氷の古城 (3)
目的が明確になった者の行動は迅速である。
まずテオドールは二階への階段手前の一階の書庫へと足を運ぶと、鼻歌交じりに棚の本を無造作に床へ積み上げていった。
「おい、だからちょっと待てと言ってるだろうが!」
廊下の途中でアルセイデスを追い抜き、書庫へ辿りついたアモンがわめく。
「待ったら何か変わるんだったら待ちますけど、別に何も変わらないでしょう?」
「せ、せめて取捨選択ぐらいさせろ。いくらなんだって全部焼くなぞ無茶だ!」
「その取捨選択が出来なかったからこんな無駄に場所食う紙束が増えたんでしょうが!!」
テオドールの無慈悲な言葉に、アモンは半分涙目になった。
すると、ちょうどアモンに追い抜かれたアルセイデスが書庫へ入ってくる。
「テオドールさん、とりあえずどんな感じに使います?」
「うーん……まあ優先順位を考えて、まず一階の食卓の間に本を運びこみましょ。あそこの暖炉がしっかり燃えてれば一階全体を暖めてくれるからね」
「了解しました」
俄然やる気になった二人の従者を前に、主人のはずのアモンは悲しいほど無力だった。
テオドールが床に本を棚から投げ下ろす。
アモンは手荒な本への扱いに悲鳴を上げる。
アルセイデスはそれを数冊ずつまとめて抱え、食卓の間へと廊下を進む。
そうした作業が幾度か行われたところで、書庫にあるいくつもの棚のうち、三つほどがカラになった。
「テオドールさん、とりあえずはこんなものでいいんじゃないですか?」
疲れた腰を伸ばし、力が萎えてきた両手を前後に振りながら、アルセイデスが言う。
「そうね、ひとまずはこれだけあれば十分でしょう」
「ひとまずってなんだ、これだけ持ち出してまだ不服なのか!?」
必死に怒鳴るアモンを完全に無視し、テオドールとアルセイデスは連れ立ち、廊下を食卓の間へと向かう。
と、従者たちの後姿を半べそで見送っていたアモンの目に、テオドールの右手に握られたマッチ箱が見えた。
まるで津波の如く急激に、これから起きるであろうと想像した惨事がまさに現実になるのだという感覚で、アモンは目を回して倒れかけた。
「お、おい、二人とも、冗談なんだよな……? これ、何かの冗談……」
現実逃避の言葉をあざ笑うように、まもなく食卓の間から煌々と炎の光が漏れ始める。
「あーーーーーーーーーっっ!!」
絶叫しながら廊下を走り、食卓の間へと駆け込む。
そして目にする。
この世の地獄を。
愛する蔵書の数々が、無残に暖炉の中で燃え上がる光景。
うれしそうに暖をとる従者たち。
アモンはすでに泣いていた。
「さすがに古い本はよく燃えますねえ」
暖炉へ向かって、次々と薪のようにアモンの蔵書をくべてゆくテオドールは、嬉々とした表情で機嫌よく話す。
「ほんとですねえ」
その様子を見つつ、次々と書庫から持ち出した本を手渡してゆくアルセイデスは答える。
「悪魔だ……お前ら、絶対に悪魔だ……」
従者二人の横暴、凶行を見つめながらアモンはただ、ぶつぶつと呪詛のようにそんなことをつぶやき続けていた。




