諍いの果て (1)
当然のことではあるが、人の忍耐には限度がある。
そして今、ついに忍耐の限度を超えた女性が一人、古城の中で耳をつんざくような叫声を張り上げていた。
「いい加減にしろこのバカ公爵――ーーーっっ!!」
そう言われた当の公爵……アモンは従者のあまりの剣幕に、部屋の隅で縮こまっていた。
「……あー、テオドール……言いたいことは分かったからとりあえず落ち着こう、な?」
「やかましいっ!!」
なだめるつもりの言葉に一喝が返ってくる。
「前々から一体、何回言ってると思ってるんですか! 私の仕事量っ!!」
「……うん、だからそれはだな……」
「どこをどう考えたって、私一人でこなせるわけ無いでしょうがーーーーーっっ!!」
アモンに反論の余地は無かった。
確かに客観的に見ても、この城におけるテオドールの仕事は尋常な量ではない。
掃除、洗濯、料理と、口で言うのは簡単だが、実際は城の各部屋の埃を落とし、後に掃き掃除、さらに拭き掃除。
洗濯については衣類など言うに及ばず絨毯やカーテン、テーブルクロス、ベッドシーツ等々、数え上げればきりが無い。
そして当然それらを干し、乾いたら糊付けして薬缶式アイロンで仕上げ、一つずつ丁寧にたたみ、所定の場所へ納める。
それに料理。
アモンは基本、一日一食程度しか口にしないとはいえ、さすがに毎日の献立を考え、それに必要な食材を用意し、調理して並べるというは十分な労力である。
これらに加え、テオドールは城へ定期的に顔を出す城下の各商店からの御用聞きへ食料品に限らず、ありとあらゆる日用品を注文する。
洗濯や食器洗いに使う石鹸しかり、掃除や消毒など用途の広い火酒しかり、暖房や調理に用いるコークスしかり、夜に灯すランタンの油しかり、ローソクしかり、アモンの吸う煙草しかり、マッチしかり、まさしく枚挙に暇が無い。
傍から見ても常識的に、一人で行える仕事量でないのは火を見るよりも明らかである。
「……決めました」
急に、今までの怒声が静まり、落ち着いた……いや、表情こそいまだ前よりましになったとはいえ、三白眼で刺すように睨み付ける視線ではあったが、声のみ、普段の落ち着きを取り戻してテオドールは言う。
「現在の職場環境が改善されるまで、私は仕事を放棄させていただきます……」
「……え?」
「待遇改善しないんなら、自分で全部やれって言ったんですよバカ公爵っ!!」
その言葉を最後に、テオドールは城を出、いずこかへ行ってしまった。




