ラーゲルレーフ (1)
ベルディニオの首都と名を同じくし、ベルディニオを統べるマーロウ王家の権威の象徴としてその威厳を湛える巨大にして絢爛豪華な国王の居城、ラーゲルレーフ城。
今や懐かしき辺境の我が城から馬車に揺られてすでに六時間。
その間、アモンは街を一つ通過するごとにぶつぶつと独り言をつぶやいていた。
「……第一関門突破……第二関門突破……第三関門突破……」
馬車の中で向かい合わせに座ったレイモンにも、もちろんこの独り言は聞こえていた。
しかし、彼にはアモンのつぶやきの意味など到底理解できなかったはずである。
アモンの胸中を占めていたのはただ一つの思い。
(ウェイディに会うより前に殺されるわけにはいかない)という一念。
それはある意味、公爵としての彼の、最後の誇りによるものであった。
移動中の馬車の中で暗殺されたなどとあっては当主として家名に泥を塗るようなものだ。
そんな不名誉だけは避けたい。
無論、他の考えもあったが結果はおのずと同じになる。
ゆえにようやく使者団の馬車が首都へ入り、中央に差し掛かった時には、アモンはこらえきれず小さくため息をついた。
そしてついに望んでいた目的地、ラーゲルレーフの城へ馬車が到着すると、アモンは限界まで締めていたタイをさらに強く締め上げながら、今度は心の中でつぶやく。
(……最終関門まであと二つ……)
長大な城の、見るからに美麗かつ頑健な城門が開き、馬車と使者団が城の広い敷地の中へ入ってゆくと、アモンの緊張は再び強烈に強まった。
城門から城までの道のりが恐ろしいほど長く感じる。
それは実際に敷地の広さからも想定できることではあったが、アモンの感覚はそれをより以上に長く感じさせる。
ニンジンを鼻先にまで近づけられておあずけを食らうというのはよくあることだ。
それだけに、城門から城までの距離でさえもここまでに走破した首都への道のり六時間に勝るとも劣らない時間感覚でアモンの心を押し潰す。
「……長いな……」
無意識に言葉がこぼれた。
「長旅を強いることになり、まこと、申し訳なく思っております。されど、城まではもうあとわずか。今しばらくのご辛抱を……」
「……分かっている。すまんな、どうにも気が急いていかん……」
それからまもなく、レイモンの言葉通りに馬車はラーゲルレーフの城前へと付けられる。
(最終関門まであと一つ……)
アモンはわずかに震え、鳴りだした自身の歯を、力ずくで噛み殺した。




