悲しき駒 (2)
「それにしても遅いですねぇ。日が落ちて迷子にでもなってなければいいけど……」
アルセイデスは台所でいつも通りの不機嫌そうな顔をしたテオドールと話しながら、主の帰りを待っていた。
「まったく、こっちにだって予定ってものがあるのに……これじゃいつ料理に取り掛かればいいのか分かりゃしない……」
天井からぶら下げた玉ねぎ入りの網袋をもてあそびながら、テオドールがこれまたいつも通りの不満を口にしたその瞬間、玄関の戸が開く音に混じって、何か重たいものが倒れるようなこもった音が響く。
先日の賊の襲来もあり、一瞬警戒した二人だったが、そのすぐ後に聞こえてきた耳慣れた主人の声に安堵した。
「……おーい、テオドール、アルセイデス、ちょっと来てくれ」
二人は揃って小走りに玄関に向かう。
そして二人揃って、その状況に目を丸くした。
アモンが裸の男へ肩を貸し、玄関先で座り込んでいる。
何故かアモンも男も土まみれで、加えてアモンは何故か穴だらけの上着を右手に巻きつけている。
「一体、何事ですかこれは!!」
テオドールは裸の男のせいで目のやり場に困りながらもアモンに問うた。
「……森で襲われた」
主人の答えにテオドールとアルセイデスは再び目を丸くする。
「だが不思議なんだよなぁ……この男、確かに私へ襲い掛かってきた時は、狼みたいな姿だったんだが……」
肩で息をしていたアモンは自分の連れてきた男を横に見ながら不思議そうにつぶやくと、
「……疲れた……」
一言、付け足して玄関先へと倒れこんだ。




