プロローグ (3)
ようやくベッドから起きだしてきたアモンへ、テオドールは投げつけるように上着を渡すと、さも面倒そうにベッドを整え始めた。
アモンはアモンで着替えを手伝う気がはなから無い従者に向かってぶつくさと文句を言いつつ、寝巻きの上から横着そうに上着を羽織ると、ベッド脇の小物入れから愛用の鼻眼鏡を取り出し、ちょんと鼻の上に乗せる。
するとまだ探し物があるといった様子で小物入れの中をちょろちょろとかき混ぜながら、
テオドールに声をかけた。
「……おい、私の忘れ草はどこにいった?」
ベッドの整頓がちょうど終わったテオドールは、ふうっと大きなため息を吐くと、とても主人を見るとは思えない目でアモンを見遣って言う。
「お煙草でしたら、そっくりゴミとして捨てました」
聞いた瞬間、アモンは小物入れをひっくり返しそうになった。そして次の瞬間には最大級の怒りを込めた眼差しでテオドールを睨むと、腹の底から抉り出すような声で質問する。
「テオドール……私は見ての通り極めてよく出来た人間だ。いかに理不尽と思える事柄でも、その理由が納得のいくものであるなら、むやみに感情を荒立てたりはしない。さて、その上で質問だが、何故に私の貴重な嗜好品を葬った!」
言い終わるや、露の間も空けずにテオドールの壮絶な反論が返ってきたとき、アモンは自分の質問が完全なヤブヘビであったことに気づいたが、もはやそれは遅すぎた。
「質問をお受けしたのでしっかりとお答えいたしましょうバカ公爵。貴方の無神経に振り回されるお煙草のおかげでこの城のあらゆる布製品は甚大な被害をこうむってきたのをよもやご承知でないはずはありませんよね。ベッドのシーツしかり、カーテンしかり、絨毯しかり、そして今、貴方が着ておられる上着は一体何着目だと思っておいでですかね!」
鼻先にでもぶつかる勢いで迫りつつもまくしたてるテオドールの言い分は、困ったことに全く異論を挟む余地の無いものだった。気づくと、窓際まで追い詰められたアモンは陽光に照らされ、まさに苦虫を噛み潰したような顔でテオドールを見上げている。
従者はそんな主人を静かに、そしてことさら冷たい視線で見下している。
アモンは思わず、外から聞こえてくる小鳥のさえずりまでが腹立たしく感じられた。