影に踊る不穏 (5)
「……ほんとにこれで大丈夫なのか?」
テオドールの痛烈な一撃からようやく回復し、アルセイデスのマンドレイク対策が完了した後も、アモンはなお疑念を抱かずにいられなかった。
何故なら少なくとも自分の知る限り、マンドレイクの毒性音波に対する対策などまだ発見されていないはずだったからである。
「大丈夫です。信用していただくしかありませんけど、これで本当にマンドレイクについては心配無用です」
アルセイデスには珍しく、断言する口調であった。
「まあいい。というより信用する以外、他に選択肢なんて無いんだしな」
不満と不安を綯い交ぜにした表情でアモンが言う。
すでに応接室での対策会議と対策自体は深夜にまで及んでいた。
「さて、それじゃあこれにて今日は解散とするか。テオドール、アルセイデス、お前たちも早く寝……」
「……しっ!」
言い終わる手前。突然、アモンの言葉をさえぎり、テオドールが周囲を探るようにゆっくりと首を動かし始める。
といっても、目は動いていない。耳を澄ませ、何かを聞き取ろうと集中していた。
そんなテオドールへアモンが怪訝な顔をして今にも再び口を開きそうになったその瞬間、
「賊です!!」
叫ぶように一声を放つや、
声へかぶさるように応接室の戸が乱暴に開けられ、突如として四人組の覆面姿の男たちがそれぞれに剣を持ち、床を踏み鳴らして室内になだれ込んできた。
四人組は全く迷い無く、アモンへ向かって突進してくる。
「殿下!!」
アルセイデスがアモンに向けられた四本の剣のうち一本を己が身で防ごうとしたその時、アモンはそのアルセイデスを肩で押しのけると、まさに今、自分の座っていた椅子を蹴り飛ばし、賊たちの足を一瞬止めた。
「二人とも、さっさと逃げろ!!」
叫びながら、転がるように暖炉へ飛び退ったアモンは脇へ掛けられていた火掻き棒を手にすると、テーブルを遮蔽物にして賊たちと距離を取ろうとした。
が、賊たちは二手に分かれてテーブルの左右からアモンへ向かってくる。
「公爵!!」
「いいから外へ逃げろ、早く!!」
鬼気迫る声で叫ぶアモンに、アルセイデスは決心して玄関へと走った。
しかし、テオドールはその場に留まって動かない。
「ったく、この分からず屋がっ!!」
言い終わらぬうち、左右から迫っていた賊はアモンへ一斉に剣を振り下ろす。
と、それを待っていたかのようにアモンは素早くテーブルへ飛び乗ると、一気に出口付近へ転がり落ちた。
咄嗟、同じように賊たちもテーブルへ飛び乗る。
それを確認するや、アモンは転んだ姿勢から床を滑るようにテーブルの下へ入り、
「ぬっ……うらぁっ!!」
渾身の力を込め、押し当てた背中でテーブルをひっくり返す。
賊たちは一瞬にして全員が床に転げ落ち、アモンは出口で固まるテオドールの手を掴むと強引に玄関へ向かう。
「あ、あの……」
「やかましい、今はただ走れ!!」
玄関はアルセイデスか、もしくは賊によってか、完全に開け放たれており、二人はドアを開ける手間無しに直接城の外へと走り出ることが出来た。
だが二人が玄関を出ようとしたその時、一人早くも追いついてきていた賊の剣がアモンへ向けて突き立てられた。
「後ろ!!」
テオドールの言葉に即反応し、踵を返したアモンは火掻き棒で賊の突きを打ち払う。
しかしさらにその賊の背後から追いついたもう一人の賊の突き入れてきた剣は、アモンの右脇腹を浅く切り裂く。
「くっ……!」
浅い傷とはいえ、広い範囲で脇腹を切られたアモンは、苦痛と息切れでついにその場に膝を屈した。
さらにそこへ最初に追いつき、剣を一度は払われた賊が構えなおした剣を振り上げると、うずくまるアモンの首を目がけて一気に振り下ろす。
(最期……これが私の最期か……しまらない終わり方だ……)
背後のテオドールが何事か叫んでいるようにも聞こえたが、もはやその内容を聞き取る力は残っていない。
振り下ろされる剣の気配を感じつつ、アモンはすでに覚悟を決めていた。




