再びの来訪者 (5)
森から帰ってからも、アモンの様子に変化は見られなかった。
夕餉のテーブルについてさえ、うつろな表情を浮かべている。
今日のメニューは切り分けられたパンと塩もみをした野草に刻んだチーズを合えたもの、鹿肉にきのこと玉ねぎのシチュー、果物は林檎だけだったが、くるみの砂糖煮があるので甘味の頭数は揃っている。
そして林檎酒。
さすがのテオドールも、あまりのアモンの憔悴振りに気を使ってか、最近には珍しく酒を食卓に出した。
ところが、それでもアモンの気が晴れる気配は一向に見えない。
まるで流れ作業のように、並べられた料理を口に放り込んでゆく。
「お味はいかがですか?」
「……分からん……」
一通りの料理を食べ終え、林檎酒で流し込んだ直後の、アモンの素直な感想である。
テオドールは漏れそうになるため息を我慢し、無言で食器を片付け始めた。
と、その時。
日の落ちた城門から人の声が響いた。
「アモン公爵はおられますか!?」
高く、澄んだ声。
そして聞き覚えがある声。
アモンは今までのうつろさはどこへやら、急に椅子から立ち上がると、一旦食器を置いて玄関へ向かおうとするテオドールをすぐさま追い抜き、矢のように廊下を抜けると、玄関を開けるのももどかしく、庭園に出た。
闇夜とはいえ、数多の星々が放つ光は城門の人影を判別するには十分だった。
「アルバイン!!」
明らかに怒鳴り声で急な来客の名を叫ぶ。
「かような夜分、しかも急な訪問をお許しください。我が主よりの命で罷り越しました」
「主って……フューレイか? しかし奴の命令……一体、何事だ?」
「仔細を話す前にまず城内へお入れいただけますか。事はかなり逼迫しておりますれば、事情を話しつつ、対応したいことが多うございます」
相変わらず一部の隙も与えないアルバインの口調と雰囲気に怒りも半ば殺がれ、アモンは言われるまま城門を開けた。
「恐れ入ります。それと城門の錠はしっかりとおかけください。気休め程度とは思いますが、無いよりはましかと存じます」
言われたことの意味を半分も理解できなかったものの、アモンは城門を堅く閉ざすと城へ引き上げる。
背後にアルバインが付き従った。そして玄関を入ると、室内の灯りがアルバインを照らし出したが、その姿に一瞬、アモンはぎょっとした。
服装こそ以前に訪れた時と変わらないものだったが、その腰には左右に短刀を帯び、右手の義手は以前に見たものと比べて明らかに武骨なものが取り付けられていた。
「どうかなさいましたか?」
「いや……まるで戦にでも向かうような格好だと思ってな……」
「まさしく」
「……?」
「おっしゃる通りです。私は戦支度をしてこちらに伺いました」
相変わらず、アルバインの話はところどころが意味不明だった。
「まず今はお話が先決ですね。どこか一室、お部屋をご用意いただきたいのですが……」
「ああ……では応接室に」
以前の賊の襲来時に踏み荒らされた一階の応接室は、今はほぼ綺麗に片付けられている。
ただ数箇所、傷が増えたテーブルだけが当時の修羅場を想起させた。
「ここならゆっくり話も出来る。さて、色々聞きたいことが山ほどあるし、テオドール、林檎酒と茶を用意してくれ」
玄関先で合流したテオドールにアモンが命じる。
「いえ、私はけっこうです。というより殿下、テオドールさんとアルセイデスさんには、出来れば今すぐにでも城からお出になったいただいたほうが良いかと」
「は?」
「でなければどこか、この城に身を隠すような場所があればそこに……」
「ちょ、ちょっと待て、話が見えん!」
一向に見えてこない話の内容に痺れを切らし、ついにアモンが核心の質問をした。
「一体、この前の手紙はなんだ? 私の身辺がどうしたというんだ!?」
あまりに話の全体が見えず、狼狽さえしだしたアモンの様子を見つめながら、アルバインは表情一つ変えずに率直に答える。
「殿下の暗殺計画が現在進行中です。もう数刻でこちらに暗殺部隊が到着します」
アモンとテオドールは、その場でまさに驚愕の体となった。




