大挙する暗殺者 (6)
部屋を飛び出し、隣室へと踏み込んだアモンは、その時の光景を生涯忘れられなかった。
それはあまりにも異常、異様、異質……言葉で形容できる範囲を完全に逸脱していた。
部屋は床一面を血染めの死体が覆い、足の踏み場すらない。
というより、もはや幾重にも折り重なった死体そのものが床となっている。
中でもひときわ高く屍が重なり、丘の如くなった部屋の中心にアルバインは立っていた。
全身は血でくまなく朱に染まり、両手に握られた短刀は無数にできた刃こぼれによって、ノコギリのような形状に変質している。
静まり返った部屋の様子に、はたと、我に返ったアモンはとっくに無数の音が止んでいることへようやく気づき、
「……おい、アルバイン……無事か?」
詰まった声を押し出すように呼びかける。
と、アモンの声に反応し、ゆっくり振り返ったアルバインは、震えの止まった彼の体を再び震撼させた。
大きく見開かれた目は明らかに狂気を帯び、口元までべったりと濡らす返り血は、まるで敵の生血を啜ったようにすら見える。
「……殿下……私は部屋をお出になるよう声をかけましたか……?」
屍の丘を踏みしめながら、アルバインが問う。
「……いや、何も言われてはいない……私の勝手で出てきた……」
「困りますね……いくら殿下といえども、こうした有事の際にはしっかりと指示を守っていただかないと……」
再び震えだした足を、血糊でぬめった床に取られそうになりながら、アモンは構えた銃を下ろしつつ、慎重に答える。
「ああ……すまなかった。以後は気をつけるよ……」
部屋の中心部から不安定な死体の足場を踏み越え、自分に近づいてくるアルバインの目が少しずつ平時の穏やかなそれへと戻ってくるのを見て、アモンはほっと吐息を漏らした。
「……で、どうなんだ? どこか怪我は無いのか?」
「ご心配痛み入ります……いくつかかすり傷はあると思いますが、治療が必要というほどの大きな負傷はありません」
「そうか……ならとりあえず風呂にでも入れ。着替えも用意させよう」
「ご遠慮を……と申し上げたいところですが、確かにこれでは身動きが取れませんね」
「しばらくここで待っててくれ。テオドールとアルセイデスには私が声をかけてくる」
言って、死体の床を踏み越えて廊下へと向かう。
そしてアモンは、屍の床の想像以上の不安定さに愕然とした。
(こんな足場で……あいつはこの連中、全員を相手にしたのか……)
信じがたい事実を目の当たりにしながら、ようやく廊下へ出たアモンは急ぎ、テオドールたちの待つ一階へ向け、廊下を駆け抜けた。




