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Nympholic Amon  作者: 花街ナズナ
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影に踊る不穏 (1)

ベルディニオの首都、ラーゲルレーフ。


そこには国王の政務を補佐する政治の中枢機関、中央議会を始めとして各種官庁、伯爵以上の貴族の居城、何よりも国王陛下の居城が存在する、まさにベルディニオの要である。


俗に(中央)の呼び名で言い表されるこの土地は、アモンにとっては生まれてからの大半の時を過ごした故郷であるのと同時に、若かりし頃に家族を失い、後に政治的陰謀によって退去を余儀なくされた苦い思い出の地でもある。


そんな首都、ラーゲルレーフのとある屋敷の中で、二つの人影が薄暗いランタンの灯火に照らされながら、何やら密談をおこなっていた。


「……ことは迅速に進めるべきですエイモス卿。すでに奴らの旗印であるアモン公爵は完全に失脚した。これを好機として、一気呵成に状況を陛下に有利な形へと持ち込むのが、我々親王派の今、取るべきもっとも最善の道と私には思われますが……」


エイモスと呼ばれた人影は、声の主に深くうなずいて答える。


「確かに……今は我らに情勢を傾ける絶好の機会であるという見方は私も同意見だ。それで、具体的にはどのような策をお考えですかな、イジドール卿」

「すでにいくつか策は講じてあります。まず、目先の障害であるあの忌々しいカポーティ侯爵、それに人民院のルイスやジョルジュといった連中にも、それぞれにふさわしい者どもを差し向けました。奴らの命運も今夜を限りと申し上げても良いかと……」

「……ほお、さすがはイジドール卿……」


自分の想像以上に行動的なイジドールに、エイモスは素直な賛辞を贈った。


「全く、昨今の中央議会はどうかしている……貴族院も人民院も、まるで議会を自分たちのものだとでも勘違いした輩ばかりで、我ら執政院や元老院をないがしろにしおって」

「まことにもって、由々しき仕儀と存じます……」


苦々しく顔を歪めるエイモスに賛同しつつ、イジドールは懐から一通の書簡を取り出す。


「ところでエイモス卿……」

「……?」

「実を申しますと、まだ今一つ考えていることがございます」

「はて……今一つのお考えとは、また一体……?」


エイモスの疑問に対し、イジドールは取り出した書簡を開くと、その内容を見せることで答えとした。


「これは……?!」

「……まさしく」


差し出された書簡に目を通し、エイモスは驚きと歓喜の感情を露わに深くうなった。


「……うむ、あの御方から直接の御下命とあらば、もはや手立てにこだわっている時ではないか……イジドール卿、貴方のことだ、すでに手筈は整えておられるのでしょうな?」

「それはもちろん……」


ほのかな光に照らし出されたイジドールの顔に、いやらしい笑みがこぼれる。


「……まずはこちらにて少しばかりの細工をしようかと考えております。今日、手の者が始末をつける不敬の輩、三名の死を、書簡にて送りつけようかと……」

「むう……」

「此度は、相手の御命を絶つ前に、存分の恐怖と絶望を感じさせて後、ことに及ぶが上策かと存じまして……」

「……ふふ、貴方も相当にお人が悪い……」


暗い屋敷の部屋に、小さくも不気味な笑い声が木霊する。


と、突然、


「……差し出がましゅうはございますがその件、書簡に記載の内容に限って行動なされるよう、ご忠告申し上げます……」


いつの間に部屋へと侵入したのか、新たな人影が二人へ向かい、語りかけてきた。


「なっ……!」

「だ、誰だ!!」


明らかに狼狽した二人を落ち着かせるように、声の主はゆっくりと必要な事柄を話す。


「ご懸念は無用にございます。私はレイモン・ブレーズ。身分は……改めて言わずともご承知でしょう……書簡の内容に対するお二人の動向を少々確認するため、使いとしてまいりました。どうやら、正解だったようですな……」

「レイモン……ああ、レイモン卿にございましたか」


名乗った相手の正体を知り、エイモスが安堵の息を漏らした。


「それにしてもレイモン卿。わざわざこのような場所まで足をお運びいただいたのは恐縮ですが、その……書簡の内容を云々というのは、一体どのような意味にございますか?」


急な客人の到来に加え、その説明にいささかの困惑を感じたイジドールが問う。


「は……主の申されましたところによれば、ことの成就を目指すに際し、極力無用な活動を避けるようにと、そのように仰せにございます」

「それは……」

「書簡を送ること、それ自体は構いません。しかし内容は最低限であるべきです。不必要に敵へ多くの情報を流すような真似はお慎みくださいと、そういうことです。戦においてもっとも犯してはならない愚行は相手を軽んじ、甘く見ること……」

「……」

「『功を急ぎて愚を生じ 功を誇らばなお悪しく』。故事に習い、お二方にはくれぐれも慎重な行動をお願い申し上げます……」


口調こそ柔らかではあったが、誰から受けたものか、命令に対する絶対的な服従から来る威圧感が言葉の中に練りこまれているようで、二人はただ静かにレイモンに対してうなずくよりほかは無かった。


「それに」

「?」

「……最悪の場合すでに我が主、御自らがことに当たる用意があると、かように申されておられました」


この晩、エイモスとイジドールが得た情報の中で、それは最も希望に満ちたものだった。


ただし、それは大多数の人間にとってはまるで漆黒に塗りつぶされた希望と見える手合いのものであったが……。


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