大挙する暗殺者 (3)
昨今、すでに各国の軍における兵員の主力兵器は銃火器である。
つい先ごろにベルディニオと同じく大陸三大列強に数えられるガレイオで開発されたそれは、「風の槍」という異称で瞬く間に大陸全土に広がった。
金属製の筒に火薬と、同じく金属製の弾丸を詰め、それに点火した際の爆発力を利用して弾丸を高速で発射するというこの兵器は以前から城攻めなどに用いられてきた大砲の原理をそのままに、小型化に成功したものである。
とはいえ、難点は多い。
まず火薬を用いるため、雨天などでの使用が困難であること。
さらに有効な射程が約百五十ヤードと、弓矢と比べて大差が無いこと。
しかも弾丸の発射に際しては銃の後部側面にある点火口に火をつけねばならないこと。
そして一番の問題点。
一回の発射ごとに火薬と弾丸の装填を再度行わなければいけないということが、実際の戦場においては極めて大きな難点であった。
ゆえに兵員の装備している銃はその全長、平均約四フィートのうち先端の約一フィートが小剣となっており、射撃終了後に再装填の間もなく敵に近接された場合はそのまま白兵戦が出来るよう工夫がなされている。
そんな武器を持った敵が約百人。
限りなくカラに近いこの城へ、まさに城攻めに向かってきている。
「この状況に吐き気をもよおすのは正常な反応だよな……」
アモンは狭い部屋の天井を見つめながらつぶやいた。
いっそ早く来てくれという矛盾した考えが浮かぶほど、こうした緊張状態での長時間の待機は精神を病む。
少し前からアモンは突然、叫び声を上げたいという衝動を抑えるのに苦労していた。
「そうだ……」
ふと思い立ち、ポケットを探る。
愛用の煙草入れとマッチ箱をぎこちなく取り出すと煙草をくわえ、マッチを石壁にこすりつけ点火し、煙草に火を灯す。
今になってようやくルイス産の極上品の味かしみる。
といっても、忘れ草とは名ばかりで、さすがに今の現実を忘れ去るには到底及ばない。
しかし、先刻から悩まされていた吐き気が緩和されたのはありがたかった。
床へ無造作に灰を落としつつ、胸に煙を満たす。
一体この作業をあとどのくらい続けることになるのやら……。
同じような考えを幾度も繰り返し、苛立ってアモンはやにわに懐のものを取り出す。
「……頼むから、こんなもの使うことにだけはなるなよ……!」
取り出したアルバインからの贈り物を見つめつつ、強く願った。
今日の朝から自分を不安感で責めさいなみ続けた原因。
携帯式自動点火銃。
兵士たちの用いるものと違い、全長は一フィートにも満たないこの銃は、主に将校が携帯しているもので、基本的には実戦に用いられるような代物ではない。
あくまで勲章、階級章などと同じく、権威を示すのが主な用途である。
だが、腐っても銃器である。
しかも将校の携帯を前提に作られている。
よってその作りは極めて精巧で、持ち手の先に取り付けられた引き金を引くと内部の激鉄が火薬へ即座に点火し、弾丸の発射をわずかに一動作で行うことが出来る。
単純に言えば、内部にからくり仕掛けの火打石を仕込んでいると思えばよい。
その構造の緻密さから、量産が出来ないために現在はもっぱら将校専用のおもちゃだ。
一部では新しもの好きの王侯貴族も手にしているとは聞いていたが、まさか自分にそれが送りつけられることになるとは、これっぱかりも予想していなかった。
「全く……この前のマンドレイクといい、どうしてこう私の周りには危なっかしいものが次々と集まってくるんだ……」
アモンは床に視線を落とし、頭を抱えた。
次の瞬間に、まさか自分がその姿勢のまま、しばしの時を過ごすことになるとも知らず。




