影に踊る不穏 (3)
お茶を飲み終えたアモンは、腹ごなしといつもの日課を同時に済ませようと森へと向かうことにしたのは、とうに正午を過ぎた頃であった。
「おや、殿下。今日は少々ゆっくりですね」
普段でも十分すぎるほどゆっくりだが、今日は食事を取っていた関係でなおのこと散歩の予定が遅れ、すでに日はわずかながら西に傾いている。
「私だってのんびりしたい時もあるんだよアルセイデス。ところで最近は妙なものは植えていないようで感心だな。何よりなことだ」
このアモンの言葉を聞くや、何故かアルセイデスは微妙に主から目を逸らす。
まるで(私には、やましいところがございます)とでも自白しているように。
「……アルセイデス?」
「……ははは……」
「はははじゃない。なんだ、何かあるならはっきり言え」
しばらく何事か考え込んだ様子のアルセイデスは、思い切ったように話を切り出した。
「……実は、ちょっと珍しいものを植えようかと思っていたんですが、それが……その、ちょっとですね……」
「いいからはっきり言え。別にまだ植えたわけでもないだろうに、それだけで私もむやみに腹を立てたりはせんよ」
「いえ、もう植えてしまったんです……」
アモンはしばし無言でその場に固まった。
そして、
「……分かった。済んだことは仕方が無い。それについては別に話すとして……だ、アルセイデス……何を植えた? 一体、何を植えたっ!!」
冷静に話していたはずのアモンだったが、徐々に理性が感情に押され、終盤はすでに怒声のようになっていた。
その様子へ、さらに口ごもるアルセイデスも最後は観念して一言、
「……マンドレイクです……」
おずおずと答える。
途端、アモンは先ほどよりも長く無言で硬直してからつぶやいた。
「マンドレイク……」
植物についての知識ではアルセイデスに数段劣ることは自覚しているアモンでも、さすがにマンドレイクほど知名度の高いものは知っていた。
悪い意味で。
マンドレイク。
スイレン科の多年草。毒性が強く危険だが、実の部分には麻酔、催眠作用。
根には強力な治癒能力促進、強壮作用のある薬草の一つ。ここまではいい。
ここまでは今後、薬草として有用な使い道が存在するのは自分にもよく分かる。
しかしマンドレイクはそのあまりの特殊性から、その薬草としての有用性をもってしても一般的には一切扱われていない。
それは、
「抜いたら死ぬんじゃなかったのか……?」
この理由ゆえである。
「……ですね」
苦笑いのアルセイデスが答える。と同時、
アモンはひと際大きく息を吸うと、まるで堰を切ったように大量の言葉を吐き出した。
「ですねか……ですねってことは抜いたらやはり死ぬわけだな。ああ、知ってるさ、マンドレイクは抜いたら死ぬなんてこと、薬草学では初歩の初歩だからな。でだ、なんでその抜いたら死ぬなんてものをわざわざ植えた? というか、なんで抜いたら死ぬものをお前が持ってた? いや、それ以上になんでせっかく抜けてたマンドレイクをもう一度植える必要がある? 自殺か? 自殺願望でもあるのか? それで一体誰が得するんだっ!!」
その日、結局アモンは日課の森の散策に出かけなかった。
代わりに、城の庭園には日が暮れるまでアモンの尽きること無い雑言が響き続けた。




