森からの異邦人 (2)
結局、アモンは起きることになった。
新たな煙草の在庫確保に失敗し、従者の凄烈な蹴りを受けて、痛む背中が完全に彼の心を打ちのめしていたが、とはいえ寝床に居座ればテオドールからのさらなる仕打ちが心配でおちおち寝付けそうにない。
そんなわけで、今日も飽きずに森の散歩に赴くことにした。
「それじゃあ、後は頼んだぞ」
見送るアルセイデスに後ろ向きで手を振りながら、アモンは城門をくぐる。
ちょうど真上辺りで照りつける日差しを見ながら、さて今日は森のどの辺りまで行こうかと考えを巡らしつつ、そぞろに足を動かす。
と、その時。森へ向かい城の外周を四半周ほどしたところで、アモンは城壁の一部に人影が眼に入った。見ると歳若い……少女のように見える。
城壁に背をもたれうずくまるようにして座り、日光にきらめく小麦色の髪を長く伸ばし、うつむいた状態すら気にならないほど美しく整った顔立ちをしていたが表情も無く、浅く早い呼吸と、汗に濡れた蒼白の顔色は明らかに体調の異常を表していた。
見れば右の肩口に深々と矢が刺さっている。アモンは分かりやすく困惑を顔へ浮かべた。
(……これはまた面倒なことになりそうだな……)
一瞬、色々と考えてはみたが、結局、アモンはその少女を城に運ぶことに決め、やおら少女の左脇へ自分の右肩を滑り込ませると、続いて両腿の中央辺りを左手で持ち上げ、抱きかかえる形で再び城に戻っていった。
運んでいるうち気づいたが、どうやら少女は亜人のようだった。
肌は白いが耳はテオドールのそれとよく似て長い。特徴からして、恐らくは森人だろう。
なんにせよ、早く治療する必要がある。