0 そうめん(キャラクター紹介)
僕たちは、学校の食堂でそうめんを囲んでいた。
時刻は8時。
朝ではなく夜のだ。
あたりには僕たち4人以外に誰もいない。
こんな時間に食堂に来るような生徒はいないだろうし、そもそもこの校舎には24時間僕たちと一部の例外を除き、誰もいない。
僕たちは使われなくなった校舎、通称旧校舎で寝食を共にしているのだった。
僕がいかにして旧校舎で日常生活を送ることになったかとか、そこでの出来事等々を語る前に、さしあたって、3人の家出少女を紹介しよう。
まずは僕の正面の席から立ち上がって、真剣な顔つきで色付きのそうめんを収集しているのが、佐渡帆希。
同じ学年の女子で、僕よりも一月ほど前から旧校舎に住み着いていた少女だ。
僕がここに住むきっかけとなった人物でもある。
ゲームが趣味だけど、その腕前はちょっとばかり悲劇的なので、あまり言及しない方が良いだろう。
かなりのお嬢様で、箱入り娘というか世間知らずというか、色々残念な体験には事欠かない。
「何だ蕗乃、残念そうな顔をして……ハッ! さては私の色付きそうめんがうらやましくなったんだな!? よしよし、1本だけあげよう!」
帆希は箸でピンク色のそうめんを掬うと、僕の方に身を乗り出してきた。
あー、机の上をちゃんと見ないと……
「うわっひゃ! コップ倒しちゃった! 布巾布巾!」
……次に、僕の左隣で黙々と麺をすすっているのが茜橋凛々(あかねばし りり)。
3話から登場する。
数えていないけど、既にそうめん20杯くらいはおかわりしているんじゃないだろうか。
彼女も僕たちと同じ学年だ。
成績はトップクラスなものの、道を覚えるのが苦手で、常に学校内をさまよっている。
もうここに来てから何週間か経つけど、いまだに旧校舎内で大規模な捜索が行われることがある。
できるだけ彼女から目を離さないようにしないと。
「……ふーちゃん、そんなに見られたら恥ずかしい」
そして僕の右隣、ほとんどくっつきそうな距離の場所にいるのが僕の妹の雨降雪乃。
7話から登場してしまう。
中学3年生。
彼女については出来るだけ話したくないというか、深く考えようとすると身体が震え、胃が痛み出す。
帆希が僕が旧校舎で暮らすきっかけだとすると、雪乃は僕が実家を飛び出した元凶だ。
それが何故また同じ場所で暮らす羽目になってしまったのか。
帆希と凛々がいなかったらとっくに再度の逃亡を検討しているところだ。
「お兄ちゃん、何で食事中にぶつぶつひとりごと言いながら頭抱え込んでるの? 悩みがあるならベッドの上で聞くよ?」
たぶん彼女が、悩みの原因が自分だって事に気付くことは無いんだろうなぁ……。
「蕗乃。悲しいお知らせがある。蕗乃がひとりごと言ってる間にうっかりそうめん全部食べちゃった……」
「うおおっ! しまった! まだ一杯も食べてなかった!」
「ごめんふーちゃん。我慢できなかった」
「私のお椀にまだ少し残ってるから口移しで食べさせてあげるよ」
……まあそんな感じの、ゆるく楽しい日常。
それが始まったのは数週間前のことだ。