再びの来訪者 (1)
レムレス法王自治国からこの城へと使者が訪れるのはフューレイとアルバイン、メイフレイルの移送に当たるため派遣されてきた者以来、四人目であった。
「恐れ多くも殿下にお目通り叶い、恐悦に存じます。私はレムレス法王自治国亜人保護庁厳正亜人保護区監督官のダナンと申します」
「……長い」
「……は?」
「どうしてレムレスのお役人という奴は、誰も彼も長ったらしい肩書きなんだ?」
アモンの的確かつ失礼な指摘に対し、一瞬の間も置かずにテオドールのかかとがアモンの右足のつま先を踏み潰す。
見慣れぬ者にとって、その光景はなんとも奇妙に映るだろうが、椅子に座りながら苦痛に悶える主とそれを見下す従者にとって、それはごく日常的な事柄であった。
ゆえにこうした時、最も困惑するのは外からの来訪者と決まっている。
ダナンも見事に例外となることなく、目の前の異常な事態に戸惑いを隠せずにいた。
「……で、そのレムレスのお役人が私のような没落貴族に何の用事だ?」
いまだ引かぬ、強烈な痛みに耐えながら、アモンは必死に平静を装いつつも、急な客人へ率直に問う。
「は、えー……実は殿下には折り入ってご相談がございまして、失礼を承知でこのように急遽、馳せ参じた次第でして……」
「だから長い!」
今度の台詞の代償は右側頭部への鋭い肘鉄だった。
かろうじて意識を保つことには成功したが、アモンは激痛と右耳の一時的難聴を余儀なくされた。
「……私もさして忙しい身じゃないが、要件は出来るだけ簡潔に伝えてくれると、ありがたいんだがな……」
気持ち、右側へ傾いたアモンの姿勢をを見つめながら、テオドールは何事も無かったように主の横へ立ち続けている。
「……あー、そのですね……簡潔に申しますと、我がレムレスが進めております厳正亜人保護区の拡張を後押し願いたいのが一件。今一つは、ベルディニオにおける実質的な亜人奴隷制度の廃止を殿下からウェイディ国王陛下にお口添えしていただきたいという……」
「無理っ!!」
きっぱりとしたアモンの返事に対し、かなり食い気味に放たれたテオドールの拳が主の後頭部を直撃したのはほぼ同時だった。
そして、
従者の一切の加減が無い一撃を受けてテーブルへと崩れ落ちる主人の姿を、ダナンは生涯で始めて目撃した。




