影に踊る不穏 (6)
闇夜を切り裂くような悲鳴がアモンの居城を包んだのは、すでに賊の剣がアモンの首にかかる寸前のことだった。
悲鳴?
誰の?
地面に視線を落としたまま、アモンは死を目前に単純な疑問を感じていた。
テオドールの声ではない。かといってアルセイデスのものでもない。
では誰だ?
この絹を引き裂くような耳障りな叫び声は誰の……。
緊迫した状況のためか、ひどく不明瞭な時間感覚の中、アモンが疑問に囚われていると、突然、目の前で自分の首を狙っていた賊の足が膝から崩れた。
「……大丈夫ですか? 殿下」
妙に落ち着いたアルセイデスの声が庭の辺りから聞こえてきた。
アモンは痛む脇腹をかばうように、ゆっくり上半身を起こす。
見ると、追いついてきていた賊二人は目の前で完全に事切れていた。
続き、首を回して庭の辺りに目を向けるとアルセイデスが汗を滲ませた笑顔でなにやら手に持ってこちらを見ている。
マンドレイクだった。
一足先に庭へ逃げていたアルセイデスは、とっさにマンドレイクを引き抜き、賊を仕留めたらしい。
「……なるほど、お前のマンドレイク対策は本物だったか……」
「公爵っ!!」
気づくと、背後にいたテオドールが目の前に回り込んでいた。
心配そうにアモンの顔を覗き込むその目は涙が溜まり、今にもこぼれそうになっている。
「何を泣きそうな顔をしている。賊はアルセイデスが始末した。もう心配はいらんだろ」
「でも、公爵……その傷……」
「たかがかすり傷一つに大げさだというんだ。もしこの程度で死ぬとしたら、私はお前に殴りつけられるたびに死ななきゃならん……」
言い終わらぬうち、
テオドールは急にアモンに抱きついた。
「バ、バカ、放せ! 傷が、傷が痛む!」
必死にテオドールを引き剥がそうとしたその時、耳元のテオドールの口から嗚咽が漏れるのを聞いたアモンは、一瞬の驚きの後、静かに抵抗を止めた。
マンドレイクの悲鳴はとうに消えている。




