悲しき駒 (5)
次の朝、ガトックの部屋に人影は無かった。
夜のうちに城を出たらしい。
テオドールとアルセイデスはあからさまに安心した様子であったが、アモンは一人、憂鬱な気分だった。
アモンは決して語らなかったが、先日の賊による襲撃と今回のガトックの件に関しては、ある程度の察しをつけていたからである。
先日の書簡で知ったオストゥムの爵位剥奪に関しては明らかに差別派、擁護派に関係なく亜人を出しにして反王勢力や中央議会を攻撃しようという算段が見え隠れする。
そして自分については公爵という身分から下手な手が打てず、間接的手段で抹殺しようとかかっているのが明白だ。
裏で手を引いているのは恐らく執政院と元老院の連中だろう。
奴らは中央議会が貴族院と人民院に実質、牛耳られているのを快く思っていない。
なかなかウェイディが思うように丸め込めないもので、慌ててあの手この手を出しているのだろうが、そうした奴らの策一つ一つがアモンにとって耐え難く不愉快だった。
自分を殺したいと思うのは構わない。
それは各々の利害で生じる仕方のない感情だ。
だが、そのために駒として使い捨てられる者たちがいる。
それが許せなかった。
ガトックが消えたその日、日課の森の散策に向かうとアモンは無意識ガトックと出会った場所へと足を向けていた。
ちょうど彼と目を合わせた時に座っていた岩に腰掛け、あの時と同じように煙草に火をつける。
(ガトックが下手を考えずにレムレスに向かってくれてればいいんだが……)
今日も静かな森の中で紫煙をくゆらせ、アモンは国境の方向を眺めながらそんなことを考えていた。




