エピローグ (3)
肺いっぱいの空気を全て使い切って搾り出した怒鳴り声のおかげか、ようやく落ち着きを取り戻したテオドールが軽く息を整えながらアモンに問う。
「……で、私たちを探しに来たって、どういうことですか?」
「えーと……まあ、なんだ……今、言ったこととも関係のあることなんだが……」
「?」
「……どうだろう、二人とも。私と一緒にレムレスに来る気は無いか……?」
急なアモンの生存確認。
次いでアモンのバカさ加減の継続確認。
さらにそのアモンからの再雇用依頼。
目まぐるしい事実確認に追われる二人に、アモンは続けた。
「ほら、やっぱり従者がいないのは何かと不便だし、それに、同じ雇うなら、慣れた者のほうがお互いやりやすいかなーって……」
少し遠巻きにアモンとテオドールを見ながら、その言葉を聞いたアルセイデスは泣きそうになりながら同意の返事を返そうとした。
しかし、
次の瞬間にテオドールが打ち出した拳がアモンの左脇腹を捉えるのが、一瞬アルセイデスの返事より早かった。
「ふざけるのも大概にしろこのバカ公爵っ!!」
顔を苦痛に歪ませ、必死で脇腹を押さえるアモンを睨みながら、テオドールは続ける。
「何が一緒にレムレスに来ないかだ、さんざん……ずっと死んだふりしておいて!!」
「……」
「……一年も、ずっと……私たちのこと放っておいて……」
最後の言葉を発しながら、テオドールが口ごもり、ゆっくりとうつむいてゆくのを見て、アモンは自分が去った後のこの一年が、いかに二人に苦痛を与えたかを考え、急に神妙な面持ちになって口を開いた。
「……悪かった……だが、必要なことだったんだ。私はともかくお前たちに害が及ぶ危険性を考慮したら、どうしても時間が必要だった……とはいえ、お前たちを傷つけたことは事実だ。その点は心から詫びるよ。すまなかった……」
言い終えたが、なおうつむいたまま無言のテオドールを見てアモンはため息混じりに言葉を続けた。
「……まあ、もう一年も経つことだしな……お前たちにも新しい生活があるだろうから、無理強いはしないが……」
すると、
言い終えぬうち、突然、テオドールはアモンを抱き締めてきた。
「テ、テオドール……なんだ? な、何がどうした?」
いきなりのことに慌てるアモンを気にもかけず、テオドールは先ほどの調子からは想像もつかないほど優しい口調でささやくように言う。
「……前にも言ったじゃないですか……バカ公爵。私たちが貴方についていかないわけが無いでしょう?」
「……え……?」
「……約束したじゃないですか……もう一人にはしないって……」
テオドールに抱きしめられながら、アモンは困惑の視線をアルセイデスに投げる。
しかし、アルセイデスが返してきたのは、ただ安らかな微笑みだけだった。
「……どうでもいいが、テオドール……バカ公爵というのはもう止めろ。私はすでに爵位を捨てた……今の私はアモン・ハイラッド……そう……ただのアモンだよ……」
いつしか晴れ渡った空の光が三人を照らす。
雨露に濡れた城、森、樹々や草花が陽光を受けて眩しく輝く。
冬の一日。
その日は季節を疑うほどに暖かな一日となった。




