諍いの果て (4)
星明りと三日月が輝く夜、洞穴から空を見上げながらテオドールは考えていた。
一体自分は何をしているのだろう?
元来、洞人は孤独な種族だ。
一定の年齢まで育つとすぐに親元を離れ、兄弟姉妹とも以後は会うことも無い。
森や山などを転々としながら住みやすそうな洞穴を見つけてはそこに身を落ち着ける。
だが、自分は仲間たちとは少々違っていた。
無論、洞穴での生活も十分に快適だった。
しかし、ちょっとした好奇心から廃墟となっていた城に住み着いた時、その圧倒的な快適さに心から驚いたものである。
それが恐らく二年ほど前の出来事。
しばらくそこで生活していたある日、見たことの無い人間が勝手に城へ入ってきた。
バカ公爵……アモンとの最初の出会いである。
始めこそ見知らぬ人間の、しかも男だとあって必要以上に警戒したが、アモンはどうにも自分が知る人間の印象とはことごとくかけ離れていた。
洞人の自分に対して上からものを言う態度は他の人間たちと変わりなかったが、不思議とそこに悪意の欠片も感じられなかった。
それに、言葉遣いを除けば亜人の自分に対するアモンの対応は他の人間とは比べ物にならないほど親切だったのも事実である。
城の本来の持ち主ということを盾にして無理やり自分を追い出すでもなく、まるで自分を単なる同居人のように、ごく自然に住まわせ続けてくれた。
そんなある日だった。
自分の従者にならないかと提案されたのは。
正直、迷いは大きかった。
洞人である自分が人間に仕えるなどとは考えもしなかったし、さらに言えば人間にかしずくなど、どうにも不愉快に思えたのも確かだった。
なのに結局、自分はアモンに仕えた。
何故だろう?
人間に媚びてでも、城の快適な生活を優先したかったからか?
では何故今、自分はここにいる?
そこまでして居たいと思ったなら、今ここにいる自分は何なのだろう?
疑問は空に輝く星の数ほど頭に浮かぶ。
しかし心のどこかではその理由に気づいていた。
(あのバカ公爵と長く居すぎたからだ……)
テオドールはふいに夜空から目を逸らした。
まるで自分の心から目を逸らすように。




