近づく終末 (5)
その日の夜中、テオドールは台所から聞こえてくる妙な物音に気づき、眠たい目をこすりながらベッドを出ると、台所の様子を確認するため廊下へ出た。
寝巻きの上から厚手の上着を羽織りはしたものの、火を落とした城の中はまるで氷のように冷たく、手元を照らすために持ち出したランタンの熱にすらすがりたくなった。
とはいえ、ここのところ続発しているアモンへの暗殺未遂事件を考えると、ちょっとしたことにすら神経質になる。
(まさか、また賊が……?)
そうした不安が無いといったら嘘であるが、とにかく耳の利く洞人のテオドールにとって、こうした些細な物音も眠りの妨げとなるのは間違いではなく、しかも自分の領分である台所の物音となると見過ごす……ならぬ、聞き過ごすことは出来なかった。
廊下を進み、台所へ近づくにつれ、物音はさらにはっきりとしてくる。
見れば台所の戸はわずかに開いている。
中からはうっすらとした灯り……恐らくはランタンのものだろう。
そしてカチャカチャと皿のなる音と小さな咀嚼音。
それらの音から、再びの賊の襲来という疑念は打ち消されたが、同時にそれは新たな警戒心を生んだ。
(物取りか……?)
城は城門を固く閉じ、玄関は比較的頑丈とはいえ、すでに今までに賊の襲来を二度までも許している。
物取り風情でも城門さえ突破できれば台所の勝手口からならある程度容易に侵入できるかもしれない。
テオドールは台所脇の用具入れから、そっと音を立てないように箒を取り出すと、まるで槍でも構えるようにして台所の戸へ箒の先を差し入れ、心の中に渦巻く不安や緊張の類を押し殺すと、一気に台所の戸を開け放ち、中へと躍りこんだ。
「誰だ!!」
音の位置から侵入者がいると思しき方向へ箒を突き出しつつ、テオドールが叫ぶ。
と、ほのかなランタンの光に照らされて、口にパンをくわえたアモンが目を丸くしてテオドールを見つめていた。




