来たるべき時 (7)
二階にあるアモンの寝室の隣には、この古城に移ってからアモン自身は一度も使ったことの無い衣裳部屋がある。
主に中央にいた頃に着ていた外出着や各種式典用の正装服が収納されている。
そして、アモンは数日前の時点ですでに着る服は用意していた。
保険という言い方は語弊があるかもしれないが、アモンにしてみればある種のおまじないに近い行為だった。
用意がしてあることに限って、実際にそれは起こらない。
そんなことを期待しての準備であったが、皮肉なことにその準備はここにきて大いに役立つことになった。
長らく着ていない上、自分で着るということはまず無かったため、やたらと手間を取ったが、着替えはおおむね順調に進む。
真新しいシャツ、靴下、黒いブーツ、白地に刺繍を施した上等なスーツの上下。
シャツの最後のボタン……首元のボタンをはめながら、意識せずに独り言が口を出た。
「十年以上も顔を合わせなかったウェイディに呼び出しを喰らってみれば、まさかこんなことでとはな……」
紅い、まるで血のような色のタイを首に巻くと、不慣れな手つきで結びを入れる。
「もし私に殴られたことをまだ根に持っているのだとしたら……全く執念深いというか、ねちっこい性格になってしまったらしいな……」
アモンは右の袖についた妙に大振りな四角いカフスボタンを、まるで何かを確認するように指でなぞると、何やら納得したようにうなずき、鏡台へ向かう。
血色の悪い、薄く隈を目の下に作った自分の顔を見て、先ほどまでこの顔をテオドールとアルセイデスに晒していたかと思うと落ち着いたはずの気分がまた少し不安に染まった。
とはいえ、人事は尽くした。
後は成り行き。
結果はおのずと出るだろう。
良かれ悪しかれ、流れに身を任せる他はもはや無い。
「……まあいいさ、ウェイディ。お前からの引導、しっかり受け取ってやるよ……」
強くタイを首に締め付けながら、アモンは鏡に映る自分の目を見つめ、つぶやいた。




