近づく終末 (6)
「全く……仮にも城の主が台所で盗み食いって、どういう神経ですか?」
「盗み食いとはなんだ。自分の買ったものを自分で食べて何が悪い」
井戸の端に腰掛けながらアモンの奇行に呆れたテオドールが言う。
すでに火を落とした台所に再び火を入れ、急ごしらえでテオドールの作ってくれた玉ねぎのスープとチーズオムレツに口をつけつつ、アモンは反論する。
「大体、なんだってこんな時間まで起きてるんです。無駄に夜更かしなんかするから毎日のように昼までベッドから出られないんですよ」
言いながら、口に手を当て、小さなあくびをつく。
アモンは好きな時間に眠り、好きな時に起きていればいいかもしれないが、仕事のある自分はそういうわけにはいかない。
「はぁ……これで今日は寝不足確定ですよ……ほんとに迷惑だったらありゃしない……」
台所の火を見つめながらぶつぶつと文句を言うテオドールに、普段のアモンなら言い返す言葉も多々あったはずである。
が、今日のアモンは言い返す台詞の代わり、がっつくように口に運んでいた料理への手を止めると、左手のカップへ注がれたスープを持ったまま、急に神妙な顔をして自分の足元を見つめる。
普段と明らかに違うアモンの様子にテオドールが少し不思議そうな顔をすると、アモンは今度もまた急に口を開いて話し始めた。
「すまん。どうも今日は寝つきが悪くて……遅くまで起きていると腹が減って、ちょっと何かつまもうと思っただけなんだ。お前を起こす気は無かったんだ。悪かったよ……」
アモンが素直に謝った。
それがどれほどに異常なことであるかは、恐らく彼と日々を長く暮らしてきたテオドールしか分からなかっただろうが、言うなれば夏場に雪が降るほどの珍しさであることは間違いない。
「……まあ、別に構いませんが……今度からはお腹が空いたなら遠慮しないで声をかけてください。泥棒でも入ったのかと思ってヒヤヒヤするのはもう御免ですよ」
そっけなく答えながら、テオドールは内心で妙な不安が高まるのを感じていた。
日常が変化している。
良くも悪しくも変わらなかった今までの日常が、どこか少しずつ変化を始めている。
無論、それが良い変化ならば文句は無い。
だが、胸に募る不安は明らかにその変化を良いものとは感じていない。
(気のせいならばいいんだけど……)
漠然とした不安感に表情を暗くするテオドールを知ってか知らずか、アモンは再び静かに料理へ口をつけ始めた。




