エピローグ (5)
「あ、総監。今日はお急ぎですか?」
「いや、正確には急いでた、だ。過去形だな」
少し息の上がった状態でアモンは答える。
その様子に、大体の事情を察して、アルセイデスはさも楽しそうに微笑んだ。
「全く……こっちに来てからというもの、毎日毎日テオドールの目を盗むのにこうも手を焼かされるとは、考えもしなかったよ」
「……真面目に仕事すれば済むことなんじゃないですか?」
「……お前までそれを言うな。悲しくなる」
真面目に不真面目なことをいうアモンに、つい吹き出しそうになる笑いをアルセイデスは必死でこらえた。
「しかし、まあそうしたことを除けばやはりベルディニオにいたころとほぼ変わり無し。平和なもんだ」
「ほんとに……」
レムレスで用意された屋敷には城の時と違い、庭が屋敷を取り囲むよう配置されている。
ちょうど屋敷から出ると、周囲をぐるりと見回すように庭が楽しめる。
アモンは、これはこれでまた気に入っていた。
屋敷の敷地内でも森のように、緑に囲まれるような感覚を味わえる。
城とは違った庭の魅力にアモンは大いに満足していた。
「それにしてもうれしいな。もう冬だというのにまだこれだけの緑が森に行かずとも目にできるというのは単純に幸せ……」
そこまで言って、庭を見渡していたアモンが口と視線を止めた。
庭の一角。
ちょうど屋敷から見て右側の庭に、常緑の植物に混ざって不釣合いな枯れ木が何本も植わっている。
「……アルセイデス、このやたらでかい虚の空いた枯れ樹の林はなんなんだ?」
「ハマドリアードです」
相変わらず、まるで当たり前のことというような調子で答えが返ってくる。
「ハマドリアードはドリアードの亜種でして、本来ならば山地に自生する特殊な落葉高木です。ベルディニオでは見つけられませんでしたが、こちらに来て運良く発見した時にはほんとに興奮しましたよ」
一人ではしゃいでいるアルセイデスに、アモンは冷たくもないが決して温かくもない視線を向けて質問した。
「……で、それをまたなんでこの冬場に植えた? しかもどれも空っぽ。さすがにこれは意味が分からんぞ」
「ハマドリアードはドリアードと違い、少し変わった特性があります。(冬越し)です。彼らは冬が近づくと自分の生まれた樹へ一時的に戻り、冬を越す習性があるんです」
「ということは……何か? またぞろあの気色の悪いのが、しかも大挙して、ここに押し寄せてくるってことか?」
「お嫌いですか?」
一時考え込み、やや複雑な表情を浮かべつつも、アモンは答える。
「……いや……確かにあれはあれで、なかなか風情があって面白いとは思ったさ」
「でしょう? 今度も実際に見ていただければ気に入られると思いますので、今日からは夜を楽しみにしていてくださいね」
「……分かったよ。その、(冬越し)……とやらを楽しみに待つとしよう」
言って、アモンは屋敷の門へと向かう。
頭のてっぺんへ射す日の光に暖かさを覚えながら、その足は習慣となった森の散策に自然と歩を進めた。




