夏希が稽古を付けている内に、何となく馴染んでくれた。その内に“ヒーローきどり”から“夏希”に呼び方が変わったけれど、それが彼なりに信頼してくれているのだと、いい方に捉える事にした。だからこそ、こんな風に悪態を吐ける様にもなったのだが。
まぁ、楽しみが増える事は、悪い事じゃない。とっとと朝食を平らげて、ざっくりと支度を済ませる。とは言っても、元々そんなに荷物の多い方じゃない。気に入りの小さな肩掛け一つ、中身だってハンカチ以外は殆ど替えないのだから、楽なものだ。和也も昨日の内に母に叱られながら支度を終えていたし、今時の、紺色にシックな刺繍がされたカラーランドセルを背負って、スニーカーのつま先を鳴らしていた。
「さって、じゃあな、和也、後でこいよ、後でまた負かしてやっからな」
「言ってろ。今度こそ一本取ってやるからな」
お互いにへっと鼻を鳴らして、玄関を出た。
そうして普段通り夏希は駅に向かい、数十分かけて電車に乗り、その間に携帯で事件の確認をする。数週間前に起きた殺人事件のその後の行方や、山梨県で起きた山火事の事、果てはロシアの企業の個人情報流出問題。様々な事柄が起きていて、どれが夏希の事件なのかは解らない。けれどどうせ今日も暇なのだろうし、何の事件でも、誰かが困っていれば直ぐに駆けつける。だからいつでもどこでも、呼んでくれて構わないのだ。ポケットに携帯電話をねじ込んで、五〇階建てのビルのエレベーターに乗り、四五階で下りる。トレーニング・ルームの中は、二週間同じで、先輩の藤堂を借りる人間がいなかったせいもあって、今日ももぬけの空のままだ。流石に今日は、久しぶりの出社もあってか、遠慮しているのかもしれない。
今日は、事件が起きているだろうか。勿論何も起きない事が一番なのだが。けれどもしどこかで誰かが困っているのなら、今度こそ悪を逃さずに、泣いている人をこの手で守ってやる。例え弱くても、役に立たなくても、手を伸ばすのが精一杯でも。全力で戦う。それが夏希に課せられた役目なのだ。
「っはよーっす!」
揚々と扉を空けると、そこにはレッドアロウズの面々が欠ける事なく揃っており、途端夏希へと視線を向けた。その中で、栗色の長い髪の女が、真麻が「うるさい」と溜息を吐いたし、夏希はそれに「いつも通り、それが一番、だろ」と笑って返した。
長い間お付き合い下さいまして、有り難う御座いました。
また、今後はムーンライトノベルズにて【セイギノミカタ】本編である一条真麻主人公のラブロマンス長編を連載予定(十月後半~十一月中旬に予定しております)、です。また、お見かけの際は楽しんで頂ければ幸いです。




