大挙する暗殺者 (2)
テオドールは、アモンがこの城へ来るよりもずっと以前からここに住み着いていた。
ゆえに彼女の持つ城の細部に関する様々な知識は、今回の作戦を非常に円滑に進める役目を果たすことになる。
まずテオドールとアルセイデスは、台所にある地下の食料貯蔵庫に身を隠した。
これの入り口は一見、簡単に発見される類のものであったが、実際重要なのはその内部の構造だった。
地下の食料庫は急な階段を下りながら到達する仕組みになっていたが、実はその階段の途中にもう一つ、小さな貯蔵庫への扉が存在する。
構造を知らない人間は地下へと下る階段に気を取られ、本来の食料庫に意識が集中してしまうため、この扉は完全な盲点となるのである。
しかも経年で煤けたその扉の色は石壁とほぼ同化しており、存在を知っていてすら、扉を見つけるのは容易ではない。
二人は事が済むまでこの狭い貯蔵庫に隠れることになった。
アモン自身による囮作戦も、テオドールの知識が威力を発揮した。
二階の最も奥手に位置する部屋は、入った際には二つの窓を備えた普通の部屋が一つあるのみだが、実はその部屋右手奥にあるドアを開けると、窓一つ無い小さな正方形の部屋がもう一つある。
アモンはそこへ潜みこととし、そして手前の部屋にアルバインが陣取る。
「相手は迷い無く、ただ殿下のみを狙って城内を探索するでしょう。そこが付け目です。最悪、城に火を放たれる危険性もありますが、そこは古城特有のこの城の特性が火の回りを最小限に抑えてくれます」
近代になって建てられた城は居住性を重視して作られた反面、石造りの部分が少ない他、無用に装飾用のカーテンや絨毯などの可燃製品が多く存在する。
しかし、中世期に作られたこの城はほぼ全ての建材が石のみで造られており、可燃製品も極端に少ない。
火を放たれる事態となっても城を火が覆うことはまず無いと言ってよい。
持ち合わせた条件の中で最上の準備を整えた今、あとは敵の到着を待つのみとなった。
「では殿下、私がドアを開けてくれるようお願いするまで、決してこの部屋から出ないでください。それと……」
急にアルバインがアモンの胸元を撫でた。
「もしも敵の侵入を許してしまった時は、躊躇無くそれをお使いください」
「……ああ、出来ればその機会が無いことを祈るがね……」
「私もそうならぬよう努めます」
言って、アルバインはアモンを残してドアを抜ける。
と、
「アルバイン!」
まさにドアを閉めかけていたアルバインに、アモンは声をかけた。
「……死ぬなよ。こんなバカげたことで命を落とすほど、くだらないことは無いからな」
すると、閉めかけたドアの隙間からアルバインが微笑む。
始めて見せる表情にアモンは少なからず戸惑った。
「そのお言葉は私が申し上げるべき言葉ですよ殿下」
言い終えるのを待たず、アルバインは自らドアを閉める。
アモンは上着をはだけると、懐のものにしっかりと手を添えた。
時は今、まさに満ちようとしている。




