ラーゲルレーフ (4)
「陛下、御下命に従い、アモン公爵殿下をお招きいたしましてございます」
「……手間をかけさせたなレイモン」
片膝をつき、深く低頭するレイモンに対し、ウェイディが玉座の上からねぎらいの言葉をかける。
目算にして、ここから玉座までの距離は約三十ヤード。
もし全力で近づこうと考えても、その手前に辿り着くまでにおよそ五秒。
さらに手前から玉座までの階段を上るのに三秒と見積もって、合計八秒。
室内には柱の影や階段の前、それに玉座の左右にも近衛官や近衛兵らが配置され、とてもではないがウェイディを暗殺しようなどというのは現実味の無い状況である。
もちろんアモンにそんなつもりは毛頭無かったが、気になったのはその厳重すぎる警備体制であった。
神経質すぎるともいえるその警備の厳重さは裏を返せばウェイディが如何に人間不信へと陥っているかを物語っているとも言え、アモンの同情心はさらに強まった。
だが、
「やあ、ウェイディ。調子はどうだ?」
そんなアモンが謁見の間に入ってウェイディにかけた第一声がそれだった。
気楽な姿勢で立ったまま、薄ら笑いを浮かべ、敬意のかけらも示す様子は無い。
「殿下、陛下に対し無礼ですぞ!」
慌てて、レイモンがアモンを非難する。
「……構わぬ。好きなように話すがよい」
「ですが……」
「余が許すと申したのだ!!」
レイモンを刺すように睨みながら、強烈な一喝が飛ぶ。
一国の王の権威を感じさせるその絶対的な圧力に、レイモンは床にすりつくばかりに頭を下げたが、一瞬、アモンさえもその迫力に身をこわばらせた。
(これが一国を預かる者の迫力か……会わない間にずいぶん苦労したみたいだな……)
こわばった体をほぐしつつ、従兄弟の成長ぶりにアモンは妙に感心した。
「さて……」
視線をずらし、ウェイディはアモンを見て話す。
先ほどと違い威圧感こそ無いが、決して隙を見せない堅牢な意思の滲む視線だった。
「久しく会わぬ間に、まるで平民のような口を利くようになったな、アモン……」
「おかげさまで、辺境での暮らしにやたらと慣れてね。いつの間にか口もそれに合わせて軽くなったよ。気に入らないか?」
「……」
「……お気に召さないご様子ですな」
ウェイディの無言の返事を受け、アモンは察して言葉を発する。
場の空気は重い。
しかし、アモンはそんな中でも決して軽口を止めない。
それは彼の……彼なりの反抗心によるものだったが、一体彼が何のためそんな反抗をしているのかは実のところ、彼自身にもよく分からなかった。
ただ、ウェイディに弱気な自分の姿を見せたくない。
少なくとも自覚できる範囲の理由はそれぐらいであった。
「アモン……余がそなたをここへ呼び寄せた理由……説明は必要か?」
「あいにく、まだそこまで勘は鈍っちゃいない。察しはとうについてる。心配は無用さ」
「……そうか……」
言われて、ウェイディは納得した。
が、
「しかし、分かっていても理由を告げずに事を進めるわけにはいかん……アモン、そなたに言い渡す」
「……はっ」
アモンはここで始めてウェイディに頭を下げる。
姿勢を正し、浅く低頭したその姿は正装と相まって、彼が公爵であるという事実を再認識させるに十分であった。
「本日、この場にてそなたに死を命ずる!」
静まり返った謁見の間に、ウェイディの声が響き渡る。
低頭したアモンは、その言葉をただ静かに聞いていた。




