大挙する暗殺者 (9)
「あ、殿下。これから久しぶりに森ですか?」
玄関から顔を出したアモンにアルセイデスが声をかける。
あの悪夢のような惨状があらかた片付き、城にようやく落ち着きが戻った今日、アモンは数日振りの森の散策へ向かおうとしていた。
「ああ、もう血なまぐさい城内には飽き飽きしていたからな。久々に羽を伸ばしてくる」
事件の際にも、特に目標とならなかったおかげでほとんど無傷で済んだ庭を眺めながら、アモンはついこの間の出来事をまるで遠い昔のことのように感じていた。
「全く、庭が無事だったのは不幸中の幸いだったな……」
「ほんとに……」
以前と変わらぬ穏やかな会話を庭園に響かせる主人と庭師。
真昼の日が肌寒さを和らげ、ほのかな暖かささえ与えてくれる。
と、そんな二人に玄関からテオドールが大声で呼びかける。
「バカ公爵、今朝届いてた書簡、渡すの忘れてました。散歩に行くなら目を通してからにしてください!」
「過失が自分にあるのにその言い草はなんだ!!」
一瞬にして憤怒の形相へと変わったアモンはまるで地面を蹴飛ばすように玄関先まで戻るとテオドールからひったくるように書簡を取り上げ、手荒に封を開けて内容を改める。
「えーと……何々? また中央の話か……」
ベルディニオ中央議会執政院第一執政官、イジドール・リラダン、及び元老院第一執政官エイモス・アルギエリ、自宅にて何者かに殺害さる。
犯行の手口は極めて巧妙にて、犯人特定に結びつく証拠、証言を目下捜索中。
一部情報筋によれば、反王勢力派による暗殺説が浮上している……。
「……どうかしました?」
明らかに疑惑が自分に向かう形になっている書簡の内容に、アモンは完全に声を失った。
蒼白となった顔の主人にテオドールが声をかけると、まるでそれを合図とばかりアモンは玄関から食卓の間へ一気に走りこむと、今読んだ書簡を力いっぱい暖炉へ投げ込んだ。
すぐさま、主人の異常を心配したテオドールが追いつき、再び問う。
「なんなんです、どうしたっていうんですか一体!?」
「知るかっ!!」
乱暴に従者の質問を撥ね付けると、アモンは頭をかきむしりながら悶絶した。
「何が仕事は丁寧だ! これじゃどう考えても私が疑われるだろうがっ!!」
アモンは人の親切がこれほど迷惑に感じる場合があることを生まれて始めて知った。
そして、フューレイを一度でも(いい奴)だと思った自分を絞め殺したくなった。
暖炉の中で書簡が灰へと変わる。
その日は終日、城中にアモンのうめき声が鳴り響いた。




